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サタフラ

陽真のスマホが震えた。

画面には「日良居」の名前。


「……出ますね」


通話ボタンを押すと、あの軽い声が飛び込んできた。


「お、出た出た。今どこ? あ、ちょうどいいや。

今週のサタフラ、手伝い足りないから三人で出て。説明は現地で。よろしくー」


ぷつん、と通話が切れる。


陽真はスマホを見つめたまま、しばらく黙っていた。


凛が言う。


「……あの人、ほんとに人間?」


朱音が苦笑する。


「“任せる”っていうより、“投げてくる”よね、あの人」


「で、何? サタフラって」


凛が首をかしげる。


「“土曜にフラフラする”イベントじゃないよね?」


陽真が答えようとして、言葉に詰まる。


「……フラダンスのイベント、なんだけど……」


朱音が補足する。


「“サタデー・フラ”、略して“サタフラ”。

夏の土曜日限定でやってる、フラのステージイベント。

町内のいくつかの会場で、昼と夜に分かれて開催されてる」


「へえ、そんなちゃんとしてるんだ」


「うん。道の駅とか温泉施設とか、

夜はリゾート施設の芝生広場とかでやってる。

“瀬戸内のハワイ”って言われてるからね、周防大島」


「……ハワイ? いきなりスケールでかくない?」


陽真がうなずく。


「明治時代に、島からハワイに移民した人がたくさんいて。

今でも交流が続いてる。

だから、フラも“観光”っていうより、“文化”として根づいてる感じです」


凛が腕を組んでうなる。


「なるほど……

つまり、“ゆるくて本気”なやつだ」


朱音が笑う。


「うん、そんな感じ」


凛が机の上の紙を指でつつく。


「で、私たちは何を手伝うの?

踊るの? それとも、裏方?」


陽真が紙を見ながら答える。


「たぶん、裏方。

会場設営とか、出演者の受付とか、衣装の補助とか……

日良居さん、そこまで言ってなかったけど」


「つまり、“現地で聞いて”ってことね。

雑だなあ、あの人」


朱音が笑いながら言う。


「でも、そういうとこ、昔から変わってないよね」


凛がふと、陽真のほうを見る。


「……ねえ、陽真さん。

こういうの、得意?」


陽真は少しだけ考えてから、静かに答えた。


「……得意じゃないけど、

嫌いじゃないです」


凛がにやっと笑う。


「じゃあ、なんとかなるかもね」



そのとき、陽真のスマホがまた震えた。


「……あ、日良居さんからメール」


開いてみると、件名は「【資料】サタフラ手伝いの件」。

本文は一行だけ。


> 『とりあえず読んどいて。現地でよろしく。』


添付ファイルがひとつ。

PDFで「サタフラ運営補助マニュアル(夜の部・ながうら会場)」とある。


陽真がタブレットに転送して、三人で画面をのぞき込む。


凛が読み上げる。


「“17:00 会場設営開始。椅子・照明・音響コードの確認。

17:30 出演者受付開始。控室案内、花飾り配布。

18:00 衣装チェック・ステージ裏誘導。

18:30 開演。以降、進行補助・写真撮影・SNS投稿対応”……」

 

「……けっこうガチじゃん」


朱音が苦笑する。


「“ゆるくて本気”って、こういうことかもね」


凛がさらにスクロールして、

「担当割り振り(仮)」という欄を見つける。


「えーと……

“陽真:会場設営・音響補助

朱音:出演者受付・控室対応

凛:衣装補助・SNS発信”……って、

私、いきなり広報担当なんですけど?」


陽真がぽつりとつぶやく。


「……たぶん、日良居さん、

“ノリでやれそうな人”ってだけで決めてます」


凛が頭を抱えるふりをして言う。


「ノリでやれそうな人って、

一番ノリでやっちゃいけないポジションじゃん……」


朱音が笑いながら言う。


「でも、凛さんなら、

“ノリでやってるように見えて、ちゃんとやる”タイプでしょ?」


「……プレッシャーかけるの上手いなあ、朱音さん」


三人の笑いが、また少しだけ重なった。



凛がタブレットを閉じて、ため息まじりに言った。


「……で、これ、どんな服で行けばいいの?

まさか、こっちもアロハ着ろとか言われないよね?」


朱音が笑う。


「スタッフは私服でいいって書いてあったよ。

動きやすければ何でも」


「よかった……

私、アロハ似合わない自信あるから」


「いや、似合うと思うけど」


陽真がぽつりと口を挟んだ。


凛がちょっと驚いたように振り返る。


「え、今の褒めた?

陽真さん、褒めるときも静かなんだね」


「……そうですか?」


朱音はそのやりとりを聞きながら、

ふと陽真の横顔に目を向けた。

何気ない会話のはずなのに、

その言葉の選び方が、どこか丁寧で、

昔から変わっていないような気がした。


「……踊らされたりしないよね?」


凛が不安そうに言う。


「“スタッフも一緒に踊りましょう”とか、

ノリで言われたら逃げるからね、私」


「たぶん、逃げられないと思います」


陽真が即答する。


「え、マジで?」


「“参加型のラスト曲”って書いてあります。

観客もスタッフも、よかったら一緒にって」


「うわ、地獄の予感……」


凛が頭を抱えるふりをする。


朱音が笑いながら言った。


「でも、陽真くんが踊ってたら、

なんか、ちょっと見てみたいかも」


陽真が少しだけ眉をひそめる。


「……絶対、向いてないです」


「うん、知ってる。

でも、そういう人が踊ると、

逆にちゃんと伝わる気がする」


朱音の声は、どこかやわらかかった。

凛がその空気を感じ取ったのか、

にやっと笑って言った。


「……あれ?

朱音さん、ちょっと陽真さんのこと褒めてない?」


「え、そう?」


「いや、完全に褒めてた。

むしろ、ちょっと期待してた」


朱音は少しだけ笑って、

「そうかもね」とだけ言った。



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