【第五章】永遠の約束~言の葉に宿る真実~
第一節:湖畔のベンチでの手紙の再読...隠された真実...
翌日、安曇は撮影の合間を縫って再びアーリントン湖畔を訪れ、ガジュマルのそばにあるベンチに腰を下ろした。暖かな午後の光が静かに湖面を照らし、春風が優しく頬を撫でる。鳥たちのさえずりが聞こえ、湖面には小さな波紋が広がっている。
昨晩は一睡もできなかった。ホテルの部屋で何度もジョンの手紙を読み返そうとしたが、感情が高ぶりすぎて最後まで読み通すことができなかった。涙があふれて文字が滲み、胸が締め付けられるような思いで手紙を閉じるしかなかった。
安曇はバッグから、ジョンの手紙を取り出した。昨日は動揺が激しく、手紙の全文を読む勇気がなかった。撮影の時に泣き出して、周りに迷惑をかける心配があったのだ。涙で滲んだその手紙を、改めて最初からゆっくりと読み返し始めた。彼の弱々しく乱れた筆跡が胸を締め付ける。安曇は丁寧に、心の中で日本語に翻訳しながら文字を追った。
「なつかしい安曇ちゃん。この手紙を読んでいるということは、キミは、今は未婚か、あるいは今は独身なのだろう。僕と別れた後に、何人かの男性との出会いと別れを経験して今に至るのだろう。僕は、末期の癌で、字を書くこともままならない。最後に、キミに贖罪というわけでもないがキミと別れた真実...気に障るかもしれないがキミへの忠告(これは若い日の手紙でも少し触れたが)、この作品を書くに至った経緯、それと僕の研究成果から導き出した仮想世界のことも語っておきたい。それは空想だとキミは笑うかもしれないが、僕は真実だと信じている。学者気質が抜けないので、章立てで、少し硬い文章が続くが、許してくれたまえ。昔も今も僕は変わらないのだ...
若い頃にキミに出した手紙では多くを語れなかったから...あの時のキミからの返信は今の僕の宝ものだ。それは、僕に突き付けられた厳しい現実ではあったが...ほんとはあの時も今も直接に会って真実を伝えたかった。でも、もう僕に残された時間は僅かだ。この手紙に真実と僕の人生の最後の想いを托すよ」
安曇は一度手紙から目を離し、深呼吸をした。ジョンの文字を見ているだけで、彼の声が聞こえてくるような気がする。36年前の若い彼の声と、今の病気で衰弱した彼の声が重なって聞こえてくる。
「1.キミとの別離の真相について
あの当時、僕はキミとの時間以外は、学業と生活費を稼ぐためのバイトをしていた。キミと過ごす時間だけが僕の安らぎと癒しだった。キミと結婚したいと父に話したとき、父の顔色と口調が別人になった。「世界中で、カグシマ(鹿児島)だけはだめだ。それでも結婚するなら、親子の縁を切る。お前の嫁や生まれてくるかもしれない孫はもちろん、お前にも生涯合わない」と...
父が戦争孤児で、孤児院で苦労したのは知っていた。父の話だと、鹿児島県の知覧から出撃した特攻ゼロ戦からの爆弾投下により、ハワイの真珠湾で荷役に従事していた民間人の祖父が亡くなり、祖母もその後に過労から体を壊して、若くして亡くなった。
父とのことで悩んでいる時、大学の理学研究室にキミの叔母さんが僕を訪ねて来た。安曇の家族が重い病気になり、帰国せざるを得なくなり、保護者として安曇の退学の手続きをした。あなたには申し訳ないが、後ろ髪を引かれないように説得してほしい、はっきり言えばすぐに別れてほしいと懇願された。僕の当時の状況を考えれば、当然の親心だと感じた。
キミを愛する気持ちはとても深いものだったし、キミと生涯をともにしたかった。でも、僕がキミを幸せにできる見込みなどほぼなかった。LOVEとは本来は大切にするが語源だ。キミとキミの人生を最も大切に思う僕は、苦渋の決断をした。他に想いを寄せる女性などいないのに、他に好きな女性ができたから、キミとは結婚できないと言い放った。これが当時の真実だ。その決断を後悔したことはないし、僕の人生で最善の選択だったと思っている』
安曇の目から涙がこぼれ落ちた。36年間、彼が他の女性を愛したのだと信じていた。その痛みを胸に秘めながら生きてきた。でも、真実は全く違っていた。
「その後の僕は、キミを忘れようと、研究に打ち込み、物理学で多少の成果もあげた。
キミとの出会いから、日本人やアジア人の文化を理解しようと思い、歴史や思想も学んだ。しかし、不思議な感覚だった。新たに学ぶというより、僕にはそれ以上の知識がすでにあり、過去から紡ぎ出されてくるような感覚だ。しかも、なぜか中国の故事や歴史書の誤りさえも僕にはわかる——唐の中期の頃までだが……それも不思議だ。そういう感覚もあって、量子物理学と東洋の「色即是空」等の思想を融合した、仮想現実世界論が生まれた。
その後、父と日本との「太平洋戦争」について語り合った。当時の日本兵のほとんどは、普通の市民だった人たちだ。彼らは、国のためというより、家族のため、妻子のためにやむなく従軍した者が多かった。
日本と米国の関係が良好だった日露戦争終結直後、テキサス出身の若き将校チェスター・ニミッツ(後の元帥・提督)が旗艦「三笠」艦長の東郷平八郎(後の元帥・伯爵)を表敬訪問した。二人の会談は短かったようだが、若き将校は東郷の人格や話に深く感銘を受け、生涯の師匠として私淑した。
その後、40年近くの歳月が流れ、東郷は逝去し、ニミッツは、アメリカの太平洋艦隊司令長官として、日本海軍を完膚なきまでに叩きのめし、米国の大英雄、そして元帥・提督になった。歴史のやむなき事情で、敵味方に分かれた鹿児島県人とテキサス州人だったが、ニミッツが師匠と慕う東郷への崇敬の念は変わらなかった。アメリカは東京を占領したが、ニミッツの命令で東郷関係の事物には一切の変更が許されなかった。さらに、ニミッツは、日本人が放棄した日露戦争の旗艦「三笠」の復元と全焼した原宿の「東郷神社」の再建に私財を投入し、募金も募り、復元させた。
日露戦争の旗艦「三笠」の復元完成記念式典で、アメリカ代表は「東郷元帥の大いなる崇敬者にして、弟子であるニミッツ」と書かれたニミッツ提督の肖像写真を持参して敬意を表した。
以上が、鹿児島県人とテキサス州人を巡る「追憶の墓標と虹の架け橋」の昔日の話だ。
歴史の真実を時系列に紐解くと、日本の天皇と国民全体には、軍部の暴走を阻止できなかった責任はあるだろう。一方で、食料が枯渇しかねない経済制裁網を主導して追い込んだことや「広島と長崎への原爆投下」は、米国にも大きな責任がある。日本人の子孫は、原爆被害者の遺伝子を引くというだけで、今も多くの罪なき人々が苦しんでいる。父には、これらのことを何度も説明し、父もついには理解してくれた。「追憶の墓標」は「虹の架け橋」にしなければいけないと……。
いつか、その日には、首都ワシントンのアーリントン墓地に眠る多くの名もなき英霊の「追憶の墓標」も「虹の架け橋」を渡り、米国と日本の英霊たちは「永遠の和解」ができるだろう。そのように父に話すと、父は、ブルーボネットの花畑にかかる虹を見ながら納得してくれた。
僕の理論では、人という存在は、上位次元の情報領域の一部が投影された動画の主人公のようなものだ。「心」と呼ばれる感知装置が、時間と空間を超えてその情報を受信する。つまり、人の核心は、「その時空、その瞬間での『心』のありよう」なのだ。「心」を違う時空や時代に置換できるなら、「転生」も可能となる。「追憶の墓標」の英霊たちやナチスドイツの犠牲になったユダヤ人、アンネ・フランクらも、「虹の架け橋」を超えて、穏やかな時代のどこかに転生できるかもしれない。いや、すでに、この時代に我々の若き指導者となるべく転生を果たしているかもしれない。僕はその可能性を信じて疑わないし、いつの日か僕の理論は実証されると考えている。
古代中国の唐の玄宗皇帝こと李隆基は、最愛の楊貴妃に死を命じた酷い男と言われているが、僕の理解は違う。彼は、楊貴妃の心を愛と絶望の究極状態、つまり仮死状態にすることで、生きたままの「心」を違う時代に「転生」させたと理解している。たまに、夢で二人の姿を見る。意識が混沌とし始めたからかもしれない。その過去では、僕が李隆基でキミが楊貴妃だ。二人の未来永劫の愛の誓い、隆基の苦渋の決断、楊貴妃の愛と絶望……彼女の「心」は、仮死状態で、どこか違う時空に飛ばされる。その二人と、時空を超えた僕と君が重なる……。
父と和解した僕は、キミとの関係を修復したかった。キミの連絡先や電話番号はわからなかったが、ネットで検索すると、大手芸能事務所のホームページに6年後のキミを見つけた。もしも、キミが許してくれるなら、東京に行き、あの日にできなかった「安曇ちゃんへのプロポーズ」をするつもりだった。でも、時はすでに遅く、キミからは「丁寧な別離」の返信が届いた。僕も、今のキミに愛する男性がいて結婚の予定なら、それがキミの人生の最善だと思い、それを尊重し祝福した。二人で植えたガジュマルとソメイヨシノ、ブルーボネットの花々に、ひとり語りで報告をしながら……・」
その一文は、安曇野心に深く染み入り、懺悔の気持ちを湧き上がらせた。
「すべては私の罪、私の裏切り……。私は、丁寧な返信など返していない。あなたからの手紙と知らずに破り捨てるように、定型の返信文を返すよう指示しただけ。その丁寧さはむしろ私の心の醜さ……」
さらに安曇を苦しめたのが、その手紙を読んでいたとしても、ジョンとの復縁はなかっただろうということだ。もし「オシドリの話」を読んでいたら、ジョンのアドバイスに従い、結婚目前の田島亮平との会話には慎重であったはずだ。当時の私の心にいたのは田島でありジョンではなかった。おそらく、田島と家庭を築き、ここに来ることもなかった。私はジョンを裏切っていた。でもそれが、再びの邂逅を運んでくれた。数奇な年月を経て、私の人生はまたここに戻ってきた。
安曇は手紙を持つ手が震えるのを感じた。ジョンの学者らしい理論的な説明の中に、彼の深い愛情と、そして何か神秘的なものを感じる。
「もうひとつ、昔話をしよう。若き日にキミからの返信をもらって以降、キミのことは常に心の奥にあったが、敢えてしまい込み、研究生活に専念していた。そんな折、ちょうど今から10年前に学会で東京に出張することがあった。ホテルで、夜にテレビを見ていると、キミが番組に出ていた。アーリントンを約30年ぶりに再訪した様子が流れていた。そうか...キミはアーリントンに来たのだなと思った。そして、全部の日本語は理解できなかったが、僕とのことを「大人の愛」「実って、散った」と表現していた。また、「Because I Love You」のメロディーにキミが涙する場面もあった。とても懐かしく、心が震えたよ...
まだ、心のどこかに、もしかしたら、キミの傍らに、いや片隅に...僕はいるかもしれないと感じた。ただ、「実って、散った」というのは、僕の心では違う。でも、キミがそう感じて、人生を歩んでくれたのなら...と、僕は逆に心から安堵した。キミを大切に思う僕の判断は正しかったことの証明だから...キミの口から間接的だけど、その言葉を聞けて僕は満足したのを覚えている」
安曇は思い出した。10年前、確かにテレビの特番でアーリントンを訪れたことがあった。あの時、彼女はジョンとの思い出を「実って、散った美しい恋」と表現していた。まさかジョンがそれを見ていたとは...。
続きの内容は安曇は、オシドリの文字を見ただけで読まずとも、内容は推測できた。やはり、ジョンは安曇に優しく忠告してくれていた。
「2.キミへの忠告
「オシドリ」と肉体への愛についてだ。
まずは、「オシドリ」についてだが、キミに若い頃の手紙でも忠告し、キミも間違いに気づいたようだから安心だが、返信のニュアンスがキミらしくなかったから、念のためにもう一度言うよ。
もし、愛する人がいて、結婚を考えるなら、「オシドリ」という言葉だけは使ってはいけない。「オシドリ夫婦」はもともとが、後宮に3,000人の妻妾を抱えながら、建前は皇帝と皇后という一組の夫婦に対する隠語を含む言葉だ。
現実のオシドリの習性は、お互いに毎年、パートナーを変える移り気で浮気性の代表格だ。どこにでもいる烏の方がパートナーに貞操を尽くすし、アルバトロス(日本名:アホウドリ)は、相手の死後も独身で貞節を尽くす。もし、キミに、結婚を考える相手が、今後現れたなら、「アルバトロス」を使うとよいだろう。オシドリの習性や中国の歴史に詳しい者は、オシドリという言葉の意味が「別離」と「ドライな夫婦の関係」だと知っているから、この言葉を、間違って使うと恋愛の破滅を招きかねない。また、相手が、アルバトロスの意を知らなければ、不思議に思い聞き返すだろうから、「相手の死後も変わらぬ貞節」と答えれば、キミの真意と愛情の深さが伝わるだろう」
安曇は微笑んだ。ジョンらしい学者気質の忠告だった。細かいところまで気を配る、優しい彼らしい配慮だった。
「3.キミの前世、楊貴妃、玄宗皇帝李隆基、鹿児島、「隆」、虹、恋愛体験、「比翼の鳥、連理の枝」
僕の仮想現実社会論、世界論から導かれる推論を語っておこう...
キミの前世は、中国大唐の玄宗皇帝の寵妃の楊貴妃で間違いないと思う。玄宗皇帝は、壮年の頃は明君と謳われたが、その後、大乱を招き多くの人命が失われた。その大きな原因が寵妃との愛に溺れ、朝政を疎かにしたためとささやかれ、最終的に楊貴妃は、玄宗の命で自害したことになっている。事実は違うが、歴史はそう語る。
李隆基は、楊貴妃を秘薬で仮死状態にした後に、祖母の即天武后の秘薬と道教の導師の秘術で、体を量子レベルに分解して、その「心」、すなわち「SOUL(魂)」だけを、別次元に転生させた。楊貴妃の「SOUL」は、隆基が選びそうな次元と時代を求めて彷徨い、「隆」を目印に、「隆」が最も尊ばれる時代と場所に、虹の橋を渡り辿り着き、誕生した。人類の歴史で、「隆」の字が最も尊ばれる場所は、明治維新以降の「鹿児島」市内だ。
一方で、李隆基もやがて虹の橋を渡り、転生した楊貴妃を探すが、なぜか彼の「SOUL」は分裂して、同じ時代に、キミの前後の年齢の者として誕生することになった。一言いえば、今生の伊集院安曇として転生した、キミの「SOUL」が求める者は李隆基の「SOUL」の完全復元だ。それが、李隆基と楊貴妃が誓いし「比翼の鳥、連理の枝」の永遠の愛の誓約だ。
分裂した李隆基の「SOUL」の記憶の大部分は、このジョン・ブレイドの潜在意識となった。そして肉体的な記憶や雰囲気などは、別の何人かに分散された。キミが僕の後に愛した男性たちを回想して見るとよい。「隆」の字と何らかの繋がりがあったかもしれないし、あの音楽「Because I Love You」のメロディーが耳元を過る感覚を覚えたかもしれない。
キミが、僕を含め、何人かの男性を愛し、また別れたことも必然だと思う。そうでなければ、楊貴妃の求める、李隆基の元神である「SOUL」のピースが完成しないのだから。キミがこの手紙を読んでいるということは...キミは...僕の驕りかもしれないが...何人かの男性を愛して、その都度に僕のことを忘れたことを後ろめたく感じているかもしれない。しかし、その感情は不用だ。おそらく、キミが愛した男たちは、ほぼすべてが、李隆基の「SOUL」のピースであり、キミの恋愛と別離は不可避だったと思いたまえ」
安曇は驚いた。確かに、これまで愛した男性たちには、何かしら共通点があった気がする。そして不思議と、別れた後も彼らを憎むことができなかった。まるで、何か大きな力に導かれているような感覚があった。
「僕の心では、キミとの愛は「咲いて、散って、今も実り続けている」。二人が植えた、キミのガジュマルとソメイヨシノ桜は、すでに大きく成長し、実り、毎年、子や孫を増やし続けている。あの一帯は、市との契約で、僕の死後も手入れされ保全管理されることになっている。「言の葉、成り実り、誠実となり、緑葉、啓き結び、縁起とならむ」だ。
少し、字も乱れてきた。この手紙が僕の絶筆となるかもしれないから、最後の気力を振り絞って続けるよ。僕が映画の原作を書いて、教え子で親友でもあるライアンに託した経緯は聞いたと思う。もしかしたら、僕がこのような告白の手紙を書いて、キミの心を乱してしまっていないか心配だ。もし、そうなら、この手紙も捨てるか燃やすかしてくれたまえ。
ただ、もしも今も、あの日のキミがいるのなら、最後にひとつお願いしたいことがある。それが僕がこの手紙を書いた最後の理由だ。アーリントンに来たのなら、キミが、まだ僕を少しでも想ってくれているのならば、あのガジュマルとソメイヨシノとブルーボネットに、昔のように水をあげてほしい。あの子たちも、僕も、僕の心もそこに在る。あの子たちの成長や実りに驚くかもしれない。
人間も植物も量子物理学の観点からは、元素であり微小な粒子だ。人に心があるなら、植物、あの子たちにも、僕の灰にも心はあるはずだから。言葉や態度での表現はできなくても、喜ぶはずだ。仮に...これは僕の希望的憶測にすぎないが、キミにもしも僕への想いがあるとするなら、そして僕の仮想現実社会論が正しいなら、キミと僕は、過去生、現世、来世でも縁が続くはずだ。そのために、正直に真実の僕の心を伝えて、繋ぎたくてね。キミの心を乱すわがままを許したまえ。
最後にキミに詩を贈るよ。できれば歌詞をつけたかったのだけどね...もうギターを弾くことはできないから...三世三生とも大切な安曇へ」
そして、手紙の最後には美しい英語の詩が続いていた。
『[Verse1] By your side, my spirit vigilantly watches over you, For my love endures with an intensity that transcends time. In every life to come, my devotion remains unwavering, A promise carried in every heartbeat. We are like two birds with our wings forever intertwined, Like branches that gracefully embrace in eternal unity, A living testament to our everlasting bond.
[Verse2] My soul stays right by your side, watching over you always, For I love you with a heart that knows no end. In the next life and the one that follows, For I love you more with each timeless breath. We are like two birds with joined wings, Like branches intertwined in endless embrace, Yes, we are the joined birds, entwined branches, Forever united in love's eternal dance.
[Outro] By your side, my soul forever watches over you, For my love burns with an endless, passionate light. In every life that follows, in each world beyond this one, My heart will hold you close—unwavering, eternal. For we are as two birds, our wings forever joined, And as entwined branches, supporting one another in timeless unity, Joined as one, our love echoes through eternity』
手紙を読み終えた安曇は、しばらく動けず、じっと湖面を見つめていた。涙が静かに頬を伝い、胸には切なくも暖かな想いが広がっていた。
「ジョン...あなたの愛は、私が思っていたよりずっと深くて、優しいものだったのね。今まで誤解していてごめんなさい...」
彼女は手紙を胸元にそっと抱き寄せ、目を閉じると、そよぐ風が、まるでジョンの魂そのもののように彼女を静かに包み込んだ。
湖面に小さな波紋が広がり、ブルーボネットの花々が風に揺れている。安曇は立ち上がり、ガジュマルの幹にそっと手を置いた。
「ジョン...あなたは本当にここにいるのね。私にも感じられるわ」
第二節:時の彼方への祈り
安曇は手紙を読み終えると、震える指先で丁寧に封筒に戻し、胸にそっと押し当てた。目を閉じると、春のやわらかな風が彼女の頬を優しく撫でていく。36年前、ジョンと共にこの湖畔に立ち、花や木々に水をあげた日々の光景が鮮やかに蘇った。
あの頃の二人は、まだ若く、未来への不安もあったが、愛に満ちていた。毎日のように湖畔を散歩し、木々の成長を見守り、ブルーボネットの種を蒔いた。ジョンは物理学の難しい理論を、安曇にも分かるように優しく説明してくれた。安曇は鹿児島の文化や日本の歴史について話し、二人は異なる文化の架け橋のような存在だった。
「ジョン、あなたは最後の瞬間まで私を大切に想っていてくれたのね...」
風が優しく頬を撫で、ブルーボネットの花々は囁くように揺れている。その香りがまるで彼の優しい言葉のように安曇を包み込んでいた。
ライアン監督は遠くで静かに見守っていたが、彼女が落ち着いた様子であるのを確かめると、そっと声をかけた。
「安曇さん、大丈夫ですか?」
「ええ...おかげさまで。ありがとうございます」
安曇は静かに微笑み、もう一度ガジュマルとソメイヨシノ桜の木を見上げた。
「撮影が終わるまで、私は毎日ここに水をあげに来るつもりですわ。ジョンがそう望んでくれたのですから」
「先生もきっと喜ばれると思います。あなたが戻ってきたことが、先生の何よりの願いでしたから」
安曇はゆっくり頷いた後、静かな視線を湖面へ向けた。遠くから子供たちの笑い声が風に乗って聞こえてくる。ブルーボネットの花が揺れる中で、彼女は手紙を胸元に抱き寄せながら、ジョンに向けてそっと心で語りかけた。
(ジョン、あなたがいなければ今の私はなかったかもしれない。あなたが与えてくれた優しい嘘は、私を守り、前を向かせてくれた。私の人生を尊重してくれたあなたに、今はただ感謝しています。ありがとう...)
(そして、あなたの転生論...最初は驚いたけれど、不思議と納得できる部分もあるの。確かに私は、なぜか鹿児島という土地を自分で選んで生まれてきたような気がしていた。そして、これまで愛した男性たちに感じていた、何とも言えない既視感...それも、あなたの理論で説明がつくような気がするわ)
しばらくの間、彼女はそのままベンチに座って静かに過ごした。すると再び東の空に薄い虹がかかり、まるで見守っているかのように安曇を優しく照らした。
「あの虹...昨日も出ていたわね。ジョンが微笑んでいるような気がするわ」
「私もそう思います。きっと先生の仮想現実世界論が正しければ...僕はそう確信していますが、彼は今でもどこかであなたを見守っていることでしょう」
ライアンが穏やかに微笑み、安曇も静かな微笑みを返した。
「監督、私は今、この映画に参加できたことに心から感謝していますわ。私の役者人生の中で、これほどまでに心を揺さぶられた作品はありません」
「それを聞けて嬉しいです。先生もきっと同じ気持ちでしょう」
安曇は静かな微笑みを浮かべたまま、そっとガジュマルに再び手を添え、心の中で祈った。
(ジョン、あなたが創りだしたこの場所は、今も確かに私の心に息づいている。いつの日か再び会えるなら、その時はもっと強く、もっと優しくあなたに寄り添いたい。私たちは本当に、永遠に繋がっているのかもしれないわね...)
湖畔に静かな風が吹き抜け、ブルーボネットの甘い香りが安曇の心を優しく包んだ。彼女は胸に手紙を抱き、優しく微笑んだ。
安曇はハンドバッグから小さなペットボトルの水を取り出し、ガジュマルの根元にゆっくりと注いだ。それから、ソメイヨシノの根元にも、そしてブルーボネットの花壇にも。
「大きくなったわね...本当に立派に」
水を得た植物たちは、風に揺れて喜んでいるようだった。安曇は最後に、ジョンの墓標の前に立ち、静かに手を合わせた。
「ジョン、私はあなたの愛を受け取りました。そして、あなたが私に託してくれた想いも。これからも、この子たちを大切にします。そして、あなたとの愛を、心の中で大切に育て続けます」
第三節:撮影現場での新たな発見
翌日から、安曇は新たな気持ちで撮影に臨んだ。ジョンの手紙を読んでから、彼女の演技には今まで以上の深みと真実味が加わった。通訳官の役を演じる時、彼女は自分が本当にその時代を生きているような感覚を覚えた。
「カット!素晴らしい演技でした、安曇さん」
ライアン監督は毎回、安曇の演技に感動していた。彼女の演技からは、単なる技術を超えた何か深い魂の叫びのようなものが感じられた。
撮影が進むにつれて、安曇は脚本の中に隠されたジョンの想いを発見していった。戦後の日米和平交渉という大きなテーマの中に、異なる文化を持つ二人の愛の物語が巧妙に織り込まれていた。
「監督、この場面...まるで私とジョンの物語のようですね」
安曇がある日、脚本を読みながらライアン監督に話しかけた。
「実は、先生がこの脚本を書かれる時、安曇さんとのことを念頭に置かれていたのは確かです。表向きは歴史的な物語ですが、その底流には、先生の個人的な体験と想いが込められています」
「ジョンらしいわ...学者として客観的でありながら、その奥に深い感情を秘めているのね」
撮影の合間、安曇は共演の大御所俳優のロバート・ハリソンと話をしていた。ハリソンはアカデミー賞を2度受賞している名優で、今回はアメリカ側の交渉団長を演じていた。
「安曇さん、あなたの演技は本当に素晴らしい。まるで本当にその時代を生きていたかのようですね」
「ありがとうございます。実は、この役には特別な思い入れがあるんです」
「それが伝わってきます。あなたの目を見ていると、時代を超えた何かを感じるんです」
安曇は微笑んだ。もしかしたら、ジョンの転生論は本当なのかもしれない。そんな気持ちが、日に日に強くなっていた。
第四節:夜の湖畔での再会
撮影がクランクアップを迎える最後の夜、安曇は一人で湖畔を訪れた。満月の夜で、湖面が美しく輝いている。ガジュマルとソメイヨシノの木は、月光の中で神秘的な影を作っていた。
安曇は例の如く、木々に水をあげた。そして、ジョンの墓標の前に座り込んだ。
「ジョン...撮影が終わりました。あなたの作品は、きっと多くの人の心に届くでしょう」
風が静かに吹き、ブルーボネットの花が月光の中で幻想的に揺れている。
「あなたの手紙を読んでから、私の人生の見方が変わりました。これまでの恋愛も、別れも、すべてに意味があったのだと分かりました」
安曇は空を見上げた。満天の星が輝いている。
「あなたが言うように、私たちの愛は永遠なのかもしれませんね。形は変わっても、時を超えて続いていく...」
その時、不思議なことが起こった。安曇の前に、薄っすらとジョンの姿が現れたのだ。36年前の若い彼の姿だった。
「安曇...」
「ジョン?本当にあなたなの?」
「僕の理論が正しければ、強い想いは時空を超えることができる。君への愛が、僕を君の前に運んでくれたんだ」
安曇は夢を見ているのかもしれないと思った。でも、ジョンの声は確かに聞こえていた。
「あなたに言いたいことがたくさんあったの。ありがとう、そして愛しています」
「僕もだよ、安曇。君を愛し続けている。そして、これからもずっと」
「私たちは本当に、前世でも愛し合っていたのかしら?」
「僕はそう信じている。李隆基と楊貴妃として、そして今、ジョンと安曇として。形は変わっても、魂の繋がりは永遠だ」
ジョンの姿は月光の中で徐々に薄くなっていく。
「また会えるの?」
「もちろんだ。僕たちの愛は『比翼の鳥、連理の枝』。永遠に結ばれている」
「私も信じるわ。次の人生でも、きっと見つけ合いましょう」
ジョンの姿が完全に消えると、安曇は一人湖畔に立っていた。夢だったのかもしれない。でも、胸の奥には確かな温かさが残っていた。
第五節:追憶の映画、世界へ
数ヶ月後、映画『追憶の墓標と虹の架け橋』は完成し、日米同時公開を迎えた。公開初日から大きな話題を呼び、日本でもアメリカでも、連日映画館は満席が続いた。作品は批評家からも絶賛され、重厚でリアルな描写と緻密な心理描写が高く評価された。特に、日米和平交渉を支えた首席通訳官を演じた安曇の迫真の演技は、多くの観客の心を掴んだ。
映画の中で、安曇が演じる通訳官は、単なる言葉の仲介者ではなく、異なる文化の架け橋として描かれていた。彼女の演技には、言葉を超えた深い理解と愛情が込められており、観客は皆、その真実味に感動した。
安曇は映画公開後も数多くのインタビューに応じたが、その中でも特に印象的だったのが、ロサンゼルスでの記者会見だった。
「伊集院さん、この映画への出演を決めた最大の理由は何ですか?」
記者の質問に、安曇は穏やかに答えた。
「私は若い頃、通訳になることを夢見てアーリントンで留学生活を送っていました。その夢は当時は叶いませんでしたが、こうして女優として、その夢を役柄の上で実現する機会に恵まれました。この作品に参加したことで、過去の自分とも再び向き合い、感慨深いものがありました」
安曇の洗練された英語での回答に、報道陣から賞賛の拍手が沸き起こった。
「あなたの演技はまるで、本当に通訳を経験されたかのようでしたが...?」
「いいえ、実際の経験はありません。ただ、昔から通訳を志していたので、その気持ちを精一杯込めて演じましたわ。そして...」
安曇は少し間を置いてから続けた。
「この役を通して、言葉を超えた心の交流の大切さを学びました。真の理解は、単に言語を翻訳することではなく、相手の文化や心情を深く理解することから生まれるのだと思います」
インタビュアーがさらに微笑んで問いかける。
「安曇さん、この映画は監督のライアン・スコット氏が原作者となっていますが、実は真の原作者はライアン監督の恩師の故ジョン・ブレイド教授だという話がありますが、それは本当ですか?」
安曇は静かに頷き、穏やかな表情で答えた。
「ええ、この映画の真の原作者はライアン監督の恩師であるジョン・ブレイド教授です。監督ご自身が、それをインタビューで明らかにされましたわ。ただ、教授は学者でいらっしゃったので、公式にはあえて自分の名を伏せ、ライアン監督に作品を託されたようです」
インタビュアーは頷きながら、慎重に尋ねた。
「ジョン・ブレイド教授と安曇さんには、特別なご縁があったのでしょうか?」
安曇は一瞬目を伏せてから、静かに顔を上げ、柔らかく微笑んだ。
「ええ...教授とは昔、短い間でしたがご縁がありました。ですがそれは、私の個人的な思い出ですわ。ただ、この映画を通して、教授の深い洞察力と、人類愛を感じることができました。戦後の混乱期に、言葉と文化の架け橋となった人々への敬意が、作品全体に込められています」
その控えめで落ち着いた答えに、会場は穏やかな空気に包まれた。
別の記者が質問した。
「この映画の中で、特に印象に残った場面はありますか?」
「最終的な和平合意に至る場面です。異なる文化を持つ人々が、最初は理解し合えずにいたのが、少しずつ心を開き、最終的に深い信頼関係を築いていく...その過程を演じることで、私自身も多くのことを学びました」
安曇の声には、深い感動が込められていた。
映画の評価は日に日に高まり、全米および日本で大ヒットとなった。そして、翌年のアカデミー賞候補にも挙げられ、安曇はその卓越した演技により、『最優秀助演女優賞』を受賞することとなった。
アカデミー賞授賞式の夜、安曇は美しいドレスに身を包み、壇上に立った。オスカー像を手にした瞬間、彼女の心は感謝の気持ちでいっぱいになった。
「この映画に関われたことを、心から誇りに思います。私の若い頃の夢を、まさかこのような形で叶えられるとは思ってもみませんでした。心から感謝申し上げます」
観客から惜しみない拍手が巻き起こり、彼女の瞳は感極まって潤んだ。
「また、この作品の出演料の全額と私財の一部は、アーリントンの孤児院に寄付いたします。私のこの小さな恩返しが、未来の誰かの希望になりますように...」
安曇の言葉は大きな喝采で迎えられ、彼女は心の中で静かに呟いた。
(ジョン、この映画はあなたが残してくれた私への最高の贈り物でした。ありがとう...)
壇上から見える観客席の中に、ライアン監督の姿が見えた。彼も涙ぐんでいる。安曇は彼に向かって小さく頷いた。
授賞式の後、安曇はライアン監督と静かに挨拶を交わした。
「安曇さん、本当におめでとうございます」
「ありがとうございます。この作品に関われて本当に幸せですわ」
「ジョン先生も、きっと天国で喜んでいることでしょう」
ライアンはそう静かに言い、穏やかな微笑みを浮かべた。
「監督、これからも先生の想いを受け継いで、素晴らしい作品を作り続けてくださいね」
「はい。先生から学んだことを、これからも大切にしていきます」
第六節:永遠の愛への誓い
その夜、安曇はホテルの窓辺で星空を眺めながら、心の中で再びジョンに語りかけた。オスカー像が月光を受けて美しく輝いている。
(ジョン、あなたの言葉は、私の人生を再び豊かにしてくれました。この想いは決して消えません。私も、あなたの詩の通り、あなたの心と共にずっと生きていきますわ。永遠に...)
星が優しくまたたき、遠くアーリントンのブルーボネットの花々が風にそよいでいる気がした。
安曇は窓辺に置いてあったジョンの手紙を取り出し、最後の詩の部分をもう一度読んだ。今度は、英語のまま、心で音読した。
「By your side, my soul forever watches over you...」
彼女の声は夜の静寂の中に消えていく。
数日後、安曇はアーリントンに戻った。湖畔のガジュマルとソメイヨシノは、春の盛りで美しく花を咲かせていた。
「ただいま、ジョン」
安曇は木々に水をあげながら、静かに語りかけた。
「あなたの作品が世界中の人に愛されました。あなたの想いが、多くの人の心に届いたのよ」
風が優しく吹き、花びらが舞い散る。安曇はそれを見上げながら微笑んだ。
「私は、これからも女優として生きていきます。でも、心の中にはいつもあなたがいる。そして、いつか...いつか再び会える日を信じています」
安曇はジョンの墓標の前に新しい花束を供えた。白い百合の花束だった。
「あなたが教えてくれた愛の意味を、私はようやく理解できました。真の愛は、時間も距離も、死さえも超えることができる。私たちの愛は、確かに永遠なのですね」
その時、空に美しい虹が現れた。安曇はそれを見上げながら、心の中で誓った。
(ジョン、私は約束します。この愛を大切に育て続けることを。そして、次の人生でも、その次の人生でも、あなたを見つけ出すことを。私たちは『比翼の鳥、連理の枝』...永遠に結ばれているのですから)
虹は湖面に美しく映り、まるで天からの祝福のように見えた。安曇は深呼吸をし、静かに歩き始めた。新しい人生が、ここから始まろうとしていた。
ジョンとの愛を胸に秘めながら、でも前を向いて歩いていく。彼女の心には、深い平安と、そして希望が宿っていた。
湖畔を後にする時、安曇は振り返ってもう一度、ガジュマルとソメイヨシノを見つめた。
「また来るわ。きっと」
そう約束して、安曇は静かに歩き去った。夕日が湖面を金色に染め、ブルーボネットの花々が風に揺れている。
遠くで鳥が鳴き、新しい虹が空に現れ始めていた。安曇の物語は終わらない。永遠の愛の物語として、これからも続いていくのだった。




