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竜とゴーレム

整然と並んだゴーレム達。数えてみると、その数は全部で49体だった。


大木が、そのまま動き出したかのような姿のウッドゴーレムが6体。

武骨な作りのストーンゴーレムが15体。

黒鋼の肌を持つアイアンゴーレムが28体


アイアンゴーレムの中でも、ひときわ大きいゴーレムの上に茶髪が立っている。

腕組みをして偉そうに、何やらゴーレム達に指示を出している。

こちらから見れば、整然と並んでいるゴーレム達だったが、茶髪は何が気に入らないのか、ほんの少しでも列から外れたゴーレムが居れば、それを正しているようだった。

・・・意外と細かい性格だ。


オレの方はドラゴン達・・・シルキス、ザーバンス、イリアが前に出ており、少し離れた後ろの方にオレを含めた、こちら側の陣営のメンバーが立っている。


「つ、強そうですね・・・アレは、どういうものなんですか?」


不安そうな声を上げるのはアンリエッタだ。


「多分、ゴーレムってやつだ。岩や鉄で出来た彫像に魔法で命を吹き込んだモノだ。まぁ、アレがどうやって作られてるかは知らないけど」

「岩や鉄ですか?硬そうですねぇ・・・」

「大丈夫!アンリエッタはクーデルが守ル!クーデルなら岩で出来てても、ぶった斬れるヨ! ・・・鉄は、ちょっと頑張らないと駄目ダケド・・・」


話を聞いていたクーデルが背負っていた大剣を抜く。


「とりあえず仕舞っとけ。出番があるかどうかは、まだ分からないんだからな」


若干待ちくたびれながら緊張感を保ちつつ、アンリエッタ達と話をしていると、ようやく茶髪が大声を張り上げて対戦の開始を宣言した。

やっと、準備が出来たのか。


「そんじゃ、約束通り瞬殺にしてやるぜ!第08小隊から第16小隊!砲撃モードに移行!速やかに砲撃開始しやがれ!第01小隊から第07小隊は全員突撃しとけ!」


指示を受けたアイアンゴーレム達の形状が変化して背中から大筒がせり出してきた。

そして、一重い爆発音と共に鉄球の様な砲弾が空に向かって放たれた。


ウッドゴーレムやストーンゴーレム達は走り出す。先ほどまでの緩慢な動きからは想像もしなかった速度でだ。

その地響きから彼らの質量の大きさが伺える。その大質量の突進を止めるのは困難であるように見えた。


アイアンゴーレム達が放った無数の砲弾が、こちらに迫る。

シルキス達が何とかしてくれる・・・そう思いつつも、耳に響く砲撃音に怖気付き、思わず盾を構えてしまう。

そんなオレの傍にリーディアがやってきて耳打ちした。


「我なら砲弾を全て撃ち落とすのも容易だが・・・どうする?」

「・・・いや、シルキスの言う通りドラゴン達に任せよう」


オレの判断は間違ってはいなかった。

イリアが飛び立ち、砲弾の雨に向かってゆく。

ジューシ姉ちゃんから聞いていた、イリアの進化後の種族名・・・シールドドラゴン。

その名前から推測するに、あの砲弾からオレ達を守ってくれようとしているのだろう。

だが、不安がよぎる。今も鳴り続ける砲撃の音は、降り注ぐ砲弾の数が決して少なくない事を示していた。


しかし、その心配は杞憂だった。

イリアの正面に光のシールドが展開され、あっけなく砲弾を防いだのだ。

光のシールドはオレ達をスッポリと覆っている。それは広範囲であるにも関わらず、砲撃を受けても歪みもしなかった。

結局、砲弾は1つとして地面に到達する事すらなかった。


「すごいな・・・砲弾を完全にシャットアウトしている」

「あぁ、我の魔弾を、どこまで耐えられるか試してみたいものだ」


リーディアと2人でイリアのシールドの効果に驚いていると、不意に寒気を感じた。

鎧の表面に触れてみると霜のようなものが降りている。その原因はシルキスだった。

無機質で透きとおった翼を大きく広げたシルキス。どうやら、その翼で周囲の熱を急激に集めているようだった。


シルキスが四肢に力を入れたかと思うと、シルキスの体が、ぼんやりと赤く光を帯びた。その光は、いまだにシルキスの内にありながらシルキスの体を透過して、外に漏れだしている。何事かと見守っていると、シルキスの胸の辺りの光は、胸・・・喉・・・と次第に移動していくのが分かる。


そして、シルキスがゴーレム達に向かって口を開くと強烈な光と共に極太の熱線が照射された。


その熱線の射線上に居たアイアンゴーレムは一瞬で溶解する。

ウッドゴーレムなどは射線上からは外れていたにも関わらず、全て炎上し、そして終いには動かなくなってしまった。


・・・そして、一瞬の静寂の後、熱線が照射された辺りを中心に地面の底をひっくり返すような爆発が起こった。

まるで、おもちゃの様に吹き飛ぶゴーレム達。


その凄まじい威力に、この場に居る全ての者が愕然とする。

ブラスタードラゴン・・・。

それがジューシ姉ちゃんから聞いたシルキスの進化後の種族名だった。


「・・・はぁっ!?な、何だ今のは・・・。あのドラゴンが撃ったのか!?ち、ちくしょう!砲撃は何だか分からねぇけど防がれるし・・・クソッ!!全部隊突撃しろ!あれだけの威力なら直ぐには撃てないはずだ!」


先ほどの爆風で吹き飛ばされたのか、茶髪はゴーレムの上に戻ろうと必死によじ上りながら叫んでいた。

確かに茶髪の言う通り、アレほどの熱線を連続で撃つのは無理が有りそうだ。

シルキスの体からは大量の蒸気が立ち上っている。

あれで恐らく排熱しているのだろう。

あんなものを何度も撃ったら、それこそシルキスの体が蒸発してしまうかもしれない。


そうしている間にゴーレム達が迫る。

大半が先ほどの攻撃で再起不能になったものの、まだ戦力を残していた。

・・・残りは19体だ。


あのゴーレム達の突進を阻まなければ・・・。

しかし、先ほどまで突進してくるストーンゴーレムを、その刃でスパスパ斬り裂いていたザーバンスの姿が見えない。


「あれ?ザーバンスは?」

「あ・・・そういえば、どこでしょう?」


アンリエッタも見失ったようだ。

そんなオレ達の傍に来たレヴェインが空を指さす。

その指し示した先には上空を飛ぶザーバンスの姿が有った。


「あのアイアンゴーレム達とはボクも戦ってみたかったけど、もうすぐ決着がつくようだ・・・」


ザーバンスはシルキスの攻撃のどさくさに紛れて敵の背後に舞い降りた。

敵の最後尾には茶髪が搭乗しているゴーレムが居る。

管理者である茶髪を倒せば勝負は決するのだ。オレはザーバンスの意外な計算高さに驚いた。


「ちっ、ちくしょう!勝った気になってんじゃねぇぞ!」


茶髪の喚き声がこちらにまで聞こえてくる。

その茶髪が乗ったゴーレムが、鉄の塊のような剛腕をザーバンスに向かって振るうが、ザーバンスは苦も無く、その腕を斬り飛ばした。

斬り飛ばされた腕はクルクルと弧を描いて飛んでいき、他のアイアンゴーレムに直撃する。そのゴーレムは頭部が完全に破壊され、もんどりうって倒れる。


他のゴーレム達を見ると、命令通りに突撃を続行するか、それとも自分たちの主人を助けに行くか悩んでいるように見える。

なるほど、これが「ちっとは意思ある」という事か?


マゴマゴしているゴーレムに向かってシルキスが2射目の熱線を照射する。

1射目と比べると格段に威力が劣るものの、それでも多数のゴーレムを屠っていた。


砲撃が止み、オレ達を守る必要が無くなったイリアも攻撃に参加する。

光のシールドを展開したまま飛来するイリアに弾き飛ばされるゴーレム達。


戦いは一方的だった。

ゴーレムが全滅するのが先か、それともザーバンスが茶髪に止めを刺すのが先か・・・。ザーバンスの方に目を移す。ザーバンスは相変わらずアイアンゴーレムを相手に刃を振るっている。

しかし、茶髪の姿が見えない。

茶髪が搭乗していたアイアンゴーレムは既に細切れになって倒れている。

少し焦りながら茶髪の姿を探す。


・・・居た。茶髪はザーバンスに踏みつぶされていた。

ザーバンスは、その存在に気付かないままゴーレム達と立ち回っているようだ。

・・・暫くするとゴーレム達の姿が消え始めた。

恐らく、ザーバンスに踏みつぶされた茶髪が事切れたのだろう。



「シルキス、もう終わったみたいだよ」


オレが声を掛ける。

するとシルキスは「そのようだな」と応えながら、大きく開いていた翼をたたんだ。

シルキスの周りには未だに蒸気が立ち込め、さながらサウナの様だ。


「どうだ、見たか?ワシの力を」

「あぁ、凄まじかった・・・でも、大丈夫か?」

「なに、大したことは無い。だが少し、張り切り過ぎたようだ・・・」


ガクリと膝をつくシルキス。

シルキスの巨躯を一人で支えられるはずもないが、思わず駆け寄って手を貸す。

シルキスの体は火傷しそうなほどに熱い。

そこへ、ザーバンスとイリアがやってきた。


「大丈夫ですか?シルキス様」


そう言って翼で風を起こし、少しでもシルキスの体を冷やそうとするイリア。

その甲斐あって、シルキスは徐々に落ち着きを取り戻していった。


「もう大丈夫だ。ありがとう、イリア」


対戦が終わると、参加者のコンディションはリセットされるのだが、まだ少し時間が掛かりそうなので、それまでの間、皆で先ほどの戦いについて、思い思いの言葉を口にする。オレが特に感心したのは茶髪を追い詰めたザーバンスの活躍だった。


「シルキスの力も凄まじかったけど、ザーバンスにも驚いたよ。シルキスの攻撃に敵が目を取られている間に敵の管理者に迫るなんて、ザーバンスって策士なんだな」


オレの賛辞にシルキスが唐突に笑う。


「な、なんだよ姉上!」

「あははっ!ザーバンスが策士か!大方、ザコ共の相手に飽いて、一際大きい奴に向かっただけだろう?」

「そうなのか?ザーバンス?」

「うぐ・・・」


言葉に詰まるザーバンスを見て、シルキスの見立てが的外れでない事を察する。

だが、勝ちは勝ちだ。それに策を弄さなくても負けはしなかっただろう。


「む・・・。戻ったようだ」


伏せていたシルキスが、むくりと体を起こす。

対戦による傷や消耗はリセットされたようだ。気付けば茶髪も体を起こしている。

さて、後始末をしよう。


狂戦士たちに協力してもらって、石碑の前に茶髪と金髪を集める。

箱庭の対戦に負けた方は管理者以外は消えてしまうが、勝った方のメンバーは残されるので、言う事をきかせるのは容易だ。

皆が睨みを効かせているので逃げる事も出来ない。


白石さんと、その兄がやってきたのを見計らって茶髪に話しかける。


「・・・白石さんから奪ったハーピーを持ってるのは、どっちだ?」

「そりゃ、俺だけど・・・」


そう答えたのは茶髪の方だ。

突っかかってきたから、なし崩し的に対戦する事になったが、好都合だったようだ。


「じゃあ、早速だが返してもらおう」


茶髪の石碑に触れながら「対戦にはオレが勝った!白石さんから奪ったハーピーを全員返せ!」と宣言する。

すると、2つの光が現れ、その中から美しいハーピー達が姿を現した。

2人のハーピー達は白石さんの姿を見つけて、驚いたような表情を見せた後、涙を流しながら思わぬ再会を喜んでいた。

その姿に思わず安堵と達成感を感じる。


・・・だが、奪われたハーピーは全部で3人だったはずだ。

頭を切り替えて、感動モードから拷問モードに戻す。


「おい・・・」


だが、茶髪はオレが詰問を始める前に言い訳を始めた。


「一匹は、もう持ってない!もう渡しちまったんだ!本当だ!」

「そんな言葉を信じると思うのか?そっちの金髪の方が持ってるんじゃないのか?」


金髪は必死に否定しているが、オレは構わず金髪との箱庭の対戦を宣言する。

金髪の所有する戦力は殆どがアンデッド達だった。

アンデッドを毛嫌いする2人の魔王、リーディアとレヴェインの手によって、あっさりと勝利した後で、金髪の石碑に向かって茶髪の時と同じ宣言を叫ぶが、ハーピーは現れなかった。


「おい、どういう事だ?」

「だから言ったじゃねぇか、もう渡しちまったって!」

「そいつは誰だ」

「・・・そいつは言えねぇ」

「ふーん」


オレは茶髪との対戦を宣言した。

今度の対戦はドラゴン達だけでなく全員でだ。

結果は当然のごとくオレたちの勝利だった。

オレは勝利者の権利として、茶髪から石碑に刻まれている全てのゴーレムを奪う。

その上で、同じ質問を茶髪に向けた。


「誰に渡した?」

「い、言えねぇって!頼む!他のモンスターなら何でも渡すから勘弁してくれ!」


モンスターを交渉の道具としか考えていないかのような発言が、オレの怒りを更に煽る。オレは再び茶髪との対戦を宣言した。

先の対戦でゴーレム達を奪ってしまったので、茶髪の陣営は当然1人だけだ。

対戦が始まると同時に背を向けて逃げ出す茶髪。

その背中に魔剣を突き立てるのに、オレは躊躇も後悔もしなかった。


再び勝利したオレは茶髪からコトワリの一つを奪った。

これは拷問だ。痛みと恐怖を与えながら、茶髪が大事にしているであろうモノを少しずつ奪うつもりだった。

だが、茶髪の心は既に折れたようだ。

観念した茶髪はハーピーを渡した相手について語り始めた。


「藤井武人って人だ・・・箱庭オークションのサイト、スネークバイトの管理者だよ」


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