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討伐

オレは遺跡のような場所に案内された。古代ギリシャの神殿のような場所だ。

所々にかがり火が灯され、視界には困らない。

暫く歩いていると、前方から何者かの咆哮が響いた。

その咆哮の主は恐らく、先王ローディスだろう。

ゾンビに身をやつした王は夜が来るたびに、その呪いと破壊を振り撒いて歩き回ったそうだ。

今では、その見るに堪えない姿を憂いたドラゴン達によって、この地に封印されている。

封印と言っても鎖でつないであるだけだ。

ローディス・・・いや、ドラゴンゾンビは自らを縛る鎖を引き千切ろうと暴れており、

その周りには引き千切られた鎖が無数に散らばっている。

切られては新しい鎖が追加されるという行為が、夜が来るたびに繰り返されたそうだ。

気が遠くなりそうな話だ。


それも今夜で終わる。上手く行けば。


「ジューゴ。アンデッドは簡単には滅びない。その体の中心にある核を破壊しない限りは」

「・・・核?」

「そうだ。これから我々が攻撃を加える。仲間の攻撃によって核が外からも見える様になったら、ワシが近くまでジューゴを運ぶ。そうしたらジューゴが核を破壊するのだ。

だが、アンデッドは核を破壊しない限り再生し続ける。

恐らく、一度や二度では核を破壊できないだろう。再生が始まったら、また安全な場所に運んでやる」


至れり尽くせりで何よりだ。

ふと、怯えた目をしたオークを前にした時に感じた不快感が蘇ってきた。

いや今回は、それとは違うはずだ。

なにより相手はアンデッドだし。シルキスも望んでいる事だし。魔王に対抗するために力が必要だし・・・。

でも、僅かに残るモヤモヤ・・・。これは後ろめたさだろうか。

苦労せず力を得る事に抵抗を感じているのか。

それとも力を持つ事で生じる責任を恐れているのか。


だが、今は考えている場合じゃない。今更、この成り行きから降りることは出来ない。

ドラゴン達の攻撃が始まった。


オレが居るのは少し離れた高所で戦いを一望できる場所だ。

ドラゴン達はドラゴンゾンビの周りを飛び回り、その口から吐かれる炎で攻撃を加えている。

怒り狂ったドラゴンゾンビは自らを縛る鎖を引き千切り、周りを飛び回るドラゴンを追うが、ドラゴンゾンビの方は翼が腐り落ちており、飛ぶ事が出来ないので、ドラゴン達を捕まえられず、一方的に炎を受け続けている状態だ。

戦いは一方的かと思われた、その時、攻撃を加えていた一匹のドラゴンが炎を吹きかける時に近づきすぎてドラゴンゾンビの間合いに入ってしまい、捕まってしまった。

ドラゴンゾンビが捕まえたドラゴンを大顎で噛み砕こうとした時、別のドラゴンが助けに入った。あれはザーバンスだ。他のドラゴン達の助けも有り、捕まっていたドラゴンは無事、引き離された。


オレは大きく息を吐き出した。

無事で良かった。


だが、安心してもいられない。せっかく捕えた獲物を取り返そうとドラゴンゾンビが後を追う。一度掴まったドラゴンは翼を痛めたらしく、仲間のドラゴンに助けられながら飛んでいる。その為、速度が上がらず、すぐ後ろにドラゴンゾンビが迫っていた。


そのドラゴンゾンビを押し留める様に炎と雷が襲う。

その炎と雷の主はシルキスだ。


シルキスのおかげでドラゴン達は体勢をととのえ、最初と同じように上空からのヒットアンドアウェイを再開することができた。


しばらくヒットアンドアウェイが続き、動きが鈍くなってきたドラゴンゾンビの背中に上空から急降下してきたザーバンスの爪が突き刺さる。


倒れたドラゴンゾンビ・・・父親の背中に何度も爪を突き立てるザーバンス。

その光景から目を離せないでいると、いつの間にかシルキスが隣に立っていた。


「もうじき出番だぞ?ジューゴ」

「あぁ、分かった」


ザーバンスが離れたのと同時に、シルキスにつれられたオレがドラゴンゾンビの背中に降り立つ。

そこには赤く脈動する核があった。直径1mくらいのゴツゴツした球体である、それにオレは魔剣を振り下ろした。

ガキンッ!という鈍い金属音と共に弾き返される。これは・・・結構、大変ですよ?

しかし、協力してくれているドラゴン達の為にも一心不乱に魔剣を振り下ろす。

核にひびが入り、もう少しだと思われたその時、シルキスの叫び声が上がった。


「ジューゴ!再生が始まる!退くぞ!」


くそう。なんとか一度で済ませたかった。

ドラゴンゾンビの体が鳴動し、肉が蠢く。シルキスにつれられて元の場所に戻った時には元通り元気な(?)ドラゴンゾンビに戻っていた。


再び、ヒットアンドアウェイが再開された。

シルキスは仲間たちだけで十分と判断したのか、オレの隣で再びドラゴンゾンビが倒れるのを待っている。

その様子を注意深く見ていたシルキスだったが、突然、叫び声をあげた。


「ザーバンス!気を付けろ!ベインザクトだ!」


ベインザクト?

その声に驚きながらドラゴンゾンビの方を見ていると、その体が薄く光を放っているのが分かった。それは、何かの予備動作のようだ。

次の瞬間、その体を中心に半球状のフィールドが形成された。その中に居るドラゴン達が苦痛の叫びをあげ、空を飛んでいた者は蚊取り線香のCMで見た映像の様に地面に落ちてゆく。


「ぐっ!ゾンビになっても、あの魔法が使えるとは!」


ベインザクトはフィールド内に居るものに苦痛を与える魔法らしい。

魔法を使った本人も例外ではないので、その威力は本人が耐えられる程度に抑えられる。しかし、苦痛を知らぬアンデッドとなった今では、その威力はまさに常軌を逸していた。


ドラゴンゾンビは、一番近くでのたうち回っているザーバンス首を掴んで持ち上げる。

シルキスが助けに入るが、ザーバンスを上手く盾に使っており近付けない。

苦しむ弟を助けようとするシルキスだったが、焦りとドラゴンゾンビの思った以上の俊敏な動きによりザーバンスと同じように囚われてしまった。


まだドラゴン達は、まだ苦痛にのたうち回っている。

そこに再びベインザクトによる苦痛が上乗せされる。

勿論、その苦痛はドラゴンゾンビに囚われている2匹の姉弟にも振る舞われる。

しかも、それは術者の近くに居るものほど効果が大きいらしく、ドラゴンゾンビの近くに居るものほど、その苦痛によるリアクションが大きい。


「もしかして、奴に近いほど苦痛が跳ね上がるんじゃ・・・?」


そうだとすると、ドラゴンゾンビの手に囚われたシルキスとザーバンスは・・・。


魔剣を手に狼狽えるオレの目の前で3度目のベインザクトが発動する。

ザーバンスは気絶し、シルキスは、かろうじて意識を保っているものの、体が痙攣しており、これ以上は抵抗できそうもない。

倒れていないのはオレと、最初に捕まって傷を負ったために離れた所に退避していた一匹のドラゴンだけだ。


・・・このままじゃ全滅する。

そう思ったオレは唯一、ベインザクトから逃れているドラゴンの元に走った。


「おい!シルキス達を助けに行くぞ!」

「む、むむ、無理!もう私達は終わりだ」

「無理じゃない!ドラゴンゾンビの核には、もうひびが入ってるんだ!もう少しで倒せる!オレをあそこまで連れて行け!」


呆然自失となっている小柄なドラゴンを恫喝して、無理やり言う事をきかせる。

そのドラゴンの背に乗り、ドラゴンゾンビの背中を目指す。

ドラゴンゾンビの両手には相変わらずシルキスとザーバンスが囚われている。

その片方でも手放せば傷を負ったドラゴンを捉えるのは簡単だっただろう。

しかしドラゴンゾンビは、そうしなかった。


そうだ。そのまま大事に抱えていろよ。


背中に到達したオレは、何とか核の所までよじ登り、魔剣を核に振り下ろした。

と思った。


多分、振り下ろしたはずだ。


4度目のベインザクトが発動したのだ。それは苦痛を通り越した命令だった。

その命令は、オレに有無を言わさず意識を失わせた。




・・・夢を見ていた。


場所は家のダイニング。だれかが座って酒を飲んでいる。


「親父?」


それはオレの親父だった。

15人も子供を作っておいて滅多に家に帰らないクソ親父だ。

最後に会ったのはいつだったかも思い出せない。


「今までどこに居たんだよ!」

「・・・すまなかったな」


色々と文句を言ってやろうと思ったが、出鼻をくじかれた。

あれ?親父って、こんな奴だっけ?

素直に謝罪する目の前の親父と頭の中のイメージが一致しない。

まぁ、いい、とにかく、オレは親父に一番言っておきたかったことを言った。


「た、たまには家に帰ってこいよな。母ちゃんも仕事仕事って言ってるけど、たまに寂しそうにしてるぞ?」


そうやってダイニングで一人寂しそうに飲んでいるのを夜中に見かけた事がある。

息子としては少し居たたまれない。

すると、いつの間にか目の前には親父ではなく母親が居た。

いつか見たときのように酒を飲んでいる。

あれ?親父は?また、どっかいったのか?


「あれ?母ちゃん?親父居なかった?」

「ジューゴ・・・アタシも大吾さんもアンタの事をほったらかしだったよね。

ゴメンね」


大吾さんってのは親父の事だ。


「親父はともかく、母ちゃんは違うだろ」

「でもゴメンね。寂しくさせたでしょう?」

「いや、別に・・・」


なんだこれ、母ちゃんもそんなこと言う人じゃなかったような・・・。

と思ったら、今度は目の前の人物が変わっていた。

今度は誰だかわからない。


「本当に済まなかった。子供に親のツケを払わせるなんて事になってしまった。

せめて私は、その贖罪として魔剣の一部となって力を振るおう。

それが、娘の恩人の為になるならば、娘も喜ぶだろう」


あれ?あんたは・・・誰だか知っているような・・・魔剣?なんだっけ?


・・・そこでオレは目が覚めた。


「ジューゴ!」


目が覚めたオレの目の前にはドラゴンの顔が有った。多分シルキスだ。

周りを見渡すと、もう朝になっていた。結構長い間眠ってしまっていたようだ。

そして、手には見覚えのないものが握られていた。

・・・そうか、これが変化した魔剣か。核の破壊は成功したんだ。


「ジューゴ、大丈夫か?どこか痛むところは無いか?」


痛いと言えば肋骨が痛い。でも、これは元からだ。


「いや、大丈夫だよ。シルキスは?」

「ワシも大丈夫だ。ジューゴのおかげだよ。また、助けられてしまったな」

「そっか。良かった」


そう言って立ち上がる。そして、改めて手の中にある魔剣を見た。

薄ぼんやりと白く光っているようにも見える。

質感と重さは、まるで白木で出来ているかのようだ。

近くにある岩を軽く叩いてみる。

すると、高くて済んだ金属音が響いた。その音から金属である事が分かる。

何気なく叩いた岩の方を見ると、軽く叩いただけなのに真っ二つに割れていた。


「さすがと言った感じだな。だが、その魔剣の真価はそれだけではない。

多分スキルも付加されているだろう。街に行って剣を持った状態でスキルスクロールを使えばそれが分かるだろう。どうだ、ジューゴ、早速街に行ってみるか?」

「あぁ、それは早く知りたい」


少し歩くとザーバンスとドラゴン達が居た。


「無事だったみたいだな」


とザーバンスがぶっきら棒言う。


「ありがとう。ザーバンス達のおかげで何とかね」

「ふん。謙遜はよせ。オレ達を助けてくれたのはお前だろうが。

その、えーと。あれだ、済まなかったな。オレが油断したせいで・・・」

「いいって」

「それじゃあ、オレ達は行く。魔剣・・・大事に使えよ」

「あぁ、そうするよ。必要が無くなったら、ちゃんと返しに来る」

「必要が無くなったら・・・って、魔王に狙われている間は必要だろうが。

まさか、魔王を倒す!なんて言うんじゃねぇだろうな」

「うーん。それは分からないけど、まぁ、いつか返しに来るよ」


だって、親父さんの魂が入ってるんだもんな。息子としては返してもらいたいに決まってる。


「ふん!そんな事は気にするな。それよりも、お前が魔王に殺されて魔剣が奪われないか心配だ」

「そうか。そうだな。大丈夫。絶対魔王には渡さないよ」

「ふん。気を付けろよ」

「あぁ、オレの命に代えても魔剣は渡さない」

「そっ!そうじゃなくて、お前も魔剣も気を付けろって事だ!」

「・・・?わ、わかった」


そう言い残してザーバンス達は飛び立っていった。

最後に一匹のドラゴンが残った。


「ありがとうございました。ジューゴ様。おかげで仲間たちを助けることが出来ました」

そう言うのは最後にドラゴンゾンビの近くまで運んでくれたドラゴンだった。

うーん。ドラゴン達の見分けを付けるのは難しい。


「あぁ、いや、無理させて悪かったね」

「いえ!そのおかげで仲間たちを助けることが出来たのです。感謝しています」

「・・・そうか。オレも皆が無事で嬉しいよ」

「ジューゴ様。私の名前はイリアです。また、お会いできるように祈ってます。

では、ご武運を」


イリアと名乗るドラゴンも飛び立っていった。フラフラとしているが、何とか飛べると言った感じだ。それにしてもイリアか・・・。名前から察するにイリアもめすなのかな。


「では、行こうか」


シルキスが声を掛けてきた。

ん?行こうか?

ここでサヨナラじゃなくて?


「どうした?不思議そうな顔をして」

「い、いや、シルキスも来るの?」

「あぁ、ワシも魔剣のスキルが気になるし、オヌシではスキルの詳細が分からんだろう」「じゃあ、スキルスクロール持ってくるから、ここで待っててよ」

「いいや、ワシも行く」

「ワシも行くって、シルキスが街に行ったら大騒ぎになるだろうが」

「む。ジューゴがワシを見くびっておる」


瞬く間にシルキスが人間の姿に変わっていた。

長い黒髪の女性の姿だ。


「ドラゴンの王たるワシだ。人化の魔法くらい使えるわ。

・・・さぁ、いくぞ」


いやいや、ふ、服着て下さいよ、お姉さん。


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