見覚えのないもの
その箱には1メートル四方で蓋はついておらず、中をのぞいてみると良くできたジオラマの様に小さいながらも山や川などが見えた。よく見ると、中世の城のようなものや街のようなものも有る。
最初は家族の誰かが置いたのかと思ったが、すぐに先ほどの不思議な体験と結びつけて考えていた。あの異世界トリップと何か関係あるのかな?
不思議な扉を開いたことで、突如終了となったオレの異世界トリップ体験。
「なんだか、惜しい事をしたなー・・・。助けたあの子も可愛かったし・・・」
ベッドに仰向けになって目を閉じると、何かがコツンと額に当たった。
何かと思って、その正体を確かめてみると、それは小さなピンだった。
まるでポスターを壁に張り付けるためのピンのようにも見えるが、オレの部屋にポスターなど張っていない。
それに、普通のピンよりも大きめで細かい模様などが彫ってあり、造形が深い。
まるで、魔法のアイテム・・・。
「まさかね」
何て言いながら、そのピンを例の箱の中に刺した。
ほとんど無意識、無作為にピンを刺したのだ。何故そうしたのか自分でもわからないけど、そうするのが当たり前かのようにそうしていた。
すると、オレは再び光に包まれて気が付くと、戦場のど真ん中に立っていた。
周りには様々な者たちが戦いを繰り広げている。
馬に乗った騎士の様な者、槍を持った兵士、そして、それらと闘っている怪物たち。
中には鎧を着たゴブリンも居た。ようやく見覚えのある者を見つけて奇妙な安心感を覚ええる。
「それにしても、二度目の異世界トリップが戦場のど真ん中ってのは、あんまりだろっ!」
そう叫びながら命からがら逃げ出し、例の光を放つ扉に逃げ込む。
再び部屋に戻ると、箱は依然そのままの場所にあった。
ピンは平原の様な場所に刺さったままだ。
引き抜いてみようと覗きこんで良く見てみると、小さい何かがゴチャゴチャと何かをやっているのが見えた。
あぁ、これは先ほどの戦場だ。二度目の異世界トリップ先を戦場のど真ん中に選んだのは他でもない自分自身だったのだ。