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番外編2-1 孝志と洋子

「どうしたのですか? 二日酔い?」


 出勤してきた孝志が、昨日よりひと回りくらいやつれた顔をしている山中編集長に声を掛けた。


「娘が……いきなり帰ってきた」


「良かったじゃないですか。久しぶりに顔を見れて」


「会社を辞めて来たらしい」


「え? あんなに頑張ってたのに? バリキャリ目指すとか言ってたじゃないですか。どうしたんでしょうね。何かあったのかな」


「言わないんだ。何を聞いても首を振るだけで何も言わない。夜中に部屋からすすり泣く声がしてさぁ……俺、もう眠れなくなっちゃって」


「そりゃ心配ですね」


 俯いていた山中がガバッと顔を上げた。


「お前、聞いてきてくれ」


「えっ! 俺? そんな無理っすよ。女性の方が良いんじゃないですか?」


「そんなことを頼めるような女の知り合いはおらん」


「そうですよね。編集長の知り合いの女性といえば、スタンドMのママか総菜屋のばあさんか……あとはパン屋のおばちゃんくらい?」


「だろ? だからお前しかいないんだ。洋子はお前にはいろいろ相談してただろ?」


「相談っていっても進学の話ですからねぇ。唯一の女性スタッフだったディレクターの佐々木さんも寿退社しちゃいましたし……俺にも言わないと思うけどなぁ」


「ダメならダメで構わんから、気晴らしになるように飯にでも誘いだしてやってくれよ」


「わかりました。一応やってみます」


 迷いながら頷いた孝志に山中が手を合わせた。

 いつもより少し早めに帰社し、山中の自宅に電話をかけてみる。


「はい、山中です」


「洋子ちゃん? 俺、山﨑です。お父さんから洋子ちゃんが帰ってるって聞いて電話してみたんだ」


「山﨑さん? お久しぶりです。もしかして父から何か頼まれました?」


「頼まれては無いけれど、心配はしていたよ。ねえ、良かったら飯でも食いに行かないか?」


「今日ですか?」


「家にいても滅入るだけだぜ? 寿司とかどう?」

 

 数秒の間をおいて洋子が答える。


「はい、わかりました。何時に何処に行けばいいですか?」


 待ち合わせ場所を決めて電話を切った孝志が、山中の顔を見た。


「寿司屋に行ってきます。今日は遅くなっても文句言わないでください」


「わかった。俺は先に寝てる。手は出すなよ?」


「……」


 母親に遅くなる旨の連絡を入れ、上着を手に会社を出た。

 タクシーを止めて行先を告げる。

 待ち合わせたのは寿司屋に近いイートインコーナーのあるドーナツ屋だ。

 店内を覗くと洋子が手を振ってきたので、そのまま連れ出して寿司屋に向かう。

 一番奥まったテーブルに座り、おしぼりで手を拭きながら孝志が声を出した。


「ここは編集長が入社したての頃に連れてきてくれた店でね、それからよく使っている」


 洋子は曖昧に返事をしながら頷いていた。


「お父さんにしては気が利く店よね。ちゃんと驕った?」


「ああもちろん驕ってくれた。俺もいろいろ悩んでた時期だったし、ありがたかったよ。洋子ちゃんって食べられないものある? 無いなら大将に任せても良い?」


 女将に注文を済ませ、運ばれてきたビールグラスを洋子に渡す。


「飲めるんだろ?」


「うん、むしろ好き」


「そりゃ良いや。明日は休みだから遠慮なく飲もう」


 グラスを合わせ喉を潤した頃合いで、最初のつまみが出てきた。

 取り留めのない話をしつつ、刺身が出たタイミングで日本酒に切り替えた。


「やっぱり伊豆のお魚は美味しいわ。帰ってきてよかったって思うくらいよ」


 孝志が何気ない口調で洋子に聞いた。


「何があった? 洋子ちゃん」


 洋子が猪口をきゅっと握りしめた。

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