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本屋に就職決まりました!

作者:

ページをめくる音。

棚の本の背表紙をなぞりながらお目当ての本を探す足音。

一期一会ならぬ一期一本。

捜し求めたたった一冊の本を見つけて隠し切れない笑みをこぼすお客様たち。


 そしてそのお客様たちを青白い顔でレジカウンターで見つめ続けるわたくし。え~~っと大学まで出させていただいていたというのに就職活動に失敗した挙句フリーターという不安定極まりない立場になってご迷惑を掛けてしまった故郷のお父さんお母さんおねぇちゃんおにいちゃん。

 喜んでください。どうにか就職先が見つかりました。マイカはフリーターから正社員にジョブチェンジを果たしましたですよ!


え?就職難のこのご時勢、二十代後半がよく就職先見つけられたな?


HAHAHAHAHA!わたくしだって結構やればできる……。


 ……すいませんごめんなさい嘘つきました。わたくしだめだめな子です。実は職場は普通ではありません。ついでにいえばわたくしの姿が皆様の前から消えてしまっているのは誘拐でも家出も失踪でもましてや就職できないのを苦にしての人知れず自殺、とかでももちろんございません。(神経図太いので自殺するほど追い詰められることなどありえませぬ)


 わたくしの職場は日本ではございません。わたくしの今いる場所はみなさまが知らない場所です。というか多分、そちらの世界において”ここ”を知っている人は誰もいらっしゃらないと思います。はい。


 え?説明がぐだぐだ?要点のみをすぱっとしゃべれ?

 ……すいません。わたくしおねぇちゃん見たいにテキパキできないのですよ、ドンくさいのは基本ですよ。

 あと、比較対象が優秀すぎると思うのですよねぇ!けっ!


失礼。ぐだぐだ話さずに要点のみしゃべります。


異世界です。


……。

…………………………。


 あれ?今度は要約しすぎてわけがわかんねぇと?そうですか?すいません。わたくし昔から説明べたでして……つまり、ですねわたくし、異世界トリップなどというレアな体験をただいま絶賛体験中なわけなのですよ。


 ある日レンタルDVDを返しに行った帰り道に前日に降った雨でぬかるんだ地面に足を取られて真正面からすっころんで顔を強打。涙目で顔を上げたらあら不思議。見慣れた川沿いの小道が鬱蒼とした森に早変わりしておりました。


 何事が起きたのかと思いましたね、あの時は。ついでに言えばその直後、現在の上司でありこの世界の身元保証人でもあるお方との初対面まで迎えてしまったので混乱がひどかったですよ。


 何せ、上司さんの外見はわたくしの故郷にはちょっと生でお目にかかることのないビジュアルでしたからね!上司さんは……。

「会計を頼む!」

 おっとお客さまがお呼びです。ぱんぱんと頬を叩いて気合をいれますよ!

 そうしないとぶっ倒れますからね!

 最初の接客の時にやらかしたお客さまのお姿を直視してぶっ倒れてしまった販売員に有るまじき失態は繰り返しませんよ!

「い、いらっしゃいませ~~!」

 声が小さく、しかも語尾は震え、笑顔は引きつっているのが自分でもわかります。プルプルと震える手で見上げるとそこにはわたくしなど一口で飲み込めてしまいそうな巨大なトカ……いやいや立派な鱗にわたくしの肉などやすやすと切り裂いてしまいそうな爪の生えた手に赤い表紙の本を大事そうに抱えたドラゴンさんがカウンターの前に立たれています。

 鋭い歯が並んだ口を多分、笑っている?うん、笑っている、と思おう。顔の引きつりがより一層ひどくなった気もしないでもないですがきっと気のせいです。笑顔笑顔と呪文のように繰り返しながらもわたくしは接客を続けます。

 ドラゴンなお客さまの差し出された本はお客さまの体格にあった大きさでつまりはわたくしには巨大すぎる大きさなのですが不思議なことにその本に触れると見る見るうちに小さくなっていきわたくしの知っているハードカバーサイズの大きさになってしまいます。

最初見たときは驚きましたがこの世界では本が読み手にあわせて大きさを変えるのは当たり前のことなのだそうです。でも、驚きますよね?本が伸び縮みしたら椅子から転げ落ちてしりもちついたりしますよね!

 そんな無知な異世界人を指差して笑う上司さんって鬼畜ですよね!


ごほんっ!

 

 失礼。私語が過ぎました。仕事に戻ります。


 販売方法はわたくしの世界となんら変わりありません。代金を頂いて商品を袋に入れお客さまにお渡しします。(不思議なことにお客さまが触れた途端に袋ごとお客さまサイズに。何度みても不思議です)


「ありがとうございました~~」


 引きつり笑顔と震える声でほくほく笑顔のお客さまをお見送りします。


 もうお分かりでしょう。わたくしの職場、それは。


 ファンタジー色あふれる世界のわたくしの世界では想像上の生き物である竜が経営する竜のための本屋なのです。

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