責任の所在
まるで予想だにしていなかった提案に驚きを覚えたが悪い話ではない。
そう“俺にとって”は悪い話ではないのだけれど、
「……何故? リゼの実力なら引く手数多だろう」
情けない話だがリゼと俺の実力差は段違いだ。
オーク三匹を一人で無傷のまま倒すなんて普通じゃない。
これまでは幼馴染と一緒だったから歩幅をそちらに合わせていたのだろう。
当人が望んでいるのでこういうのはアレだが枷がなくなった今、下層に留まっている理由はあるまい。
「お前にメリットがない」
俺を騙そうだとか悪意を忍ばせての誘いではないと思う。
悪く言えば単純。良く言えば素直だからそういう腹芸は無理だろう。
いや俺だってそんな器用な芸当が出来るわけではないがリゼよりはマシだ。
「いや、その……」
口ごもるリゼ。しかし腹を括ったように少し顔を赤らめながらこう打ち明けた。
「もう情けないとこは見られてるし正直に言うけど……こう見えて私、剣以外結構ダメダメなのよ」
わりとポンコツな感じは察してた、とは言わない。
多分本人的にはバレていなかったと思うから。武士の情けってやつだ。
「村でやってた野良仕事以外じゃ冒険者ぐらいよ。私が食べてけるの」
剣の腕はあってもその他の部分で騎士とかはまあ、難しそうだ。
高貴な人間と接することがあってそこで無礼を働けば目もあてられない。
「ジャンとアリシアもそこらは分かってて最初は残ろうとしてくれたのよ」
信頼出来る新しい仲間に出会えるまではということか。
「でもほら、嫌じゃない? 気まずいのもあるけど新しい門出を迎える二人をさ」
「足止めしたくなかったと。気持ちは分かる」
「それでついもうあてはあるって言っちゃったのよ」
考えなしが過ぎる。というか多分、幼馴染二人にはその場凌ぎってバレてたんじゃないか?
「で、言った後であんたの顔が思い浮かんだの」
「……俺?」
「うん。酒場で話した感じ、すっごくしっかりしてたなーって」
それで世話になったお礼をするついでに俺を探していたのだという。
都合が良いというのはそういうことだったのか。
「私の見立ては間違ってなかった。オークを倒した後、私は報告とか全然思いつかなかったもん」
オークがここらに居ないなんて知らなかった。
何ならオークというモンスターが居ることさえ。
いやそれは流石にヤバいだろうと思ったが……幼馴染が心配してたのがよく分かる。
「ギルドでのやり取りもそう。しっかり必要な情報を伝えられてたし私のフォローもしてくれた」
信頼出来るものは十分見せてもらったと言いリゼはこう続ける。
「私はあんたに足りない腕っぷしで助けてあげる。だからあんたはそれ以外の部分で私を助けて」
「……」
「ま、まあいきなりこんなこと言われても困るのは分かってるし」
黙り込んだ俺を見て気まずくなったのだろう。
しばらくは待つからと席を立とうとするリゼを俺は引き止めた。
「この場で答える。大事な問題だからこそ今、決めなきゃいけない」
「?」
キョトンとするリゼに少しだけ待ってくれと言い思案する。
悪い話ではない。むしろ良いこと尽くめだ。
でも、
(パーティに入れてもらうのとパーティを作るは大きく違う)
責任の所在だ。
前者でもパーティのために身を張るという責任はあるが意思決定はリーダーの役目。
だが後者、リゼがリーダーなら話は変わるがこの子は俺に任せるつもりだ。
ならば俺はリゼの命に責任を持たなければいけない。
(俺に他人の命を背負えるのか……)
モンキーさんと心の中で呼びかける。
助言を貰えればと思ったのだが、返って来たのは俺の望む答えではなかった。
>@Super_monkey
この場で答えると言うたのは正しい。
全ての局面において正しいわけではないが即断すべき場面は確かにある。それが今じゃ。
だがその後で儂に助言を仰ぐのは減点よな。これは“おみゃあが決めねばならぬ”ことぞ。
それは分かっているはずだと突き放すように言われる。
(……その通りだ)
己が己に覚悟を問うているのだから。
弱気が甘えに繋がった。反省しなきゃいけない。
「分かった。パーティを組もう」
熟考の末、何も言わず待っていてくれていたリゼに告げる。
「お前の命を俺に背負わせてくれ」
「ん……やっぱ、あんたで間違ってなかった。そこまで言ってくれたなら私も答えなきゃね」
言葉が足りないかと思ったが言いたいことは伝わっていたようだ。
「あんたが私の命に責任を持ってくれるなら私はあんたの剣になるわ。
何を斬れば良いのか。何を斬っちゃいけないのか。しっかり教えて頂戴」
そこまで言ってリゼは自信満々に笑う。
「そうしてくれるなら――――ええ、どんな困難もぶった斬ってあげる」
「ああ、期待してる」
「じゃ、改めてよろしく!」
差し出された手をしっかりと握り返す。これでパーティ結成だ。
「ならこのお金はパーティの資金ってことで良いか?」
「構わないわ。元々貰うつもりなかったし。あ、でも一つ良いかしら?」
「何だ?」
「お祝い! お祝いしましょ! 折角パーティを結成したんだしこれでパーッと!」
剣以外は駄目なんて言ってたがそんなことはないじゃないか。
「店は任せて良いか?」
「まっかせなさい! 良いとこ知ってんだから」
だってこんな最高の提案をしてくれるのだから。




