マッキブ
次の日、再びボルグの街に訪れたオレは絶句していた。
目の前にあるのは瓦礫の山。兵士の死体。
跡形もない店の跡地に立ちながら、呟いていた。
「マッキブ・・・もう食べられないのか」
まるで戦争でもあったかのような風景の中、立ちすくんでいると声が聞こえてきた。
「おい!まだ人間が居るぞ!」
声の方向を見てみるとイノシシの様な顔をした亜人がオレを見つけて仲間に声を掛けている。
あれは、オークって奴かな?
続々と同じような顔をした奴らが集まってくる。
オレは急いで逃げ出した。もちろんオークたちは追いかけてくる。
逃げながら考える。
ボルグの街を、こんな風にしたのは奴らだろうか?
一様に同じような装備をしているのを見ると、魔王軍の兵隊なのかもしれない。
オレにマッキブを分けてくれた、おっちゃん・・・死んじゃったのかな?
おっちゃんの笑顔が脳裏に浮かぶ。笑顔・・・見た事ないけど。
実はオレ、持久力には自信が有る。
趣味の食べ歩きを続けながら、一定の体型を保つためにランニングをしているからだ。
オッサンくさいって? ・・・よく言われる。
そんなオレの(30%アップの)持久力についてくるのは、相当に大変らしく、街を出た後も追い掛けてくるオークたちは疲れ果てていた。
今なら勝てるかも。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・やっと止まりやがった・・・覚悟を決めたか?」
「あぁ、覚悟は出来たぜ?オッチャンの敵を討つ覚悟がな!」
先頭に居たオークを思い切り殴り飛ばす。
30%増しのオレの拳が唸る。
だが、調子が良かったのは最初だけで、武器を持ち、数も多いオークたちに次第に劣勢になってゆく。
「お前も、仲間の所に行きな!」
いや、別におっちゃんは食べ物分けてくれただけで仲間じゃないし。
・・・と思いつつ向かってくるオークを蹴り飛ばす。
しかし、背後から迫るオークに気付かず肩を切りつけられてしまう。
怯んだところに別のオークが襲い掛かってきた。
(あぁ、もう駄目か・・・さっさと魔法の扉から逃げ出しとけばよかった・・・。
でも、自分でも気づかなかったけど・・・オレ、頭に来てたんだな)
覚悟を決めて、自分に止めを刺そうと迫るオークを見ていると、そのオークに矢が突き刺さった。
そのオークだけでなく周りのオークにも矢が突き立てられる。
そして、逃げ惑う最後の一匹が倒れると、草むらから人間の一団が現れた。
自分を助けてくれた一団は冒険者たちだった。
昨晩から連絡の途絶えたボルグの街の様子を見てくるという仕事を請け負って来てみたら、オークに追われているオレの姿を見つけたということらしい。
一団のリーダーらしき人に礼を言っていると、見覚えのある女の子がオレの前に飛び出してきた。
「あっ!あのっ!私、アンリエッタです!前に助けて頂いた・・・」
「あぁ!あの時の!今度は助けてもらっちゃったね」
「いえ、そんな・・・。それにしても素手でオークの一団に挑むなんて凄いですね。
こだわりでもあるんですか?武器を持たない事に」
「いやー・・・。ただ、武器を買う金が無いだけだよ。あはははは・・・」
そんな取り留めのない会話に一団のリーダーらしい男が咳払いと共に割り込んできた。
「まさか知り合いだったとはね。積もる話もあるだろうが、君はボルグの街から逃げてきたのかい?ボルグの街はどうなってるんだ?」
「あー・・・。オレも良く解りません。街に着いてすぐにオークたちに追いかけられたもんで」
「そうか・・・。こいつらの鎧には魔王軍の紋章も有る。信じたくないが、ボルグは魔王軍によって一晩で滅ぼされたという事なのだろう・・・」
リーダーは仲間の方に向き直り決断を伝える。
「街の中の様子も調べたかったが、魔王軍が駐屯しているなら我々だけでは危険だろう。ギルドに戻って現状を報告しよう。君も一緒に来てくれるかな?えぇっと、名前は・・・」
「ジューゴです」
「ジューゴ君。一人で行動するのは危険だろうし、どうかな?」
「いいですよ。 ・・・ところで、これから行く街で美味いものって何ですか?
オレ、腹減っちゃって・・・」
「あ、あー・・・、ギルドへの報告に同行してくれれば、私が何か奢ろう」
「ホントに?やった!行きます!」
「アンリエッタ・・・。彼は変わった男だね・・・」
「あはは。結構、食いしん坊さんなんですね」
こうして、オレは冒険者の一団についていくことにした。
リーダー・・・エオリアと言う名の男が奢ってくれるという食事に想いを馳せながら、歩き出す。そして、ふと、後ろを振り返り呟いた。
「マッキブ・・・いつか食えるかな・・・?」