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弱肉強食

眠い目をこすりながらギルドの前でエオリア達の到着を待つ。


「やぁ、早いね。感心、感心」


一番にやってきたのはエオリアだ。

続いてアンリエッタがやってきた。


「ジューゴさんと同じパーティになれるなんて嬉しいです。

一緒にがんばりましょうね!」


うむ、やはり可愛い。

背が小さく、オレを見上げる形で、その人懐っこそうな表情をオレに向けている。

だが、腰にぶら下げている剣は立派なものだ。

アンリエッタの様な小柄な子が、こんな大きな剣を扱えるのだろうか?

そんなオレの視線に気付いたアンリエッタは、その剣について語り始めた。


「私もエオリアさんに魔剣を買ってもらったんです。早く恩返しができるようにって思ってるんですが・・・。ジューゴさんに助けてもらった時も、それで無茶しすぎちゃって。・・・反省してます」


うむ、反省する姿も可愛い。

恩返しか・・・。めんど・・・いや、オレも見習って頑張ろう。


遅れてやってきたのは2人の男だ。

細目で長身の男がヒューディ、大柄な男がゴーントと名乗った。

今日はわざわざオレの為に初心者向けの依頼を受けてくれるそうだ。

エオリアの仲間は他にも何人か居るそうだが、皆、ベテランなのでお休みという訳だ。

ヒューディとゴーントもベテランの域だが、彼らは万が一の時の為に呼んだらしい。

引率の教師みたいなものか。

ということは、生徒はオレとアンリエッタという事になる。


受けた依頼はオークの討伐だ。

エオリアの希望はゴブリンの討伐だったが、城塞都市ボルグが陥落した事により、ギルドが発行する依頼は全てボルグに関連する依頼で占められており、その中でも今のメンバーで出来そうなのが、この依頼だけだった。


依頼はボルグ周辺で哨戒しているオークの一団を襲撃しろという内容だ。

エオリアの話では、近く王国の軍隊と冒険者たちによってボルグの奪還作戦が有るらしく、その為の陽動みたいなものらしい。

本格的な反攻作戦の前に敵を錯乱させようというのが目的だそうだ。

同じ依頼を受けた冒険者の数も多いようで、もしかしたらオーク達に遭遇する事なく一日が終わる可能性もあるようだ。


まぁ、オークに遭遇する事なく一日を終えても報酬は貰えるそうなので会わずに済めば、こんなに楽な仕事は無い。もちろん、倒した敵の分だけ報酬は上乗せされるらしいが。


「遭遇しないで済めばいいなぁー・・・」と思っていると、逆に遭遇してしまうものだ。やはり・・・出会ってしまった。敵はオークが6匹。


気が付けばエオリアがオークの一団に攻撃を加えていた。

続いて、ヒューディが槍を携えて突撃する。

ゴーントは斧を取り出して、オレとアンリエッタを守るように傍に立っている。


エオリアが、風をまとって跳躍する。

それは人の跳躍力を大きく超えていた。


「エオリアさんは風の魔法を操ることが出来るんです」


アンリエッタが説明してくれる。

風を味方に付けたエオリアは軽やかにオーク達を翻弄する。

その隙をついて、槍を持ったヒューディがオークに攻撃を仕掛ける。

ヒューディの槍はいつの間にか、禍々しい形状となっていた。


「ヒューディさんの槍は毒の槍なんです。なんでも、毒を持つ多くの魔物を、その槍で倒してきたとか」


またも説明ありがとうアンリエッタ。

かすり傷を負ったオークが泡を吹いて倒れる様を見る限り、その毒の効果は絶大な様だ。


戦いは一方的であっという間に、瀕死のオークが一匹残るだけとなった。


「さぁ、ジューゴ君。こいつを魔剣で止めを刺すんだ」


手には魔剣。目の前には怯えた様子のオーク。

なるほど弱らせてやったから、今のうちに魔剣を鍛えろという事か。


なんだか気に入らない。


オークの足元を見ると、オークが持っていた武器が目に留まる。

その斧の様な武器にも見覚えのある石がはめられている。吸魂石だ。


「弱肉強食ってやつですね・・・」

「その通りだ」


よく解ってるじゃないかと言わんばかりに爽やかスマイルを向けてくるエオリアに何だか言いようのない不快感を覚える。

なんだろう。これ。


「・・・やっぱり止めときます」

「何故だい?」

「人に言われるまま命を奪うってのは・・・出来ないです」

「そうか・・・」


無表情でオークに止めを刺すエオリア。


「あと、これ・・・魔剣もお返しします」

「それは・・・パーティを抜けるという事かい?

君が命を奪う覚悟が出来ないっというのは解ったけど、抜ける必要は無いんじゃないかな?」

「勝手で済みません。でも、もう少し一人で考えてみたいんです。それに命を奪う覚悟も無いオレは足手まといでしょう?」

「ふむ・・・。そうか・・・残念だ」


エオリアはオレが差し出した魔剣を受け取らずに暫く考え込んでいたが、静かに口を開いた。


「いや、やはり、それは持って行ってくれ。もし次に会った時、その魔剣を見れば君が出した答えが解るだろうから」

「そうですか・・・。じゃあ、お借りしておきます」

「ジューゴさん!行っちゃうんですか?」


アンリエッタに引き留められたが、オレの意思は揺らがなかった。

他者の命を奪うという事と、吸魂石が織りなす、この世界の理・・・。

そのショックはオレ自身が思っているよりも大きいようだ。


ハッキリ言えば、オレは怖気づいていた。


オレはアンリエッタ達に礼と別れを言ってから歩き出した。

ゆっくり考えたい事もあるし、エオリアの見えない所まで行って部屋に戻ろう。

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