表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/56

眠れない夜

オレとレヴェインの説得でリーディアの頑なだった心は、いくらか解きほぐせたような気がする。

・・・とは言ってもオレの扱いが死刑確定から執行猶予、あるいは経過観察になったと言った感じだ。


部屋に戻ったオレは少し休んでからシルキスの元に戻ろうと魔法のピンを手に取った。

きっと心配しているだろう。せめて顔を見せて安心させてやらなくては。

しかし、サンディアの街に魔法のピンを刺そうとして思いとどまった。

そういえば、ずっと寝ていない。少し休んでからにしよう。それくらいはシルキスも許してくれるはずだ・・・。


ベッドに入り目を閉じると、様々な考えが頭をよぎる。

・・・ドラゴン達の呪いが解けるとわかったら、シルキスは安心するだろうな。

・・・魔剣のコトワリの事、イチ兄に相談してみよう。

すると、不意に望んでいない光景がフラッシュバックした。

・・・処刑の瞬間の光景だ。

それは、目を閉じる度に浮かんできた。

他の事を考えようとしても、それは瞼の裏にベットリ張り付いたかのように離れてくれない。

昨日からずっと寝ていないはずなのに、眠ることが出来なかった。


翌朝、部屋に居ても安息を得ることが出来ないと悟ったオレは仕方なく学校に行く事にした。

鏡で見たオレの顔は、まるで生気を無くしたような酷い顔だった。


「おはよ・・・ジューゴ!?あんた酷い顔よ?」

「あぁ、母ちゃん。おはよう・・・今日はずいぶんとゆっくりだね」

「まぁね。今日から暫く東京に出張なのよ。アンタ大丈夫?」

「大丈夫。お土産期待してるよ」

「何がお土産よ!アンタ最近変よ?学校も休みがちなんですって?

アンタの学校の先生が心配してきて下さったのよ?」

「え?いつ?誰が?」

「確か田崎先生って言ったかしら。夜の8時くらいだから、仕事が終わってからわざわざ来てくれたんだろうに、アンタったら家に居ないし・・・」


田崎が?担任でもない物理教師が、オレが心配で家庭訪問だって?

薄気味悪い奴だな。田崎の事は良く知らないが、意外と生徒思いな所でもあるのか?


「とにかく、学校くらいちゃんと行きなさいよ?」

「あぁ、分かってるよ。行ってきます」

「ちょっと!朝ご飯は!?」

「ごめん、食欲ないんだ」


いつもの通学路、友人との下らない話、つまらない授業・・・。

これらが少しずつオレの心を癒してくれた。

結局、オレはぐっすりと眠るのに一週間の時間を要した。


トラウマが癒えてシルキスの元を訪れる事が出来たのは、さらに3日が過ぎた頃だった。シルキスは連絡も寄越さなかったオレを叱りつつ、ドラゴン達の呪いが解けた事を教えてくれた。


その後、部屋に戻ってようやく気持ちの整理がついたのか、魔剣のコトワリについて考えることが出来た。まずはイチ兄に電話して相談してみよう。


イチ兄の番号を携帯から発信すると、2コール目の途中でイチ兄が出た。


「どうした?ジューゴ」

「イチ兄・・・オレ、魔王と和解したんだよ」

「ほう!それは凄いな!」


まるで自分の事のように喜んでくれるイチ兄に嬉しく思いつつ、本題である相談を切り出した。


「なるほど、やはり兄弟だな。私も同じ悩みにぶつかったよ」

「イチ兄も?」

「あぁ、私の世界のコトワリは今でこそ望ましいものだが、最初は酷いものだった。

箱庭のコトワリは非道なものが多いようだ・・・」

「そうなんだ・・・それって、どうすればなくすことが出来るの?イチ兄も、その最初の酷いコトワリは無くしたって事なんでしょう?」

「無くしたというと語弊があるな。ジューゴ・・・コトワリは最大3つまでを有効にすることが出来るんだ。逆に言えば、3つ以上のコトワリを持っていなければ、不要なコトワリを捨てる事は出来ないんだよ」


3つ?オレの箱庭にあるコトワリは2つ。

技能のコトワリと魔剣のコトワリだ。

つまり、魔剣のコトワリをオレの箱庭から排除するためには、後2つのコトワリ・・・しかも、その2つはオレの箱庭に相応しいものでなくてはならない。

魔剣のコトワリよりも酷いコトワリだったら手に入れても意味が無いのだ。

・・・オレは少し気が遠くなった。


「ジューゴ、キミの望みは解った。だったら、やはり多少遠回りでもジューゴは自分の箱庭を強くしなくてはならない。もし、それで私やジューシと総力戦で勝利することが出来れば、私たちが持っているコトワリを譲ることが出来るからね」

「イチ兄はコトワリをいくつくらい持っているの?」

「そうだな・・・20くらいかな」

「えぇっ!?そんなに!?」

「私は箱庭を持つ者の間では少々有名人でね。降りかかる火の粉を払っているうちに・・・というやつだ。ジューシもそれなりに持っていると思うよ。彼女は私よりも貪欲だけどね」

「そうなんだ・・・」


昔は伏せ目がちで大人しい印象だったジューシ姉ちゃん・・・。この間に続いて、オレの中の既存イメージを破壊してくれる。


「ジューゴ。間違っても他人に戦いを挑んではいけないよ?全てを奪われてからでは遅いんだからね?」

「そ、そんなことしないよ」

「そうかい?何だか今の君は、少し焦っているように感じたのでね」


オレは電話を切ってからベッドに仰向けになって考えをまとめた。

とにかく箱庭を強くしなくては・・・。

当面の目標はジューシ姉ちゃんの箱庭・・・スピーネルが元々いた世界・・・どんなところなんだろう。きっと強いモンスターがワラワラ居るんだろうな。

そうだ!魔王たち、レヴェインやリーディアを石碑に名を刻むことが出来れば、大幅な戦力アップが望める。その為にも彼らの信頼を得なくては。


・・・うーん・・・先は長そうだな。


だが、今ならレヴェインとリーディアと、この悩みを共有することが出来そうだ。

レヴェインは魔剣のコトワリを無くしたい。

リーディアは最初は反対するかもしれないけど、もっと強くなれるコトワリと交換する事を条件にすれば納得するだろう。

魔王である2人に協力してもらえば、実現可能な気がする。


安心したら眠気が襲ってきた。

レヴェインとリーディアに相談するのは、明日にしよう。

明日も学校だ。

母親に釘を刺されたのも有って、最近は真面目に学校に行っていた。

しかし、相変わらず箱庭に取りつかれているオレは、休日や放課後が待ち遠しくてしょうがなかった。

・・・もうすぐGWだし、その時は友達の家に泊まりに行くとか言って、どっぷり箱庭の世界を楽しむのもいいかもしれない。



翌日、学校の放課後、早く帰って箱庭に入る事ばかり考えているオレに隣の席の友人たちが話しかけてきた。

友人たちの話題の中心は主にバイトの事だ。


「なぁ!ジューゴはバイトしないのかよ?」

「んー?とりあえずバイトする予定は無いなぁー・・・」

「なんでだよ?お前んちなら親も反対しないだろ?」

「確かにオレんちの親は放任主義だけど・・・」

「じゃあ、何でしないんだよバイト」

「うーん。別に欲しいものも無いしなぁー・・・」

「金だけじゃなくて出会いも有るぞ?石崎の奴なんかバイト先で彼女が出来たらしいぞ?」

「あのジャガイモ野郎が!?まじかよ」

「マジだって。プリクラ見せてもらったもん。な!ジューゴもやろうぜ?出会いを求めてさ!オレのバイト先でバイトできる奴を探してるんだよ」


出会いか・・・出会いも間に合ってるな。

ドラゴンに変身する女・・・いや、女に変身するドラゴンか。

あと、ツンデレ魔王。デレた所見た事ないけど。


「ま、考えとくよ」


オレは無難にそう答えておいた。

その時、誰かがオレを呼ぶ声が聞こえた。

教室の入り口で同じクラスだが、特に親しくも無い奴がオレを呼んでいる。


「なんだー?」

「ジューゴ!田崎が呼んでるんだってよ。物理準備室に来いって」

「えぇー!なんだよー・・・」


早く帰りたいのに・・・。

渋々、物理準備室に向かうオレ。

中に入ると田崎がオレを待ち受けていた。

物理準備室は備品や書籍を置いておく場所であると同時に田崎の執務室を兼ねているようで小さな机が置かれていた。


「やぁ、キミがジューゴだよね」

「こんちわ・・・。オレに何か用ですか?」

「いや、大した用じゃないんだけどね。そうだ、呼びつけておいて何も出さないんじゃ悪いから、お茶でも用意するよ。ちょっと待ってて」


そんな事よりも早く用を済ませて帰してほしいのだが・・・。

暫く待っていると田崎が急須と湯呑を持って戻ってきた。


「お待たせ。さ、飲んでくれるかな」

「お茶はいいですから、要件を言ってください」

「まぁまぁ、そういわずに・・・。要件なんだけど、ジューゴ君は最近学校を休むことが多いね。何か理由があるのかな?」

「いや、特にないです。ちょっと体の調子が悪かっただけで・・・」

「そうか。ならいいんだ。お茶、そろそろ冷めたんじゃないかな」

「用事って、それだけですか?」

「・・・それだけだよ」

「そうですか。それじゃあ、失礼します」

「ちょっと待ちなよ。出されたお茶くらい飲んでから行ってもいいんじゃないかな」


オレは早く帰りたい一心で湯呑の中身を飲み干した。


「それじゃ、失礼します」


そう言って物理準備室の扉を開けようとした瞬間、眩暈のようなものがオレを襲った。


「どうしたんだい?」


背後から田崎の声がする。その声は、やけに遠くから聞こえたように感じた。

何だこれ・・・まさか・・・。


「どうやら効いてきたみたいだね。一応、これも使っておこう」


首の後ろに何かが押し当てられた感触を感じた瞬間、頭を殴られたような衝撃がオレを襲った。これって・・・スタンガンってやつか?

そうしてオレは、その場で意識を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ