クアトロフォルマッジォの巻 その2
「まず警部殿、確認したい点がありますので、質問よろしいでしょうか?」
警部は、黙ったままうなずく。
「4月1日に、久保氏と近藤氏が発見したと言う黒いバッグ。遺体発見時、オーナー宅の点検口から見つかったんでしょうか?」
「いや、見つかっていない。分配器、点検口の内側から近藤の指紋は出てているが・・・」
「なるほどです。それともう一点、屋上に続くドアの南京錠ですが、ピッキング等によるこじ開けた痕跡はなかったんでしょうか?」
「実のところ、その痕跡はあった。久保に聞いてみたところ、気がつかなかったそうだ。いつ付いたものかは不明だ。ただ、南京錠自体は、新しい。もともとの古いものが3月上旬頃、壊れていたのを久保が気づいて新しいものに交換したと言っている」
そこまで話し終えたところで、名探偵カエデは、白紙になにやらアルファべットの文字を使った数式を書き込んで、
「警部殿、今のところ被害者についての情報が余りにも少な過ぎます。凶器も斎藤氏宅の鍵も今だ発見されず。争った形跡もない。犯人は、犯行の痕跡をうまく消している。私は、この事件において利害関係、怨恨の線を今の情報量からアプローチするのは至極不可能に思います。また、被害者は犯人と何らかの繋がりがあったと思われるフシがある。警部が今回、私にこの事件の話を持ち込んだのには、のっぴきならない事情があるのではないんでしょうか?」
警部。図星を当てられ、ぐうの音も出ない。
「いやまいった。そこまで読まれているのならば、話さないわけにはいかんな・・・」
そう言うと警部は、被害者『斎藤幸雄』という人物が架空の人物であった事実を打ち明けた。
この事実を知っているのは、極少数の警察関係者だけであり、この事実が下手に公表されれば、警察組織に対してのいい批判のネタになる。痛恨の初動捜査ミス。
「マスター。まかない出来たよ〜っと」
そう言いながら近づいてくるカエデ、
「クアト〜ルォ・フォ−−ルまぁ−ジョ!おっ待ち」
ピッツァ皿にのせられた熱々で湯気がまだ上がるピッツア・クアトロフォルマッジォ。テーブルの上にドンと置かれる。ピッツァの具は四種類のチーズのみというシンプルなピッツァだ。
「グラッチェ、カエデちゃん」
「どういたしまして」
「なかなかうまそうだな。このピザ、チーズ以外に何がのっているんだ?」
「やだなー警部。このピザはね、四種類のチーズをのせて焼いたものなの。チーズそのものの味を楽しむんだから」
「ほー。そんなに種類が入っとるのか。では青いのはブルーチーズだな」
「その通り〜。ゴルゴンゾーラに、タレッジョ、チェダー、モッツァレラ!」
「アルファ、ベータ、マックスに管理人」