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魔剣の力

シルキスは人で言うと20代後半らしい。

ワシなんて一人称使ってるから勘違いしちゃったよ。


「オレは、その辺りを歩いてくる。すぐ戻るから服着ておけよな」


と言い残して、オレは部屋に戻ってきた。

色々と落ち着く必要がある。

そんなオレの心を更に揺さぶる出来事が部屋で待っていた。


・・・箱庭が大きくなってる。


異世界に行く前は正方形だったのに、今は長方形になっている。

良く見ると、南側の壁だけが広がっているようだ。

南側は魔王の領土だ。アイツやりやがったな。困るって言っておいたのに。

といいつつ、言う事を聞いてくれるなんて微塵も思ってないけど。


でも、困ったな。これじゃ、ドアを開ける時にぶつかってしまう。

箱庭を移動する事にした。


ここで簡単に部屋の間取りと箱庭の位置関係を説明しよう。

部屋の西側にはシングルサイズのベッドがあり、これが部屋の大半を占めている。

ベッドの北側には小さい机が有るが、ほとんど使っていない物置状態である。

勉強はリビングでもできるからいいんだもん。しないけど。

部屋の北側には窓が有り、南側には部屋に入るためのドアが有る。


部屋の北側に行くには箱庭をまたぐか、ベッドの上を経由する必要がある。

しかし、またいだ拍子に体勢を崩して箱庭を踏んづけてしまうと大変なので、ベッド側を経由している。まぁ、部屋の北側なんて滅多に行かないけど。


まあ、とにかく箱庭を移動させよう。

オレは慎重に箱庭を北側にスライドさせた。

ふう。これで良し。


箱庭に戻ったオレを言い付け通り服を着たシルキスが出迎えた。


「ジューゴ帰ってきたか。そう言えばさっき地震があったのだ。結構大きかったな。

ジューゴは大丈夫だったか?」


げ。まじで?ちょっと動かしただけなのに。

これじゃ、箱庭を派手に移動させるのは危険だな。


「その地震・・・。どのくらい大きかった?シルキスは怪我とかしてないよな?」

「ん・・・?まぁ、地震は大したことは無かったし、ワシはかすり傷一つないぞ?」

「そっか、よかった・・・」


訝しげなシルキスを誤魔化すために「その服、似合ってるな」とか言っておく。

シルキスは「あ、あ、あ、当り前だ馬鹿者!」と狼狽えていた。意外と可愛い所が有る。

オレ達は予定通り街に向かったが、街に着くまで気が気じゃなかった。

シルキスは大したことないって言ってたが、シルキスは屈強なドラゴンだからな。

シルキスは平気でも街は壊滅状態なんて事があるかもしれない。

しかし、街に着くと地震の影響はシルキスの言うとおり大したことは無かったようで、オレは胸をなで下ろした。


この街はシルキスの住む山の麓にあるゴーントと言う街だ。

早速、冒険者ギルドでスキルスクロールを購入する。

スキルスクロールを売ってくれたお姉さんは、妙な恰好をした2人組の片割れが、どんなスキルを持っているか興味津々な様子だったが、オレは別の場所でスキル判定をするつもりだった。明らかにがっかりした様子のお姉さんを置いて、どこか落ち着ける場所を探す。


「どうせなら、何か食べる場所が良いのではないか?」


シルキスが期待に満ちた表情を見せる。

付いてきた理由は、それじゃないだろうな。


「いや、でも、オレは金持ってないぞ?」

「ワシはたんまり持ってる」


え?ホントに?それならそうと言ってくださいよ。お姉さん。


「ここが良かろう」


シルキスに案内されて一軒の店に入った。

どうやら酒場のようだ。まだ昼頃だというのに酒を飲んでいる人が沢山居る。

慣れた様子で注文をするシルキス。

店を見渡してみると、所々にドラゴンをモチーフにした絵画や置物が有る。

料理を持ってきたオバサンが興味深そうなオレに話しかけてきた。


「お客さん旅人のようだね。ゴーントは初めてかい?」

「うん、そうなんだ。ここはドラゴンの絵画や彫刻が多いね」

「この街の近くの山には昔から沢山のドラゴンが住んでいてね、この街じゃ、そのドラゴンを信仰しているんだよ。大昔に街を救ってくれたことが有るとかでね」

「へ・・・へぇー・・・」


オバサン、その信仰対象は目の前に居ますよ。

シルキスはオレに構わずビールのような物を美味そうに飲んでいる。


「それじゃ、ごゆっくりね」


料理が揃うとオバサンは去って行った。

並んだ料理はどれも美味そうだ。お。ソーセージみたいなものがある。

食べてみると、パリッとした食感と薫り高い肉汁が美味い。

これ、元の世界のソーセージに勝るとも劣らないじゃないか。

他の料理も美味い。オレが夢中で食べ進めていると、シルキスがビール(みたいなもの)を片手に話しかけてきた。


「ジューゴ、忘れているのではないか?ここにきた目的を」


目的?そりゃ食う事だろ?

あ、いや違った。スキル判定ね。


「ちゃんと魔剣を握りしめてからスキル判定をするんだぞ?」

「わかっているって」


以前やったように、えいっ!とやってみる。

すると、以前からあるスキルだけでなく、新たなスキルが浮かび上がってきた。


新たなスキルは3つ。

・加護 Lv3

 (敵の攻撃から高い確率で守られ、ダメージが軽減する)

・王の威光 Lv4

 (発動すると精神的威圧により他者をある程度操作できる)

・ベインザクト Lv--

 (発動すると効果範囲内の者に苦痛を与えることが出来る)


ベインザクトは痛いほど良く知っている。

だが、レベルの数値が無いのが気になる。


!!そうだ、スキルスクロールには”箱庭の管理者”のスキルも表示されている。

これはシルキスに見せるわけにはいかない。

シルキスなら見ればすぐに色々と察してしまうだろう。魔王の様に。


「どれ、見せてみろ」


シルキスが口を挟んできた。


「い、いやっ!オレが読み上げるから食事を続けろよ。大体、お前、手がベトベトじゃないか」

「むぅ・・・。意外と細かい事を気にする男だな、まぁいい、読み上げてみろ」


ふぅ・・・。何とか誤魔化せた。

オレは先ずはじめにベインザクトのLvの数値が無い事を聞いてみた。


「なるほど、ベインザクトか・・・因果なスキルが発現したな。

ベインザクトは発動時にレベルを選択できるのだ。

Lv1なら不快に感じる程度の痛み。

Lv2なら耐えられるが非常に不快な痛み。

Lv3なら耐えかねる苦痛。常人なら叫び声を上げるくらいだな

Lv4ならのたうち回るほどの苦痛だ。先の戦いでワシらが受けたのは、このLv4のベインザクトだな。このレベルになると魔法を使った本人も戦闘を継続するどころの話ではないのだが、アンデッドには関係ないらしい。まったく恐ろしい話だ。

Lv5は・・・死に至る苦痛だ」


痛いのは・・・いやだな。


「ん?それじゃあ、ドラゴンゾンビがLv5を使ってたら、即全滅だったって事?

何で使わなかったんだ?」

「そこのところはワシにも分からん」

「もしかして手加減されたんじゃないのか?生前の記憶が少し残ってたとか」

「さぁな」


ジョッキの中身を一気に呷るシルキス。その表情に寂しげなものを感じたオレは話題を変える事にした。


「加護ってのと王の威光ってがある。加護は何となく分かるけど、王の威光って?」

「ふむ。王の威光は簡単に言えば発動すると王様の様に振る舞えるのだ。

発動すると周りに居るものはジューゴにカリスマのような物を感じる様になる。

Lv4ともなれば簡単な頼みや命令は快く引き受けてくれるだろう」

「凄いなそれ・・・」

「しかし、高位な存在には効かないし、魔法による防御で簡単に防げるだろうから、ワシや魔王には殆ど効果が無いだろうな」

「へぇー・・・」


じゃあ役に立たなそうだな。

とりあえず、役に立ちそうなのは加護ってやつか。

どんな敵が来ても魔法の扉に逃げ込めばいいんだから、守りの方が重要かもしれない。

そこでオレは気付いた。

オレ鎧を着ていない。身を守るのが重要とか言いつつ鎧も着ていないんじゃ話にならない。

その事をシルキスに話すと


「おぉ!ワシもうっかりしておった」


だそうだ。


「とりあえず、この街で一番良い鎧を買おう」

「買おうって・・・シルキスが買ってくれるのか?そこまでしてもらうのは悪いって」

「何を言っておる、オヌシはワシの命の恩人。しかも2度も助けてもらった。

それに比べれば安いものだ」


シルキスは言い出したら曲げないのを、ここ数日の付き合いで思い知っているオレは、素直に好意を受け取る事にした。

その頃には食事も済み、シルキスの前には尋常じゃない量の空いた皿が重ねられていた。あんな量、あの体のどこに入るんだ?見た目は人間の女性だけど、やっぱり巨体のドラゴンだという事だろうか・・・。

会計の金額は250ゴルだった。およそ2万5千円・・・。2人分で2万5千円って・・・食べすぎだろ。

シルキスは気前よく支払いを済ませると鎧を買うために店を出た。


シルキスに案内された店は大きな商店だった。様々な武器や防具が陳列されており、品ぞろえが豊富だ。シルキスの話によると、この辺りでは良い鉱石が取れるらしく、武器や防具を作るのにうってつけだそうだ。


「遠くの街からも、わざわざウチの店に武器や防具を買いに来るお客さんも居るんですよ」


そう言って店員が話しかけてきた。


「おぉ、丁度良かった。この店で一番いい鎧を見せてもらおう」


シルキスが開口一番に店員にそう言うと

店員はニヤリと笑って、こう言った。


「一番良い鎧ですか?お客さんは運が良いです。特別良い品が入ってるんですよ」


暫く待つと、店の奥から店員が戻ってきた。

手には鎧が抱えられている。女性の店員なのに、随分と軽々しく持っている。


「お客様は本当に運が良い。この鎧は何と、聞いて驚いてくださいね。セラフィナイトの鎧なんです!たった今!たった今入荷したばかりなんですよ」


セラ・・・何だって?

聞き覚えのない単語に戸惑うオレに解るように店員が解説を始める。


「セラフィナイトは貴重な鉱石です。魔法を弾き返す性質があり、非常に硬く、それでいて粘り強くて、しかも軽いのです。その硬度はヘビースティール製の剣で何度叩いても傷一つつかないという程の固さです」

「だが、あまりに希少だ。鎧一つ作るほどの量が取れるとは思えない」


そう口を挟んだのは後ろで見ていた別の客だ。

店員の声が大きいせいか、いつの間にか人だかりができている。


「良い質問ですお客様。そこが、この鎧の凄い所なのです。

この鎧は貴重なセラフィナイトを薄く加工して貼り付けているのです!

・・・それに、ここが一番の驚きポイントなのですが・・・。

この鎧はライトスティール、ミスリル、セラフィナイトの三層構造なのです!」


周りから、おぉー!歓声が上がる。

なんだそれ。フライパンかよ。

しかし、隣のシルキスも感心しているので、きっと凄いのだろう。


「買った!その鎧、私が買ったぞ!」


ギャラリーの中の一人が声を上げた。

しかし、その男をシルキスがキッと睨みつけながら言い放つ。


「最初に話を聞いていたのはワシらだ。ワシらに、この鎧を買う権利がある。

店主!この鎧、ワシが買うぞ!いくらだ?」

「35000ゴルでございます」


いち、じゅう、ひゃく・・・350万円かよ!

車一台買える値段のフライパン・・・じゃなかった、鎧。


「む。それほどか・・・」


なにやら困った様子のシルキス。


「どうした?」

「困ったぞジューゴ・・・。少し足りない」


それは困ったなぁ・・・。っていうか、350万に少し足りないくらいの金額を持ち歩いてる事に驚くわ。

オレのシルキスの後ろで、先ほど声を上げた男が何かを期待するような眼差しを向けてくる。そんな金額持ってないんだろう?だとしたら、次は私だ。と言わんばかりの眼差しだ。少し腹が立つ。


「どれくらい足りないんだ?」

「・・・250ゴル」

「さっきの飯代と同じ額じゃないか!ついてるんだか、ついてないんだか・・・」

「そうだ!ジューゴ!まけてもらおう!」

「なんだって!?他の買い手が居るのに、まけてもらえるわけないだろ?」


シルキスが魔剣を指さす。何?魔剣を担保にでもするのか?

駄目だぞ?お前、自分の父親の魂を売るつもりか?


「王の威光を使え、ジューゴ」


なんだって!?値切る為にスキルを使うのか!?

あの苦労の末に手に居れたスキルを初めて使うのが、こんな場面だとは情けなさすぎる・・・。

しかし、シルキス、店員、ギャラリーの視線に耐えきれなくなったオレは、”王の威光”を発動させた。

・・・皆の目の色が変わる。

オレは、恐る恐る店員に話しかけた。


「あのう、ちょっとまけてもらえないかな。250ゴル程・・・」

「わかりました!34750ゴルで、お売りします!」


即答かよ。効果絶大だな。

何故か得意げなシルキスが支払いを済ませる。

オレの後ろで先ほどのオジサンが悔しそうに見ているが、オレが振り返ると視線を下の方に外してしまう。文句を言いたいけど、言えないといった感じだ。

ゴメンねオジサン。


シルキスの巣穴に帰って来た時には、もう夕方だった。

鎧を着たまま山の上にあるシルキスの巣穴まで上ってきたが、全然疲れていない。

この鎧は本当に軽い。


「似合っているではないか。その鎧」

「あぁ、ありがとう。魔剣に鎧まで、本当に世話になったな」

「いや、こちらこそだ。ジューゴ。これからどうするのだ?」

「もう少し、この世界を見て回ろうと思う。魔王がどうしているかも気になるし」


魔王がというよりも、広がってしまった箱庭が気になっていた。

その情報を何とか集めようと思っていた。


「それじゃ、オレ帰るよ」

「・・・もう帰るのか?」

「あぁ、でも、また来るよ」

「そうか!必ず来いよ!新しいスキルを覚えたければ、ワシが指南してやるからな」

「分かった。それじゃあ、またな!」


シルキスに別れを告げて部屋に戻ってきた。

激動の一日だった。なんだか、どっと疲れが・・・。

それに大きくなってしまった箱庭の事も考えなければならない。

だが、今はとにかく、ゆっくり休みたい。

深い溜息をつきながらベッドに腰掛けた。


「疲れているみたいだな。ジューゴ」


部屋が薄暗くて気が付かなかったが、オレのベッドには既に先客が居た。

それは杉崎家の長兄の杉崎一スギサキハジメだった。


「イチ兄・・・?」


オレは驚きながら、10歳以上も歳の離れた兄を昔ながらの愛称で呼んでいた。


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