楽しいことをしましょう
「えっと」
笑うのが下手。そんなこと初めて言われた。
>@Super_monkey ……。
一体どんな意図があっての発言かと困惑していると、
「最初はね。私に気を遣ってるのかなって思ったのよ」
自分が行きたいところに連れまわす形になってしまった。
だから楽しめなかったのかとさっき思ったらしい。
「いや別にそんなことはないけど」
主体性がないと言えばまあそうだけどさ。
それでも面白くなかったらそれとなく口にはするし無理なら無理と言う。
「それもホントだと思う。でも昨日みたいな笑顔じゃなかった」
「昨日?」
「うん。私がジャンたちとちゃんと話せたって言ったらあんた嬉しそうに笑ってたもん」
そう、なのか?
自覚はないが見てたリゼが言うなら間違いはないのだろう。
「なのに今日の笑ってる顔はずっとぎこちなかった」
楽しんでいるようには感じるけど。でもやっぱり笑顔が変。
自分の見立てが間違っているのかと思った結果、楽しくなかった? に繋がったようだ。
「楽しかったって言葉はやっぱり嘘じゃない。それで分かったのよ」
「笑顔が下手って?」
「うん。真はさ。多分、私に出会うまではずっと酷い生活だったんじゃない?」
「……まあ、そうだな」
俺がこれまでどうしてたかなんて一度も聞かれてはいない。
それでもリゼなりに察して気を遣っていたのだろう。
「それでさ、楽しい時の笑い方が分からなくなっちゃったのかなって」
温かい部屋から雪の中に放り込まれるようなものだとリゼは言う。
「最初から寒い方がマシだから心を殺してた」
「……」
「そうしてる内に自分のことでは上手く笑えなくなった」
俺にそんな自覚はない。
でもリゼを見てると何となくそうなんだろうなと思った。
「だから、さ」
リゼの両手が優しく俺の頬を包み込む。
そして真っ直ぐ俺の目を見つめるとこう告げた。
「私が思い出させてあげる」
「え」
「だってほら、貰い過ぎじゃない?」
どういうことだろうか。
「戦闘は任せておきなさいとか言ったのにスキルゲットしたでしょ?
ヤバい時はあれで助けてもらって戦闘でも真のお世話になるわけじゃない」
貰い過ぎというのはそういうことか。
そんなことはないと言おうとしてムギュっと強めに頬を挟まれる。
「あんたじゃなくて私がどう思うかってこと」
パッと手を離し後ろで両手を組みながらリゼは俺の前を歩く。
俺は何を言えば良いか分からずその背中を見つめることしか出来なかった。
「冒険して、美味しいものを食べて、綺麗な景色を見て」
くるりと回って立ち止まりリゼは笑う。
「――――いっぱい楽しいことをしましょう」
夕陽に重なるその笑顔に俺は少しの間、呼吸を忘れた。
「ね?」
「……ああ、そうだな。手を引いてくれると助かるよ」
「ええ、私に任せなさいな♪」
それから少しだけ話し合い今日は宿に戻ることになった。
一日あちこち見て回ってたからな。流石にちょっと疲れた。
食事は途中で何か買って部屋で食べることにしたのだが……。
「あの、一人で帰れるぞ?」
「は?」
「え?」
リゼがずっと着いて来るので送ってくれてるのかと思ったんだけど違うのか?
「いやもうあんたの宿に移ったし」
パーティを組むんだから同じ宿のが良いに決まってるでしょと呆れたように言う。
だから今朝、俺の宿に居たのか。
「パーティ組むなら一緒の宿にってのは正しいけど一言もなかったよな?」
宿を移るなら一言あって然るべきだろ。
「……まあ、ちょっとした言い忘れぐらい誰にでもあるわよ」
「……そうだな」
今回は些細なことだから問題ないけど大事な時もこれだと困る。
そういう話が出ている時はコマメに確認しよう。そう強く心に刻んだ。
「ところであんた部屋の更新、次は何時?」
「ん? 二日後」
「じゃあその時に二人部屋に変えるよ」
「え、一緒の部屋にってこと?」
「そうだけど? 二人部屋のがお得じゃない」
いやまあそれはそうだけど俺らは男と女なわけで。
ちょっとそういうのはマズイんじゃないかと思ったが、
「何よ?」
この調子だと無駄だな。
向こうが気にしてないのにこっちが気にするのもおかしな話だ。
色々生理現象はあるが、そこはまあ上手くやれば良いか。
「いや何でもない。リゼが良いならそうしようか」
「良いに決まってるじゃない。何言ってんの?」
などと話している内に宿に到着。
すると女将さんからこないだの客が来たから部屋に通したと告げられる。
「こないだの? 誰?」
「あー、後で話すよ」
「了解。あ、話終わったら私の部屋に来てよ。一緒にご飯食べましょ」
「うん。じゃあまた後で」
リゼと別れ部屋に戻るとアレックスさんが笑顔で俺を迎えてくれた。
「よ、おかえりあんちゃん。何かこないだより随分と顔色が良いじゃねえか」
「ええ、お陰様で。色々流れが上向いて来まして」
「そうかそうか。そりゃ良かった。それでな、先生が戻って来たんで話はつけといた」
「! そうですか。ありがとうございます!」
「何の何の。で、だ。先生は今週は特に予定がないそうでな」
何時会いに行くかは俺に任せるとのこと。
それも含めて色々話を詰めるとアレックスさんが飯でもどうだと誘ってくれた。
「すいません。ちょっと先約が」
「構わね……ははあん。女か? あんちゃんもやるねえ!!」
しっかりやんな! と一度背を叩きアレックスさんは帰って行った。
(いよいよか。……やばい、凄くドキドキする)
勉強という言葉でこんなにも胸が弾む日が来るなんて思ってもみなかった。




