誰かがあなたを見ている
「おかえりなさい真さん。清算ですか?」
「はい。それとすいませんがこれもよろしくお願いします」
レナさんにカードと巣穴で見つけた金品等を提出する。
基本、ああいう場所の物は発見者に所有権が生まれるので提出の必要はない。
が、捜索依頼が出されている人間の遺品等が混ざっている場合もあるのでギルドは提出を推奨している。
その場合、提出品の金銭価値を鑑定。
同等の額を数日から一週間後にギルドが発見者に支払うということになる。
>@Super_monkey
慌てる乞食は何とやら。直ぐに手に入る金より小さな信を積み重ねる方がよっぽど有益よ。
ええ判断ぞ。目先の欲に惑わされてはいかん。これからもその調子でな。
そう言われると俺も気分が良くなる。
この人は些細なことでもしっかり褒めてくれるんだよな。
二人だけとは言えパーティのリーダーになった以上、俺もその姿勢は見習わないとな。
「書類の準備を致しますので少々お待ちを」
「はい」
その場で書類を作るとレナさんは席を外した。
彼女はあくまで受付嬢。取得品担当はまた別に居るのだ。
手持無沙汰になり何となしに画面の端を見る。
(……やっぱ見てるな)
気付いたら増えていた視聴者数。
今のところ何のアクションもないがやっぱり気になる。
>@Super_monkey
今考えても仕方あるまいよ。接触して来てから考えればええ。
そんなことを話しているとてレナさんが戻って来た。
まだ昼前で暇だし手続きが終わるまでお喋りをしてくれるということだろう。
(俺としても都合が良い)
というかこれを狙ってた。俺じゃなくてモンキーさんがだけどな。
「それにしてもお早いですね」
やっぱりスキルのお陰かな? などと考えていそうだがレナさんは口にしない。
スキルというのは個人情報だ。明かさない人も居ればあけすけに語る人も居る。
だからギルドも配慮してあちらから言及することはないのだ。
まあ本人が許可を出せば別だが。
「ええまあ、リゼのお陰です。ありがたいことですがスキルは実験ぐらいしか出来ませんでした」
というわけでスキルについて言及して良いと暗に告げる。
これはリーデルへの道中でモンキーさんと話し合った結果だ。
>@Super_monkey
ただ秘するだけでも問題はない。だがただ隠すだけではつまらない。
ここで一石を投じ二鳥を墜とすのが儂という人間よ。真、しっかりやれよ。
分かっているとも。
「オークを瞬殺するレベルですしね。ちなみにどのようなスキルなんです?」
「条件付きの他人への強化です」
「それはまた」
レナさんが軽く目を見開く。
さあ、ここからが俺の腕の見せ所だ。
「代償系のスキルに分類されるんでしょうね。自分に強化を施せない代わりに他人を強化出来る。
他にも色々と制約つきでクールタイムはあっても魔力や体力の消費はなし。
条件を満たせば安定して二倍の強化を施せるというのは中々に強力だと思うんですがどうでしょう?」
虚実織り交ぜた説明を敢えてすることで目をつけられるリスクを減らす。
普通に明かしても問題のないスキルですよってね。
よっぽど派手なことをしない限りはする必要のないことだ。
しかしやっておいて損はないし、別の部分で利益を得られる。
具体的には、
「私もそう思います。リゼさんとの組み合わせなら色々依頼を回せるかと」
こんな風にな。
ちなみにこの作戦はリゼにも説明してある。
ポンコツなとこはあるけど事前に言い含めておけば取り繕えるのだ。
今だって平然と掲示板を見て……あ、いやあれは単に興味ねえだけだわ。
「幾つか指定のものを達成すれば昇格依頼も受けられるかと!」
今は最下級の銅等級だが鉄等級ぐらいまでは容易いだろう。
そうお墨付きを貰い思わずにやけてしまいそうになる。
アイアンになるだけでもと暮らしはこれまでよりずっと楽になるからな。
そりゃにやけそうにもなるって話だ。
「あ、でも」
「分かってます。無理はしません。地道にコツコツが信条ですから」
調子に乗って痛い目を見るのは御免だ。
ようやく這い上がれる流れを掴んでるのに振り出しに戻ってたまるか。
「はい。それが一番です」
でも良かったとレナさんは言う。
良かったとはどういうことだろうか?
「真さん、いつも辛そうな顔で歯を食い縛るようにしてましたから」
「……」
「そんな風に穏やかな顔が出来るようになって本当に良かった。ここまで頑張った甲斐がありましたね!」
笑顔で告げられた言葉は俺の胸に深く突き刺さった。
言葉を失う俺にモンキーさんは言う。
>@Super_monkey
誰も己のことなぞ見ていないと思っても存外、周囲は見ているものよ。
リゼもそうであったろう? だからおみゃあならと訪ねて来おった。
良くも悪くも生きている限り他人の目からは逃れられない。
モンキーさんの言う通りだ。だってその証明がレナさんなんだから。
自分を心配して報われて欲しいと願ってくれていた人がモンキーさん以外にも居てくれた。
まるで気付かなかった事実を知り目頭が熱くなる。
「……ありがとうございます」
「いえそんなお礼なんて」
昨年の冬にこっちへ来て半年と少し。何度も挫けそうになった。
いっそ死んでしまおうかと考えたことだってある。
そうすればお母さんに会えるかもしれないって。
でもその度に小さい頃、母がくれた言葉を思い出して踏み止まった。
『偉いわ真! 諦めずに最後までよく頑張った!!』
かけっこで転んで痛くて情けなくて涙を堪えながらゴールまで走ったあの日。
母は俺を抱き締めそう言ってくれた。だからまだ頑張ろうって。
(諦めなくて――――本当に良かった)




