クアトロフォルマッジォの巻 その3
「警部殿、いいですか。『斉藤幸雄』と名乗っていた被害者『Ⅹ』に対して、Ⅹを殺害した犯人をαとし、遺体を発見させようと斉藤宅を水浸しにした人物をβとします。そしてまた、黒いバッグを持ち去った人物。それをγとします。その時、いくつかのケースが考えられます。
ケース① α=β=γ
ケース② α≠β≠γ
ケース③ α≠β=γ
ケース④ α=γ≠β
ケース①は、すべて同一人物の行った一連の事件ということです。このケースをを考える時、自ずと『なぜ犯人はこんなまどろっこしい発見のさせ方をしたのか?』という疑問に突き当たります。非合理的です。殺害後、バッグを持ち出し、逃走すればいいわけですから。心理学的にも、行動科学的にも、この数式はありえない」
「無論だ。カエデ君、犯人は発見当日にはもうとっくに逃走している可能性が高い。そう考えるのが妥当。発見当日の供述記録に、手掛かりはあまりないんじゃないか?」
マスターは、早くも一ピース食べ終えると。
「そうとも限らないですよ、警部殿。もちろん、その可能性も視野に入れるて考えてみたのですが、納得できる『形』から外れた行動パターンが気になっているんです。まあ、確証と言えるほどのものではないんですが・・・。この事件が複雑に思えるのも、その点にあるのです」
そう言うと、もう一ピース食べ始める。
頃合いを見計らうようにカエデがやって来る。
「ねえ、ねえ。警部さん。そろそろ、お会計おねがいできます~?」
「おお!もうそんな時間か。すまんカエデちゃん、じゃあレジまで行こう」
マスターは、いつの間にか残り2ピースまで食べ進め、手が止まる。
「三人、いや、二人のうち、どちらかが『Ⅹ』を殺した!警部殿!」