表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

ティラミスの巻

「ねえ、ねえ、知ってる?ティラミスって『私を元気付けて!』っていう意味なんだって」

カウンターの一番隅のカナ。

「そうだったっけ?」

 その隣のシンジ。ワイングラスをもてあそびながら空返事。

「元気出すのはシンジの方ね。食べる?」

 そう言うとティラミスをスプーンですくって目の前に差し出す。

「いい」

「なに考え込んでんのよ。ずっとそんな調子・・・それに、どうしたのネクタイ。今日は、してないんだ・・・」

「カナ」

「ん?・・・・・ああ!おいしいいー(感涙しながら)やっぱここのティラミス最っ高だわ!あ。マスター、スプマンテおかわり」

 シンジ、ため息。

「いや、何でもない・・・。・・・ちょっとトイレ」

 独り言のようにつぶやきながら席を立つ。

 ピーク時のざわついていた店内の雰囲気が、ふと気が付くと、人もまばら。ゆったりとした、やさしい時間に移っていた。

 カナには彼が何を悩み、どんな話を切り出そうとしてるのか。長い付き合いから察している。

 どうせ別れ話だ。

 いつか、そんな日が来るのは覚悟している。

 割り切った関係。

 そう、自分に言い聞かせ今まで彼とつき合ってきた。

 けど、手放したくない。彼が別の女と会っていても、繋がりは断ち切ることができない。

 負けを認めること。負け犬。絶対にそんなのは嫌だ。

 女の意地。

 だからわざと彼の前では、元気なフリをする。胸の奥の黒い部分を押し込んで。

 最後の一口を食べ終える。自然と涙が溢れてくる。

「ほんと、おいしすぎて。泣けちゃう」

 いつの間にか運ばれてきたスプマンテを、一気に飲み干し、

「マスター。美味しかった、ごちそうさま。先に帰ったって、伝えといて」

 急ぎ早に店を出て行くカナの背中に、

「お気をつけて、お帰りくださいませ」

 と、マスターの声。

 ドアが閉まるのと同時にシンジがトイレから戻ってきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ