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【ファンタジー落語】粗忽のダンジョン

作者: 村上しのぶ
掲載日:2026/09/08

 えー、毎度馬鹿馬鹿しいお笑いにお付き合いいただくのであります。

 落語と言いますと、毎回そそっかしい連中が出てきてそそっかしいことをやらかしたりするもんなんですが、ファンタジーの世界にも、そういう奴らはいるようでなんであります。


 ま、大抵ファンタジーの主人公になるような連中っていうのは、そんなにまっとうな人間ではないのでありまして、中には王侯貴族や英雄なんてのが出てきたりもするようなんですが、大概は冒険者というやつですな。


 この冒険者というのが、どういう連中かと申しますと、ロクな連中ではございません。お金がなくなるってえと、ダンジョンなんかに潜っては、モンスターを倒してお宝をかっぱらってくる。お宝が手に入りますってえと、街に帰る。街に帰るってえと、酒場に入り浸って酒を飲む。で、またお金がなくなると、ダンジョンに潜ってお宝を探す、なんてことを繰り返しながら、その日暮らしをしているような人たちなんでありますよ。


 ですんで将来のことなんかは、これっぽっちも考えない。金があればあるだけ使っちゃう。宵越しの金は持たねえ、なんて江戸っ子みたいなことを言っておりますけれども。


 そんな冒険者たちが、金がなくなったってんで、じゃあダンジョンにでも潜るか、ってな次第でして。


 吟遊詩人  「あー、遅いな、何やってんだよ、もう。日の出とともにダンジョンの入り口に集合って言ったのに、ウチのパーティのメンバーは誰も来てないじゃないか」

 戦士    「ああ、お待たせ」

 吟遊詩人  「お待たせじゃないよ、やっと来たよ、戦士が。戦士がいないと戦えないんだから早く来なきゃダメじゃないのさあ。あれ、オタク、やけに軽装だねえ。手ぶらじゃないかい。装備はどうしたんだい、装備は」

 戦士    「ああ、あれ?あれは、今日はない」

 吟遊詩人  「ないってどういうことだよ」

 戦士    「実はな、俺、酒手がなくなっちゃってな。仕事道具を質に入れちゃったんだよ」

 吟遊詩人  「仕事道具って、もしかしてアレかい?」

 戦士    「うん、鎧兜」

 吟遊詩人  「ダメじゃないかい、戦士が武器防具を質に入れちゃ。大工じゃあるまいしさあ。どうすんだよ、モンスター出てきたって戦えないよ」

 戦士    「いやいや、剣は質に入れてないよ。剣は戦士の魂だからね。剣を質になんて入れるもんかね」

 吟遊詩人  「でも持ってないじゃないかい」

 戦士    「サイコロで取られたんだ」

 吟遊詩人  「なお悪いよ」


 吟遊詩人  「他のメンバーはどうしたんだい。盗賊はどうした、ホビットの盗賊は。戦士がいたって盗賊がいなきゃ宝箱の鍵が開けらんないんだからね。やい、ホビット。ホーちゃん?ホの字?ホニキ!」

 盗賊    「ここにおります」

 吟遊詩人  「ああ、なんだいたのかい。ホビットってのは、足音がしないからわからなかったよ。いつからいたんだい?」

 盗賊    「2秒前」

 吟遊詩人  「どっちにしたって遅刻だよ!こっちは早くから待ってるんだから、時間通りに来てくれなきゃ困るよ、ねえ」

 盗賊    「へえ、すみません」

 吟遊詩人  「でもさ、お前さんはちゃんと鎧着てるだけ偉いよ。皮の鎧だから大した守備力にはならないけど、冒険者たるものこうでなくちゃねえ」

 盗賊    「えへへ、それが、肝心なものがありませんでして」

 吟遊詩人  「なんだい?あ、もしかして盗賊の七つ道具?」

 盗賊    「えへへ、正解」

 吟遊詩人  「正解じゃないよ。お前さんも仕事道具を質に入れたっていうのかい」

 盗賊    「いえ、滅相もない。盗まれたんでさあ」

 吟遊詩人  「盗賊が盗賊の七つ道具盗まれてどうすんだよ」

 盗賊    「物騒な世の中ですなあ」

 吟遊詩人  「お前みたいなもんがいるから物騒なんだよ」


 吟遊詩人  「もう、戦士は武器防具がないし、盗賊は七つ道具がないし。どうすんだよ、これじゃ戦えないし鍵も開けらんないじゃないかさあ。後のメンバーは大丈夫だろうねえ?僧侶はどうしたんだい、僧侶はまだかい、あの生臭坊主は」

 僧侶    「待った?」

 吟遊詩人  「待った?じゃないよ、まったくもう。やっと来たかい、生臭坊主。うわ、なんだい、その匂いは。酒臭いねえ。オタク、また朝まで飲んでたね」

 僧侶    「正解」

 吟遊詩人  「正解、じゃないよ。日の出とともに集合って言ってあったじゃないか」

 僧侶    「だから寝ないで飲んでたんだ」

 吟遊詩人  「体調管理が全く出来てないじゃないのさあ。そんなんで大丈夫かい、お経間違えたりしないだろうね?頼むよ、アンタがお経を唱えてくれないと怪我したって回復しないんだからね」

 僧侶    「ああ、それは大丈夫だ。俺はお経を間違えることはねえ」

 吟遊詩人  「そうかい、そりゃ安心だねえ」

 僧侶    「だって覚えてねえもん」

 吟遊詩人  「覚えてないって、偉そうに言うんじゃないよ、どっかの落語家じゃあるまいしさあ」

 僧侶    「大丈夫、大丈夫。お経を唱えるときはちゃんと本を見て唱えるからさ。ただ……」

 吟遊詩人  「ただ、なんだい?」

 僧侶    「ただ最近、ちょっとお経の本の野郎が見当たらなくてな」

 吟遊詩人  「お経の本の野郎って何だい。やだよお、アンタも商売道具を質に入れたってのかい?それとも盗まれた?」

 僧侶    「いや、そういうんじゃねえんだ。そういうんじゃねえんだけど、見当たらねえんだよ」

 吟遊詩人  「それじゃダメじゃないかい。ちゃんと自分の商売道具は自分で管理しなきゃダメだよ」

 僧侶    「きっと明日の朝には、腹空かせて帰ってくるんじゃねえかと思うんだけどな」

 吟遊詩人  「犬じゃあるまいし」

 僧侶    「だから悪いけど、今日は怪我のないようにやってくれ」

 吟遊詩人  「怪我のないように、って、現場を知らない上司か!ダンジョン潜るのに、怪我なしってわけにいかないじゃないのさあ」

 僧侶    「でも、大丈夫。そんなこともあろうかと、良く効くポーションの瓶を用意してきたから」

 (僧侶、懐からポーションの瓶を出す。)

 吟遊詩人  「それはポーションじゃなくて、ブランデーの瓶だよ!」

 僧侶    「え、これブランデーかい?どうりで良く効くと思ったよ」



 吟遊詩人  「あー、もう。本当にどいつもこいつもそそっかしいったらありゃしないねえ。戦士は武器防具がないし、盗賊は七つ道具がないし、僧侶はお経が唱えられないときた。みんなこのアタシを見習ってちゃんとしてほしいもんだね」

 戦士    「そういうお前さんの職業は何なんだい?」

 吟遊詩人  「アタシ?アタシは見ての通り。この竪琴をごらんよ、吟遊詩人だよ」

 戦士    「吟遊詩人って、何の役にも立たないじゃないか。冒険者になろうってのに吟遊詩人を選ぶなんて、どっちがそそっかしいんだよ」

 吟遊詩人  「何言ってんだい、吟遊詩人は大事だよ。吟遊詩人ってのは、オタクらが大冒険したのを、歌にして世の中に伝える大事な役目を担っているんだよ。冒険者がどれだけ活躍したって、吟遊詩人がいなけりゃ、世間の人は何にも知らない。オタクらはその辺のゴロツキと変わんないんだからね」

 戦士    「ところで俺たちが活躍したことあったかい?」

 吟遊詩人  「ない」

 戦士    「じゃ、意味ないじゃないか」


 吟遊詩人  「ほら、そろそろダンジョンに潜るよ。日の出とともに集合のはずだったのに、もう、お天道様があんなに高いところにあるよ。あと来てないのは誰だい?魔法使いのおじいさんだねえ。嫌だよ、年寄りの朝寝坊ってのは」

 魔法使い  「ふお、ふお。待たせたの」

 吟遊詩人  「ふお、ふお、じゃないよ。本当にもう。アンタが一番しっかりしてくれなきゃ困るよ。まあ、でも、ちゃんと装備を持ってきたのは流石だねえ。年の功だねえ。ちゃんと魔法使いの杖を持ってるときた。冒険者はこうでなくっちゃ。ああ、良かった。これで何とか攻撃魔法だけは使えるよ。頼むよ、じーさん。戦士も盗賊も僧侶も、揃いも揃って頼りないときてるんだから、アンタだけが頼りだよ」

 魔法使い  「ふお、ふお。任せなさい」


 さあ、ようやくパーティのメンバーも揃ったところで、いよいよダンジョンに潜った一行たち。

 お宝目指して進んで行きます。


 ????  「サッ、サッ、サッ、サッ」

 吟遊詩人  「何の音だい?さっきから、サッサ、サッサとうるさいねえ。あーっ、じーさん!?魔法使いのじーさん?アンタ、それ持ってるの魔法使いの杖じゃないね?」

 魔法使い  「うん、これ?」

 吟遊詩人  「これ、じゃないよ。それ杖じゃなくて、竹箒だよ!どうりでサッサ、サッサと音がするわけだよ。どうすんだよ、ホウキなんて持ってきて。それじゃ魔法が使えないじゃないのさ」

 魔法使い  「これは、こう、跨って」

 吟遊詩人  「空でも飛べんのかい?」

 魔法使い  「飛べない」

 吟遊詩人  「じゃ、ただのホウキだよ!どうすんのさ、ダンジョンの床を綺麗にしたってしょうがないじゃないかい、ねえ」


 吟遊詩人  「ほら、来たよ。扉の前まで来たよ。ここ開けると、モンスターかなんか出てくるよ。いいかい?開けるよ?やだねえ、本当は開けたかないんだけどねえ、一文無しじゃしょうがないねえ。街に帰ったって、今夜の飯代もないんだから、お宝見つないことには、帰ろうにも帰れないからねえ」

 バッと扉を開けますってえと、中にいたのはお馴染みのモンスター。

 吟遊詩人  「ほら、出たよ、出たよ!ゴブリンが出たよ!1、2、3、4、5匹もいるよ、5匹も!こっちより多いよ、どうしよう」

 戦士    「慌てんじゃないよ。5匹だったら、こっちと変わんねえじゃねえか」

 吟遊詩人  「戦える人数のことを言ってるんだよ!どうしよう、向こうは武器を持ってるよ!錆びた剣なんか持ってるよ。嫌だよお、あんな錆びた剣で切られたら。痛いよ、怪我するよ、傷口に錆が入って嫌なことになるよ。戦士、何とかしてくれよお」

 戦士    「何とかしてくれったって、武器がないからなあ。どこかに固いもんでもないかい?」

 吟遊詩人  「固いもの?」

 戦士    「あ、それ貸してくれよ。固そうじゃないか」

 吟遊詩人  「これ?アタシの竪琴?だめ、だめ、こんなんでゴブリンの頭なんか殴ったら、竪琴が壊れちまうよ。アレ、アレを使いなさい。竹箒!」

 戦士    「竹箒?竹箒じゃ無理だろ、中身スッカスカだぜ?」

 吟遊詩人  「じゃ、アレだ。僧侶が瓶持ってたろ。アレなら固いから大丈夫だ」

 僧侶    「ダメだろ、中身ブランデーだぜ?割れたらどうすんだ」

 吟遊詩人  「そんなこと言ってる場合かよ。ほら、ゴブリンがなんか言ってるよ、ゴガゴガ言ってるよ、なんて言ってるんだい?誰かゴブリン語がわかる奴いないか?誰かいたろう、わかる奴。あ、アタシか」

 僧侶    「何でい、そそっかしいな」

 吟遊詩人  「え、何だって?そのブランデーの瓶を、こっちに寄越してくれたら、命だけは助けてやる、だって?」

 僧侶    「いや、これは渡せねえ」

 吟遊詩人  「渡すんだよ、命あっての物種って言うじゃないかさあ。ほら、ちゃっちゃと渡した、渡した。おや、ホビット君、ホーちゃん、どうしたい?何か言いたいことがありそうだねえ」

 盗賊    「へえ、ダンナ。ブランデーと引き換えに、宝箱を渡してくれるように交渉してみたらいかがでしょう」

 吟遊詩人  「宝箱?そんな虫のいい話が通用するかねえ?一応やってみるけどねえ。えっと、ゴブリン語でなんて言えば良かったかね?えーっと、ゴ、ゴガ、ゴガゴガゴガゴガ?ちょっと違ったかねえ?」

 盗賊    「ダンナ、いいって言ってやすぜ」

 吟遊詩人  「なんで君がわかるのさ」

 盗賊    「だってあいつら普通に喋ってますぜ」

 吟遊詩人  「何だい、このゴブリン、人間の言葉がわかるのかい」

 盗賊    「ダンナはまったく、そそっかしいですな」

 吟遊詩人  「やかましいよ。兎にも角にも、これで交渉成立だよ。あー、良かった。宝箱も手に入ったし、これで怪我せずに街に戻れるねえ。え、何?ゴブリン、まだ言いたいことあるの?え、何だって?ダンジョンの床を綺麗にしてくれてありがとう?余計なお世話だ!」


 さあ、ということで宝箱を手に入れて、街に戻った一行であります。

 いつもの酒場に着きますと、早速酒を注文します。

 ただ、連中は一文無しですので、宝箱を開けて中のお宝を取り出さないことにはどうしようもありません。


 吟遊詩人  「うーん、問題はこれをどうやって開けるかだねえ。盗賊はいるんだけど、盗賊の七つ道具がないときてるからねえ。でも、もう酒は注文しちゃったから、開けなきゃしょうがないねえ。えーっと、ここを何とかこうして開かないかねえ?あ、イタ!イタタタタ!宝箱がアタシの手を咬んだよ!これミミックじゃないか!あのゴブリン、騙しやがったな。これミミックだよ、アイタタ、アイタタ!誰か引っぺがしてくれよお」

 (宝箱から手を放す。)

 吟遊詩人  「おー、痛かった。酷い目に会った。ほら見てごらんよ、咬まれた跡がついちまった」

 盗賊    「大丈夫ですかい?」

 吟遊詩人  「何、心配いらないさ。だから言ったじゃないか、咬傷成立って」

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