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6.少女

6.少女


星の教団の設立にあたり、まず一番初めにしなければならないことは、組織としての土台を構成することであった。

ある程度のことは、王女の教育業務と並行しながらすでに出来上がっており、王からの資金面での援助を受けながら、少しずつ神の教えを広めていくこととなる。


国公認の教団ということもあり、王自ら国民へ発表するべきではないかと尋ねられたが、自分としてはあまり好ましくはない。


人というものは、何か新しいことを始めるとき、必ず二種類に分類される。

変化を望む者。変化を恐れる者。

ましてや、今から自分がしようとしていることは人ならざる者、常人では理解しえない存在を、国が肯定するということだ。


ただ静かに、ゆっくりと、自身の教えを広めていく。

そして、浸透させていく。

それが好ましい形であると、王に伝えると、どこか納得のいかない様子ではあったが、


「お前がそう考えるのであるのならば、私もそうしよう」


と、言ってくれた。


舞台を整えるためには、まず演者が必要だ。

まずは、貧困層の者たちに手を差し伸べることにする。

彼らこそ、救いを求めている者たちが多い。


いきなり広場に集まり演説をしたとしても、かえって逆効果だ。

資金に問題がないのであれば、まずは宿舎を作ることにしよう。


寝泊まりや食事など、生きていくうえで必要なものをそろえれば、噂などすぐに広まる。


宿舎を設立するため、場所を確保する必要があり、都へ足を踏み入れる。

シャルフィナン王国は、国そのものこそ大きいが、階級制度が存在するため差別意識が強く、それらの問題についても国王は頭を悩ませている。


自分も孤児院の出身ではあるが、もとは娼婦の母のもとに生まれた。

父という存在は知らず、母が亡くなるまでは女手一つで育ててくれていた。

今でも、生みの親である母については尊敬の念を抱いていることに変わりはない。


なぜ金で、生まれで、こんなにも人は差別されなければならないのか。

それが、世の中の“仕組み”というものなのだろうか。


城から出て、大きな広場から少し奥へ進めば、貧困層の者たちが住む街道へ出る。

広場では様々な店が立ち並んでいたが、ここはもはや別世界だった。


飢えに苦しみながら、金を求める者たち。

食べ物すらなく、その場で野垂れ死にしている者もいる。


その姿を見ても、同情はしない。

ただ、哀れにしか思えなかった。


ふと、一人の少女に目が留まる。まだ幼い。十歳程度であろうか。

前には一人の男がいて、先導している。

薄汚れた服を身にまとい、金色の髪は手入れが行き届いていない。

よく見れば、少女の首には鎖が繋がれていた。


恐らく、これから売られるのだろう。


「おい、早く歩け」


「ご、ごめんなさい……」


歩幅が合っていないにもかかわらず、男はぶっきらぼうに少女へ言葉を吐く。

その様子に、彼女は怯えているようだった。

無理もない。これからどこへ売られるかなど、わかりはしないのだから。


二人がこちらへ向かってくる。

ただ、その様子をじっと見つめる。


「あ? なんだ?」


「……おや、こんにちは」


視線に気がついたのか、男は睨んできた。

笑顔で答えると、気に食わなかったのか舌打ちをする。

少女もこちらをじっと見つめていた。


「随分と可愛らしいお子さんですね。これからどちらまで?」


なんとなく、話しかけてみる。

男は気だるげに答えた。


「見りゃわかるだろ。こいつは今からお貴族様のところに奉仕しに行くんだよ」


「……そうなんですね。小さい子なのに、大変ですね……」


小さな子が身売りをする。

それはつまり、家族を助けるために自らを売るということだ。

成人するまでの間、彼女はこれから上流階級のもとで、召使として長い間仕えなくてはならない。


その事実を、彼女は理解しているのだろうか。

それとも、ただ流されているだけなのだろうか。


「おら、さっさと行くぞ!」


「い、痛い!」


繋がれた鎖を男が引っ張ると、少女は悲痛な声を上げる。

自分はそっと彼女に近づいて、小さな手を握った。


「……あなたは、本当にその道を選んだのですか?」


その言葉に、少女は小さく体を震わせた。


自分は普通の人間とは違う生活をしてきた。

だからこそ、家族のぬくもりというものを知らない。


だが、きっと彼女は、貧しいながらも家族と共に生きてきたのだろう。

明日からは知らぬ者たちばかりの中で、“家族”ではない者たちと共に生きねばならない。

召使として扱われ、時に人としてではなく、物として扱われることもあるかもしれない。


「おい! 早く来い!」


男がさらに強く引っ張る。

無理やり引きはがされるようにして、少女は遠ざかっていった。


その背中を、自分はただ黙って見送った。


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