星の教団 設立
5、星の教団 設立
「レイスよ、どうしたのだ?」
玉座の前で、静かに王に謁見する。
傍らには、まだ三歳にも満たない幼い王女の姿があった。
無垢な瞳でこちらを見つめてくるその子は、かつて自分に執着を示した王妃と同じ金の髪を揺らしている。
彼女――ファイ王女の教育係として任命されたこともあり、彼女は自分を絶対的に信頼しているようだった。
王族の血を引く者までもが、自分の手のひらの上で転がる存在となった今――それは喜ばしいことだろうか。
いや、それ以上に。
王妃追放以来、自身の立場を疎ましく思う者たちの影が、日増しに濃くなっていた。
中には、暗殺を企てている者すらいる。
「国王陛下。私はこれまで、陛下に拾っていただいたことにより、多くの知識と生きる術を身につけてまいりました。
そして、神の正しき導きをお伝えすることもできました」
レイスは毅然とした態度でそう告げる。
「レイスよ、世辞はよい。素直に申せ」
「恐縮です。私はこの城で、長らく陛下のもとに仕えてまいりましたが……
神は、教えを広めよと申されるのです」
「ほう。それはつまり――どういうことだ?」
「……私は、より良い国を作りたいのです。今この瞬間にも、救いを求めている者たちが存在します。
神の導きを信じる者たちとともに、このシャルフィナン王国を真に価値ある国へと変えたい。
そのために、神の教えを広く伝えていきたいのです」
それが本心かどうか。
もはや、レイスにとってはどうでもいいことだった。
ただ、神は何度も、何度も告げてくるのだ。
「教えを広めよ」と。
それが神の思惑なのか、自分の支配欲なのか。あるいは、善意からくるものなのか。
もはや、他人のためではない。――自分のためなのだ。
いや、それすらも定かではない。
沈黙の末、王は静かにファイ王女の頭を撫でる。
そして、立ち上がるとレイスに向き直った。
「レイス。お前を初めて見たあの日から、私は確信していたのだ。
お前は――ただの子どもではない。神に選ばれし存在なのだと」
「……私は本当に、神に選ばれた者なのでしょうか。」
「いや、お前は間違いなく選ばれている。お前のような存在を常にそばに置くことができたからこそ、この国は安泰でいられたのだ。
それは否定しようのない事実だ。ならば私にできることは一つ、お前の教えを信じ、この国公認の教団を設立することを許可しよう」
なんと話が早い。
愚かにも、そこに疑念を挟まぬ王。
思わず口元が緩みそうになる――が、それは喜びからではない。
これは、嘲笑。
どこまでも滑稽で、どこまでも愚かな王。静かに目を閉じ、深々と頭を下げる。
「ありがとうございます、国王陛下」
「お主は、今日より教祖である。
神の光を、この国にもたらす者として、その任を果たすがよい」
――こうして、星の教団は誕生した。