聖騎士様は俺の彼女でヤンデレ殺人鬼。それでも俺は、君と生きることを選ぶ。
第1章:森の出会い
森の中、鉄平は意識が遠のくのを感じていた。 目覚めたら見知らぬ天井ではなく、鬱蒼とした木々の隙間から差し込む光が眩しかった。
「どうして……」
ついさっきまで、退屈なプレゼン資料を眺めながら、残業中のオフィスで居眠りをしていたはずだ。 鉄平は立ち上がろうとして、全身を襲う激痛に顔を歪めた。
見れば、着ていたスーツはボロボロに破け、腕や足には無数の擦り傷や切り傷ができていた。まるで、獣に襲われたか、崖から転げ落ちたかのような有様だ。
「なんだこれ…ゲームの世界か?」
現実離れした状況に、思わずそんな言葉が口から漏れた。 スマホも財布もなく、頼れるものは何もない。 空腹と渇き、そして次第に襲ってくる身体の痛み。 鉄平は、森の中をあてもなくさまよった。
どれくらい時間が経っただろうか。 次第に意識が朦朧とし、足元がふらつく。
「やばい…このままじゃ…」
その時、背後から草を踏みしめる音が聞こえた。 鉄平は必死に振り向くが、その視界は定まらない。 そこに立っていたのは、銀色の鎧に身を包んだ、一人の美しい女騎士だった。 長く美しい銀髪が、森の木漏れ日に反射してきらめいている。 彼女は驚きに目を見開いた後、腰に差した大剣を鞘に収め、鉄平に駆け寄ってきた。
「おい、大丈夫か!?」
鉄平は、その顔に見覚えがあった。 ゲームやアニメで見たことのある、いわゆる「美少女」の類だ。 しかし、そんな現実離れした存在が、今、自分に手を差し伸べている。 鉄平は、彼女の顔を見つめたまま、意識を手放した。
次に目が覚めた時、鉄平の身体は、柔らかな毛皮の上に横たわっていた。 近くでは焚き火が燃え、暖かな炎が心地よい。 隣には、あの女騎士が座っていた。彼女は、鉄平が身に着けていたボロボロのスーツを見て、困惑した表情を浮かべている。
「目が覚めたか」
彼女はそう言うと、鉄平に水筒を差し出した。 鉄平は、その水筒から一口水を飲むと、全身に染み渡るような感覚に、思わず息を吐いた。
「ありがとう…」
「礼には及ばん。…それより、お前は一体どこから来たんだ?そんな奇妙な服を着て…」
「えっと…俺は、その…」
鉄平は、自分がどうしてここにいるのか、うまく説明することができなかった。 すると、女騎士は深くため息をつき、自己紹介をした。
「私は、アレクシア。王都騎士団に所属している」
「俺は、鉄平…です」
アレクシアは、鉄平の身なりや言葉遣いに疑問を感じていたようだったが、それ以上は何も聞かずに、焚き火に薪をくべてくれた。
その日の夜、二人は焚き火を囲んで話をした。 鉄平は、自分の知る世界について語った。高層ビル、車、スマホ、ゲーム…アレクシアは、目を丸くして、鉄平の話を真剣に聞いていた。
「信じられない…そんな世界があるのか」
「俺も、アレクシアの世界が信じられないよ。魔法とか…本当に使えるのか?」
「ああ。だが、使える人間は限られている。私は、剣の腕を磨く方が好きだ」
アレクシアは、そう言って、腰に差した大剣を誇らしげに叩いた。 その大剣は、鉄平の背丈ほどもある、巨大なものだった。 アレクシアは、鉄平の傷の手当てもしてくれた。彼女は、荒々しい戦士に見えて、その手つきは驚くほど優しかった。
鉄平は、そんなアレクシアに、次第に惹かれていった。 そして、アレクシアもまた、自分とは違う世界から来た鉄平に、強い興味と、そして、何らかの感情を抱いているようだった。
第2章:新たな生活、そして予兆
アレクシアは、鉄平を王都リオクタウンへと連れて帰った。 彼女が用意してくれた部屋は、騎士団の寮とは別に、王都の静かな一角にある小さな一軒家だった。
「しばらくはここで暮らすといい。私の身分なら、このくらいは問題ない」
アレクシアはそう言って、鉄平の身の回りの世話を全て引き受けてくれた。 彼女は、まるで母親のように甲斐甲斐しく鉄平の面倒を見てくれた。 鉄平が「自分も何か手伝うよ」と言うと、アレクシアは少し寂しそうな顔をして言った。
「鉄平は、ゆっくり休んでいてくれればいいんだ。それに…私は、鉄平の世話をするのが好きだから」
その言葉に、鉄平は胸を締め付けられるような、甘くも少し怖い感情を抱いた。 アレクシアの愛情は、優しさと独占欲が表裏一体になっているように感じられた。
ある日のこと、アレクシアは鉄平に、とある事実を告げた。
「鉄平…その、私…君の子を身ごもった」
鉄平は、耳を疑った。 森の中で、意識が朦朧としていた時のことを思い出す。 アレクシアに抱きかかえられ、介抱されていたはずが、いつの間にか、彼女に馬乗りになられていた。その時の記憶は曖昧だったが、たしかに、アレクシアと身体を重ねたような…そんな記憶があった。 鉄平は、アレクシアの告白に、どう答えていいか分からなかった。 すると、アレクシアは、まるで鉄平を試すかのように、静かに言った。
「嫌なら…消せばいい。そうすれば、鉄平は自由だ」
鉄平は、その言葉に凍り付いた。 彼女の目は真剣で、もし鉄平が「嫌だ」と答えれば、彼女は本当に自分の腹の子を… 鉄平は、全身に走る寒気を感じながらも、言葉を絞り出した。
「そんなこと、できるわけないだろ!俺は…俺は、嬉しいよ…」
アレクシアは、その言葉を聞いて、初めて満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう、鉄平。…愛している」
彼女はそう言うと、鉄平の唇に、深く熱いキスを落とした。 そのキスは、愛の証であると同時に、鉄平を永遠に彼女のものにしようとする、独占欲の表れでもあった。
その後、アレクシアは、鉄平との生活を優先するため、王都騎士団を辞めた。 彼女は、鉄平に剣術を教え、冒険者として生きていくことを提案した。
「鉄平は、いつまでも守られているだけではいけない。いつか、私の隣で、一緒に戦えるようになってほしい」
アレクシアの言葉には、鉄平への愛情と、彼女なりの優しさがあった。 鉄平は、アレクシアの指導のもと、剣の稽古を始めた。 アレクシアの剣術は、まさに神業だった。 彼女の一挙手一投足には無駄がなく、鉄平は、彼女の剣から放たれる圧倒的な殺気と、それに耐えうる自分の成長を感じていた。
しかし、物語はここから、悪夢へと向かい始める。 鉄平が冒険者として活動を始めると、異世界ファンタジーお決まりの展開のように、彼の周りに女の子が集まり始めたのだ。
第3章:最初の犠牲者、クレア
鉄平が冒険者として登録して間もなく、彼は一人の女の子と出会った。 彼女の名前はクレア。 明るく快活な、赤毛のハーフエルフだった。 クレアは、鉄平が作った簡単な罠にかかってしまい、それを助けてくれたのが鉄平だった。
「わあ、ありがとう!助かったよ。私、クレアっていうの!新米冒険者かな?よかったら、今度一緒に依頼に行かない?」
クレアは人懐っこく、すぐに鉄平に懐いた。 彼女は、鉄平が異世界から来たことを知ると、目を輝かせて、日本の話に興味津々だった。 アレクシアは、そんなクレアを遠巻きに見つめていた。 彼女の視線は、鉄平とクレアの楽しそうな会話に向けられていたが、その瞳の奥には、氷のような冷たさが宿っていた。
「クレア…か。鉄平、あの子とはあまり関わらない方がいい」
アレクシアは、そう警告したが、鉄平はそれを聞かなかった。
「大丈夫だよ、アレクシア。クレアは良い子だ」
鉄平はそう言って、クレアとの交流を続けた。 彼女は、鉄平にさまざまな冒険の知恵を教えてくれ、二人は良き仲間となった。
しかし、物語は、予期せぬ方向へと進む。 クレアは、王都で発生した連続殺人事件の4人目の犠牲者となった。 発見された時、彼女の首は切断されており、体内からは、微量の眠り薬が検出されたという。 クレアは、盗賊スキルのあるベテラン冒険者であり、常に細心の注意を払って生活していたはずだった。 そんな彼女が、なぜ…。 鉄平は、信じられなかった。 アレクシアは、鉄平の背中を優しく撫でながら、静かに言った。
「かわいそうに…。鉄平、こんなに危険な世の中だ。私と離れて、一人で行動するのはやめてくれ」
アレクシアの言葉は、鉄平への愛情に満ちていた。 しかし、鉄平の心には、ある疑問が芽生えていた。
「なぜ、クレアは殺された?常に警戒していたはずの彼女が…」
そして、鉄平の脳裏に、一つの可能性が浮かび上がった。
「もしかして、アレクシアが…?」
しかし、その可能性は、愛する人への裏切りだと、鉄平はすぐにその考えを打ち消した。
第4章:8番目の犠牲者、ノエル
クレアの死後、鉄平はしばらく冒険から遠ざかっていた。 しかし、そんな鉄平の元に、一人の魔法使いの少女がやってきた。 彼女の名前はノエル。 控えめで、恥ずかしがり屋な性格のノエルは、鉄平に一目惚れしたと言い、彼に魔法の護符をプレゼントしてくれた。
「鉄平さん…これ、私が作ったんです。危険な目に遭わないように…」
ノエルの護符は、彼女の魔力によって、鉄平を物理的な攻撃から守る強力な魔法が込められていた。 アレクシアは、そんなノエルの存在を快く思っていなかった。
「あの小娘…鉄平に近づくな」
アレクシアは、鉄平が見ていないところで、ノエルに冷たい視線を送っていた。 鉄平は、アレクシアのヤンデレな一面を理解していたため、ノエルとの交流は、アレクシアにバレないように、細心の注意を払って行っていた。 しかし、アレクシアは、鉄平の行動をすべて見抜いていた。
ある日、アレクシアは、鉄平にこう提案した。
「鉄平、最近疲れているだろう?ノエルと3人で温泉にでも行かないか」
鉄平は、心を躍らせた。 しかし、その日の夜、ノエルが王都の温泉施設で死体となって発見された。 彼女の死因は、バラバラ切断による大量出血。 常に魔法のプロテクトをかけていた彼女が、なぜ…。 アレクシアは、涙を流しながら鉄平に言った。
「ノエル…かわいそうに…。鉄平、あの子も狙われていたのかもしれない」
鉄平は、アレクシアの言葉に耳を傾けながら、ある違和感を覚えていた。
「なぜ、温泉施設の更衣室で?」
更衣室には監視カメラがなく、魔法のプロテクトも解除される。 そして、鉄平は、クレアの時と同じように、アレクシアがノエルを殺害したという可能性を疑い始めた。 だが、その疑念を口にすることはできなかった。
第5章:12番目の犠牲者、フラン
ノエルの死後、鉄平は冒険者としての活動を再開した。 彼の周りには、もう一人、女の子がいた。 彼女の名前はフラン。 活発で、快活な性格の格闘家だった。 フランは、アレクシアにも臆することなく、鉄平にアプローチしてきた。
「鉄平、今度、私と一緒に依頼に行かない?あんたの剣術の腕、見せてもらいたいんだから!」
フランは、鉄平にグイグイと迫ってきた。 アレクシアは、そんなフランを敵視していた。 二人は、鉄平を巡って、何度も口論になった。
「あんたみたいな弱そうな男に、フランはもったいないよ!」
「うるさい!鉄平は、私のものだ!」
そんな二人のやり取りを見て、鉄平は、頭を抱えていた。
ある日、アレクシアはフランを誘って、昼食に出かけた。 鉄平は、その日、ガネーシャと二人で出かけていたため、アレクシアとフランの二人の食事には参加しなかった。 その日の夜、フランは、王都の自宅で死体となって発見された。
彼女の死因は、溺死。 体内からは、睡眠薬が発見された。 そして、室内は荒れ果て、アレクシアの左腕には、深い切り傷が残されていた。 アレクシアは、鉄平に、こう説明した。
「鉄平…フランを殺した犯人と戦ったんだ。私…フランを助けられなかった…ごめん…」
アレクシアは、涙を流しながら、鉄平に抱きついた。 鉄平は、アレクシアの言葉と、彼女の傷跡に、複雑な感情を抱いた。
「犯人と戦って、フランだけが死んだ?アレクシアは無事なのに…?」
鉄平は、クレア、ノエル、そしてフランの死に、ある共通点を見出していた。
「すべての事件に、アレクシアがかかわっている」
鉄平の心の中の疑念は、次第に確信へと変わっていった。
第6章:16番目の犠牲者、ガネーシャ
フランの死後、鉄平は冒険者として活動するのをやめた。 彼の心は、アレクシアへの疑念と、愛する人を信じたい気持ちの間で揺れ動いていた。
そんな鉄平のそばに、常に寄り添っていたのが、最後の女の子、ガネーシャだった。 ガネーシャは、物静かで知的な女の子で、鉄平が作った冒険者パーティのまとめ役を担っていた。 彼女は、鉄平が抱える心の闇に気づいていたようだった。
「鉄平さん…大丈夫ですか?何か、悩んでいることがあれば、いつでも私に話してください」
ガネーシャの優しさが、鉄平の心を少しずつ癒やしていった。 鉄平は、ガネーシャを失うことを恐れていた。
ある日、アレクシアは、鉄平に薬草採取に行こうと提案した。 鉄平は、ガネーシャも誘って、三人で森へと向かった。 森の中、アレクシアと鉄平、ガネーシャは、楽しそうに薬草を摘んでいた。 その日の夕方、鉄平は、先に王都へと帰った。アレクシアは、ガネーシャと二人で、もう少し森に残ると言ったのだ。 それが、鉄平がガネーシャを見た最後になった。
ガネーシャは、その日から行方不明となった。 アレクシアは、憔悴しきった様子で、鉄平にこう説明した。
「鉄平…ごめんなさい。ガネーシャが…突然、魔物に襲われて…私は、彼女を助けられなかった…」
アレクシアは、鉄平の胸の中で、何度も涙を流した。 鉄平は、ガネーシャの行方不明に、深い絶望と悲しみを覚えた。
そして、鉄平の心に、一つの確信が芽生えた。
「なぜ、いつもアレクシアがかかわっている?」
クレアの死の時、ノエルの死の時、フランの死の時、そして、ガネーシャの行方不明。 すべての事件に、アレクシアが関わっていた。 そして、鉄平は、稽古で剣を抜かなくなったアレクシアの姿を見て、彼女が自分に何かを隠していることを確信した。
第7章:奇跡の帰還、そして告発
鉄平が、アレクシアへの疑念を確信に変えつつあった、そんなある日のことだった。
王都の広場に、ボロボロになった一人の女性が現れたという噂が広まった。その女性は、長い髪が乱れ、顔には大きな切り傷があり、左腕が不自然にぶら下がっていた。 鉄平は、その女性の姿に心臓が締め付けられるのを感じた。 「まさか…」 鉄平が広場に駆けつけると、そこにいたのは、紛れもなく行方不明になっていたガネーシャだった。
「ガネーシャ!生きていたのか!」
鉄平が駆け寄ると、彼女はボロボロになった体で、かすれた声で言った。 「鉄平…さん…」 ガネーシャは、その場で意識を失い、病院へと運ばれた。
数日後、目を覚ましたガネーシャは、鉄平に、あの日の出来事を語った。
「アレクシア…さんが、私に睡眠薬を…」
ガネーシャは、アレクシアと二人で薬草採取に出かけた際、アレクシアに飲み物の中に睡眠薬を盛られたのだという。
そして、意識を失った彼女は、アレクシアによって左腕を切り落とされた。 「アレクシアは…私を、魔物に襲われたと見せかけて、殺そうとしたんです…」
しかし、ガネーシャは、一瞬の隙を見て、死んだふりをして、アレクシアの元から逃げ出したのだという。 彼女が生き延びることができたのは、ひとえに、彼女の生存への強い意志と、わずかな魔力によるものだった。
「鉄平さん…クレアさんたちも…アレクシアが殺したんです…」
ガネーシャの言葉は、鉄平の心臓を抉った。 鉄平は、ガネーシャの言葉を信じざるを得なかった。 彼女の体に残された傷は、アレクシアの恐ろしい犯行を雄弁に物語っていたからだ。
第8章:最後の弁明
ガネーシャの告発を聞いた鉄平は、王都の自宅へと戻った。 静まり返った家の中、アレクシアは、鉄平が戻ってきたことに気づき、にこやかに微笑んだ。
「鉄平、おかえりなさい」
アレクシアは、鉄平に抱きつこうと手を広げた。 しかし、鉄平は、一歩後ずさった。
「アレクシア…」
鉄平の顔は、怒り、悲しみ、そして恐怖に満ちていた。 アレクシアは、鉄平の様子を見て、表情を曇らせた。
「どうしたの?鉄平」
「ガネーシャが…帰ってきたんだ」
鉄平の言葉を聞いたアレクシアは、一瞬、顔から血の気が引いたが、すぐに平静を取り戻した。 そして、彼女は、必死に弁明を始めた。
「ガネーシャ?…ああ、あの時、魔物に襲われて…」
「嘘だ!お前がやったんだろ!クレアも、ノエルも、フランも…全部お前が殺したんだ!」
鉄平の言葉に、アレクシアの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「違う…違うの、鉄平…」
アレクシアは、泣きながら鉄平に近づき、彼の頬に手を伸ばした。
「私は…ただ、鉄平を守りたかっただけなの…」
彼女の言葉は、まるで壊れたレコードのように、何度も繰り返された。
「鉄平…私たち、パパとママになるんだよ?」
その言葉は、鉄平の心臓を抉った。 アレクシアの涙は、嘘ではなかった。彼女は、本当に鉄平を愛していた。 しかし、その愛は、あまりにも歪んでいた。
最終章:断罪
アレクシアの涙の訴えに、鉄平の心は引き裂かれた。彼女が、自分たちの子供を身ごもっていたという事実が、彼の心を深く抉る。しかし、鉄平の脳裏には、無残に殺されたクレア、ノエル、フラン、そして傷だらけで帰還したガネーシャの姿が焼き付いていた。彼女たちの命と、アレクシアの愛。どちらを取るべきか、鉄平には分からなかった。
しかし、鉄平は決断した。
「アレクシア…君は、罪を償わなければならない」
鉄平の言葉に、アレクシアは絶望の表情を浮かべた。彼女の頬を伝う涙は、もはや悲しみではなく、鉄平への裏切りからくるものだった。
アレクシアの公開処刑の日、王都の広場は、静寂に包まれていた。かつての英雄を、断罪の場で見送るために、多くの民衆が集まっていた。処刑台に立つアレクシアの姿は、かつての勇猛な女騎士の面影はなかった。彼女は、鉄平をまっすぐに見つめていた。
「鉄平…」
アレクシアは、鉄平に何かを伝えようとしたが、その言葉は、喉の奥で消えてしまった。彼女の視線の先には、鉄平の姿があった。鉄平は、アレクシアの視線から逃げることなく、ただ静かに、彼女の最期を見つめていた。
処刑人の剣が振り下ろされた瞬間、アレクシアは、満面の笑みを浮かべた。その表情は、鉄平への愛と、鉄平が自分を裁いたことへの、歪んだ喜びが入り混じったものだった。
「愛してる…鉄平」
アレクシアの最期の言葉は、鉄平の耳には届かなかった。
鉄平は、その日以来、王都を離れ、旅に出た。彼の心には、アレクシアへの愛と、彼女が犯した罪、そして、彼女の最期の笑顔が、永遠に刻み込まれることになった。