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青龍国物語  作者: 瑞佳
第一部 「龍王の伴侶」
37/38

5年後 -妖獣の森の黒い獣 (前) ー

シクシクシク……シク……耳元で物悲しいすすり泣く声にユンロンは意識が浮上する。


 (誰かが泣いている……もしかしてアオイ様?)


 結界に閉じ込められ、この世を儚んで悲しむ藍の姿が思い浮かぶ。


(泣かないでアオイ様……私まで悲しくなります…今お側に参りますから……。だから……)



 「この浮気者!!」



 (えっ……浮気者??)


 一瞬ユンロンは藍に言われたのかと驚くが、声が少女のモノだと気が付く。


 「だから違うって言ってるだろう!第一あれは男だと何度言ったらわかる!」

 「うっ…だってあんなに綺麗なんだから、男でもいいんでしょ! だから此処に連れ込んで、私に見せびらかして………うぇ~~~ん~ えん~  追い出そうとしたんでしょ…ひっく」

 「参ったな~ 俺の惚れているのはお前だけって毎日言ってるだろ~、拗ねて無いで、こっちに来い」

 「あっ……ダメ」

 「ほら、口を開けろ」


 クチュウ……ピチャツ……


 「っぁ、やっ……んっ」



 聞こえてくるのは男と女の濡れ場のようだと知ったユンロンだが状況が良く理解できなかった。全身がしびれて思考もはっきりしないが、重い瞼を開き、動かせない頭を何とか音のする方に動かした。するとそこには、あの黒い妖獣の後ろ姿と、その上に跨る少女の姿。

 茫然と見ていると、瞳を潤ませ顔を赤らめ、妖獣と口づけを交わす少女とユンロンの視線がかち合う。


 「「 …… 」」


 無言で暫らく見詰め合うが、一瞬で真っ赤な顔になる少女。


 「キャア―――――― !!! 」


 突然少女は悲鳴を上げ、妖獣の胸に顔を埋め隠れてしまい、妖獣も此方に気付いたようだ。


 「チッ! 良いとこだったのに…」


 残念そうに妖獣は膝から少女を降ろすと、ユンロンが寝ている粗末な寝台に近付く。そして未だに虚ろな瞳のユンロンの顔を覗き込み、後ろで少女は心配そうに伺う。


 「もう気が付くとは、想像以上に化けものだな龍族は」

 「貴方こそ、少女趣味とはとんだ獣ですね」


 徐々にはっきりして来る頭でユンロンらしい言葉で返す。


 「お嬢ちゃんは、綺麗な顔に似合わず言うな~ 」


 すると後の少女が、妖獣の言葉に反応して喚きだしてしまった。


 「やっぱり女の人だったんだ~~~。うぇ~~~ん 」

 「ゲッ! ほら、これを見ろ!こんな胸の無い女がいるか?」

 「!!」


 慌てふためいた妖獣は、あろうことかユンロンの衣服の前を割り開き胸を顕わにさせる。そして証拠とばかりに少女の目の前に晒した。


 ピシッ!っと何かが凍りつく音が洞窟に響く。

 それは、余りの恥辱にユンロンの神力が暴走してしまい、瞬時に妖獣を凍りつかせてしまった。しかも妖獣を中心に洞窟一帯を氷に変えてしまうが、何とか人間の少女は凍らせずに済んだようだ。


 「ひぃー――!! ジィーンー大丈夫、どうしようコチコチになってる!? うっわあぁーーああんーー、うわぁあーーんあーーーん」


 少女は氷漬けになった妖獣に取りすがり泣きだしてしまう。妖獣など永遠に凍らせておいても良心は一向に痛まないが、この世の終わりのように泣く少女が憐れになって来った。ユンロンは仕方無く体を起し体の中の気を整え妖獣の毒を体から抜く。次に妖獣の体に触れると、氷は瞬く間に融解し空気に四散して行くと、体が自由になった妖獣が泣き綴る少女を抱きしめながら、此方を睨んでくる。


 「ミンミンを殺してたら、ただじゃ済まなかったぞ龍族」


 妖獣は自分のされた事より少女の為に怒りを露わにし、ユンロンを射殺さんばかりの殺気を込め睨みつけた。明らかに妖獣は人間の少女を自分より大切な存在として扱っていた。


 (妖獣が人の子を愛するとは意外。本当に妖獣なのか)


 「貴方が私を突然襲うから悪いのです」


 ユンロンは意味深く妖艶と微笑んだ。


 「人聞きの悪い事を言うな!ミンミンがまた勘違いするだろ」


 余程少女が可愛いのだろう、必死に誤解を解こうとする姿は、人間のようでとても妖獣とは思えない。ユンロンは妖獣と人間の少女の不思議な取り合わせに興味が湧く。


 (どうやらこの妖獣の弱みは、この少女らしい)


 ユンロンは少女の小さな手を取り、ジーッと見詰めて優しげに微笑む。


 「ミンミンさん、私には別に愛する人がいますから、このジィーンとは何の興味もありませんのでご安心ください」

 「あっ、はい!」


 まるで氷の彫像のように美しく煌めくユンロンの顔を間近で見た少女――ミンミンは顔を赤らめてうっとりする。その様子を見た妖獣は嫉妬丸だしで、自分の腕の中にミンミンを閉じ込める。


 「お前、生悪すぎるぞ! 体が元に戻ったんなら出ていけ―――!」


 妖獣は大声で怒鳴り、まるで厄介払いをするように追い出し始める。


 「私も好きで此処にいる訳ではありません。貴方が勝手に連れ込んだんですからね。結界の場所を教えて下されば、直ぐ出て行ってあげます」

 「知らない物を教えられる訳無いだろう」


 妖獣は嫌さそうな顔して教えようとはしないが、ユンロンは絶対に結界の場所をしていると確信していた。


 「それなら分かるまで此方にお世話になります」

 「出て行け!」


 ユンロンがニッコリ微笑み居座ると半ば脅しを掛けてみると、苦虫を潰したような妖獣の顔に心の中で哂ってしまう。妖獣ならば力づくで追い出しそうなものだが、黒い妖獣にその気配は無かった。


 (しかし……本当に変な妖獣。案外お人好しそうなので利用できそうだ。アオイ様を探し出すのに協力させる為にも、先ずこの少女に取り入るのが一番のようですね)


 ユンロンは少女と会話して仲良くなるなど造作もない事だ。龍族にしろ人間にしろ女性は話好き、この森でこの妖獣と二人暮らしなら、さぞ会話に飢えているだろうと当たりを付ける。


 早速、妖獣は無視し少女にら笑いかける。


 「申し遅れましたが私はユンロンと申します。ミンミンさんの迷惑でなければ、しばらく御厄介になっても宜しいですか」

 「はい。どうぞ」

 「こらミンミン! 俺は許さんぞ」

 「お客様なんて初めてだもん。二、三日くらいいじゃない」

 

 ユンロンはすかさず「有難うございますミンミンさん」と礼を言いう。それから間をおかずミンミンに話し掛け、ユンロンの問いかけに嬉々として色々答えてくれる。そして妖獣は憮然としながらも大人しく見ていた。

 ミンミンは純朴な田舎の少女で、人間にありがちな茶色の髪に緑の目、そばかすが有り愛嬌のある顔立ちの十五歳前後。何でも七歳の時、この近くの村から生贄として妖獣の王に捧げる為、森に放り込まれたのをこのジィーンに拾われたらしい。つまり養い子に手を出してしまった駄目な大人の見本。もし無理やり妻にしたなら氷漬けにして永遠に眠らせようと考えたがミンミンの話を聞く限り合意のようなので黙認した。

 

 ミンミンの話を一通り聞いた後に、ユンロンは少し脚色をして、捜しに来た藍の話をした。


 「グスン…グスン…グスン… 」ミンミンは涙ながらにユンロンの話を聞い終えると酷く同情する。


 「それじゃあ、ユンロン様は龍王様に閉じ込められた恋人を探しにこの森に来たんですね~うぇ~~うっぐ… 」


 それを胡散臭そうな眼差しで見やるジィーン。


 「ミンミンさんも大変な目に会ったのですね。こんな男と暮らして大変ではありませんか?」

 「ううん。ジィーンは優しいよ!とっても良くしてくれるの」


 頬を染め恥じらう少女は、とても愛らしい。その姿にユンロンは、藍もよく恥じらうような仕草を見せていたのを思い出し切なくなる。


 「お二人は仲が良くて本当に羨ましい…私も早くアオイ様にお会いしたい…」


 ユンロンは芝居で無く本気でそう呟く。そして悲しげに俯くとミンミンはジィーンに向かい懇願する。


 「お願いジィーン。ユンロン様と一緒に探してあげて!」


 うんざりした表情を見せる妖獣だが、「分かったよ……この腹黒お邪魔虫をとっとと追い出したいからな~」

 「ありがとうジィーン。大好き!」


 まさかこうもあっさりと了承すると思わなかったユンロンは拍子抜けすると同時に訝しむ。その場しのぎの嘘で、どうもこの洞窟から引き離す手段に思えてならなかった。


 「そうと決まれば行くぞ龍族! ぼさっとしてると置いてくからな」

 「あっ、はい」


 黒い妖獣ジィーンに急かされユンロンは毒が抜けたばかりの体で立ち上がり、足早に洞窟から出て行くジィーンの後ろに付いて行くしかない。


 (余程、私を追い払いたいのだな。だが私が簡単に引き下がるつもりはありませんよ)


 ユンロンはジィーンの後ろを睨みつけながら、必要とあれば一戦交える覚悟をする。

 洞窟の外に出ると、意外な事に日は頭上にあり昼間――妖獣が出歩く時間では無い。

 だが日の光を浴びるジィーンは人間のように平然としており、服をチャンと着ていれば人間と変わらなかった。


 「貴方は、陽の光に当っても大丈夫なのですか」


 一般的に妖獣は夜にしか活動しないので、陽の光に当ると死んでしまうと信じられていたのだ。しかし、この妖獣――ジィーンには当てはまらないようだ。


 「俺は特別だ。俺って色々規格外な存在だからな~」

 「そのようですね。ですがミンミンは普通の人間。妖気を発する貴方と居て影響は無いのですか? しかも命の重さが違う人間と情を重ねるとは、余り賢い選択とは言えませんよ」


 人間の命は儚い。ミンミンと共にいられるのは長くて精々四十年ほどしかなく、悲しい別れしか待っていない。残された者の悲しみは愛の重さに比例する。


 「言ったろ~、俺は規格外だから問題無い。ミンミンとは既に伴侶の契約は結んで百年近く連れ添ってるぜ」

 「!!」


 重大な事を普通に告げる妖獣にユンロンは驚愕する。


 龍王ですら自分では伴侶の契約を結ぶ事は出来ない。つまりジィーンより力のある妖獣の王が存在し、龍族に匹敵するかそれ以上の力を持つ妖獣が大勢いるならばかなりの脅威だ――今までは力のある害獣ぐらいの認識が大きく崩れてくる。


 「貴方が妖獣の王だと思っていたのですが、違うのですか?」

 「妖獣の王? そんなもん存在しないぜ。俺はこの森の管理者で、妖獣共があんまり悪さをしないように監視をしてる。昨晩もお前がこの森に入り込んだせいで、妖獣共が興奮しちまって押えるのが大変だったんだぜ~。 お前があのまま森にいたら、次々襲われ続けるのは良いが、妖獣の数が大量に減らされても困るんだ」


 妖獣の数が減ると何かが起こると匂わすジィーン。


 「この森には何か秘密があるんですね」


 ジィーンは不敵に笑う。


 「この森は禁忌だ。俺は忠告しただけで深い追求は止めときな……良い子にしてんなら結界の場所を教えてやる」

 「矢張り知っていたのですね。ですが、どうして急に教える気になったのです」


 てっきりこのまま追い返されると思っていたが、本気でジィーンが教えてくれると知り、不思議そうにユンロンは訊ねた。


 「お前しつこそうだし、お前が居たらミンミンが人間の世界に戻りたがったら困るんでな」

 「ミンミンは既に貴方なしで生きられないように見えますが」

 「心など案外簡単に移ろうもんだ~。だから俺はどんな小さな芽も潰して置かないと安心できねえ」

 「それなら、私をこの場で殺しておいた方がいいのではないですか」


 ユンロンはジィーンに底知れない力を感じており、やり合っても勝てる気はあまりしない。


 「龍族を殺すと色々問題があるだろう。一応、此処は青龍国だからな…俺はミンミンと平穏に暮らせればそれでいい――そこんとこ宜しくな丞相様」

 「知ってらしたのですか」


 (妖獣のくせに私を知っているとは驚きだ。まさか青龍国の政情を調べているのか? 中々侮れない妖獣だ)


 「話は此処までだ、結界まで一気に駆け抜けるぞ、付いて来い」


 ジィーンは凄い速さで木々の間をすり抜けて行き、馴れないユンロンは付いて行くのがやっとだったが、藍に会えると思うと服が所々破れようが気にならなかった。

 かなりの距離を移動し、漸く着いた場所には、木々が広がるばかりのただの森の中だった。しかも故意に森を彷徨って迷っている風にも感じ始める。そしてジィーンが突然立ち止まり、木々が生い茂る場所を指す示す。


 「ここが結界の境界だ」

 「ここが?」


 (何処に結界があるのだ。何の力も感じない……私を謀っているのではないか)


 ユンロンは不審げにジィーンを睨みつける。


 「おいおい、そんな怖い顔をするなよ~ 別嬪さんが台無しだ」


 相変わらずのふざけた態度に矢張り冗談かとユンロンは怒り心頭になった。


 「何処に結界があるのです! あまりにふざけるなら私にも考えがありますよ…貴方は既にあの少女という弱みを私に知られてるんですから」

 「ほー、 それを言うなら俺もアオイという弱みを握ってるぜ」

 「!」


 お互い睨み合うがジィーンが先に折れる。


 「チッ、とんだ生悪女に引っかかった気分だぜ。いいか良く聞け。確かに此処に結界が存在する。見ていろ」


 ジィーンは石を拾うと木々にむかい投げつけると、石は木を突き抜け消えてしまう。確かに何かの力が張られているようだ。


 「試しに、そこを通り抜けてみな」


 ユンロンは警戒しつつ、自分で結界を通り抜けてみる。

 先ず手を伸ばすと、吸いこまれるように手が消え見えなくなり徐々に体を滑り込ませると、何故か元いた場所に戻っていた。


 「面白い結界だろう。しかも鏡の様な性質を持っていて、どんな力も跳ね返しちまう。その上その力が大きいほど結界の反発力は強く作用する。だが、害の無い小動物は、まるで結界が無いように通り抜けられる不思議な結界だ。幾ら青龍国の丞相様でも結界を通るのは不可能だぜ~」

 「そんな事やってみないと分からないでしょ!」


 ジィーンの言葉を鵜呑みにするほどユンロンは素直では無く、何より藍に一目でも逢いたいと言う心が急く。ユンロンは両手をあげ全開で神力を圧縮して練り上げる。すると青白く光る光球がどんどん膨れ上がると一抱えほどになった。


 「バカ、止めろ!!」


 制止の声を無視したユンロンは、結界に向けて吹き飛ばす心算で光球を打ちはなった。


 ドッドゥードット―――ン! と凄まじい爆音と爆風が起こり、土と粉塵が舞い上がり視界が遮られた。暫くすると粉塵が治まり静寂が戻るが、結界は壊れれはいなかった。

 そして放った神力は其のまま結界から跳ねかえり自分に向かって来るが、神力を放った直後自分達の周りに結界を張って置いた為に二人は無事だったが、辺り一面の木々が広範囲で引き倒されている。


 「ウワァ~~~、森を破壊するんじゃね――ぞ―――!!」


 惨憺たる森の状態を凄い形相で怒鳴り始める妖獣。


 「貴方の言った事は事実の様ですね…如何すれば結界を通れるか教えなさい」

 「俺にだって出来ね―よ!! この結界を張った龍王に言え!!」

 「そんな事が出来る訳無いでしょ。なんて使え無いのです!」

 「俺は、お前の部下じゃねえんだ!! 無理だと理解したらとっとと出てけ!!」


 漸く藍の居場所を突き止めたユンロンは、遠くからでも藍の元気な姿を確認しなければ引き下がれない。


 (会えずともせめて一目お会いしたい……)


 自分を阻む結界を破る事も出来ない不甲斐なさと、目の前に藍が居るのに逢えない遣り切れなさにユンロンの目から涙が次から次へと流れる。涙を流すなど己の弱さだと忌避していたが止められない。しかも妖獣の前で泣くなどあり得ないが、抑制がきかなかった。


 ユンロンは立っていられず、その場に跪き静かに涙を流すしか無かった。


 「アオイ様…会う事すら叶わないのでしょうか…… 」


 ポタリポタリと地面が涙を吸い取っていくが、徐々に龍王への憎しみに変わって行く。


 (陛下が憎い……全てあの方が悪いのだ! アオイ様が一体なんの罪を犯したというのだろう!)


 ただ龍王の捨てた契約の指環を偶然手にしただけで、あのような結界に囚人のように閉じ込めるなど許せない思いが大きく膨らむ。そして、どす黒い憎しみが心を満たし殺意に変わっていった。


 ――殺せ…


 ――龍王を殺せ。


 ――全てを壊せ!


 ――龍王が創り上げたこの国を!


 何処からともなくユンロンを唆すような声が心に入り込み破壊衝動が溢れだすのだった。



  「 ……殺す 」


 そう呟いたユンロンの目には禍々しい光が宿っていた。








 「あちゃ~ やっぱりこうなるか」


 ジィーンはユンロンの体にまとわり付くように黒い気に覆われて行く姿を見ていた。

 黒い気は地面から吹き出しユンロンの体に流れ込むと、蝕むように体が黒く染まって行く。流石にジィーンも暢気に見ている場合でなく重い腰を上げる事にする。


 「全く面倒なお嬢ちゃんだ」


 そう言いながら右手の爪を瞬時に伸ばし、体内で毒を精製する。ジィーンの血には、あらゆる毒と薬を作り出すことが出来る特性を持っていた。全ては妖獣の森を管理し守る為のもの。


 (俺の体はそういう風につくり変えられてしまった――あの忌々しい爺に)


 黒い気の支配を拒むようにしゃがみ込んで動かないユンロンの首筋に、精製したばかりの毒を爪を突き立てる。すると一瞬ビクリと体を震わせたユンロンはそのまま地面に横たわり気を失う。だが黒い気はユンロンに流れ込み続けていた。


 (このまま地下に封じられた奴に体を乗っ取られれば厄介だ。あの爺にどんな仕置きをされるか恐ろしいからな)


 この大地の乱れを治めなければ、この地に封じられた奴が復活し、妖獣達が活性化して増殖し手世界を埋め尽くす事になる。四神国が暗黒の時代を迎える事になる。


 (そんな事は、俺の知っちゃ事じゃないが、ミンミンとの生活を邪魔されるのはいただけないな~。それに爺の仕置きはマジ御免だ)


 「しかし、コレを元に戻すには大量の血が必要だな~ そんじゃ~行きますか」


 ジィーンは今が昼まで良かったと内心ほっとしていた。これが夜ならば妖獣達が黙っていなかったろう。


 「俺って貧乏くじばっか引いてるよな」


 ジィーンは躊躇いもなく左手の手首を刃となった爪で切り裂き、自らの赤い血を大地に流しこむ。


 黒い気が邪魔するように取り囲もうとするが、ジィーンの体に入り込めず弾かれてしまていた。


 ドクドクとジィーンの血が土に沁み込んで行くと、ユンロンによって破壊された森の大地がゴボゴボと音を立てて始める。


 「地の精霊よ我血を糧として大地を蘇らせよ」


 右手の爪を突き立て力を更に流しこむと、地鳴りが起こると共に、木々が凄まじい勢いで成長し始め、瞬く間に元の樹海の姿を取り戻すのだった。そして何も起こらなかったように静寂が戻る。


 「ひぃえ~ 流石に疲れちまった」


 大量の血を失ったジィーンはどかりとその場に座り込み、側で暢気に寝ているユンロンを見やる。既に黒い気は消え去り、黒く染まり始めていた体も元に戻っていた。


 「綺麗な顔してやる事が滅茶苦茶だな~そんなにアオイてのは良い女なのか?」


 そう言って結界がある方向を見詰める。


 (恐らくあの中では、今起こった事を全く感じず暢気にアオイと言う女が暮らしているだろうな)


 ユンロンの話を鵜呑みにする心算はないが、ジィーンはその話から藍に心底惚れているのは感じ取れ、情けで結界の場所を教えてやった。だがまさか、こんな無茶な事をするとは思いもよらず誤算だった。


 「しかしよ……龍王と丞相が同じ女をとり合ってるのか? 大丈夫かこの国」


 ジィーンには青龍国がどうなろうと関係ないが、この樹海を荒らされては堪らない。可愛いミンミンの待つ洞窟に帰る為に厄介者のユンロンを担ぎあげて上空に舞い上がる。


 (帰ってからミンミンといちゃついて疲れを癒すか~。どうせお邪魔虫は丸一日は寝ているだろう)


 厭らしい笑いを浮かべながらジィーンは愛するミンミンの待つ洞窟に向い飛び去った。





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