王妃
4、
自分を拾った王は、やがて王妃を迎えることになった。
名門貴族の生まれで、金色の髪を持つ美しき美女。
しかし、その美女が真に愛しているのは王ではない。
その愛情は、自分へと向いていた。
なぜ、彼女は自分を求めてくるのか。
それは、ほんの些細なきっかけだった。
ただ、自分は彼女に予言をしただけだ。
「いずれあなたは、王妃となるべき存在になる」と。
それは神のお告げではない。
ただ、王がその女を欲していたからだ。
自分はただ、結ばれるように軽く背中を押したに過ぎない。
王妃という立場は惜しくないのか。
彼女は城に入ってからも執拗にこちらへ近づいてきた。
「私が真に愛するのは王ではないの。美しいあなただけなの。ここにいて?」
女特有の甘い誘いには、興味はない。
おそらく彼女は、自分の中に何かを見出したのだろう。
だが、それを許容するつもりはなかった。
王との繋がりを断つことは、面白くない。
だから、自分はただ笑顔で、彼女の誘いを断った。
刹那、彼女は絶望したような顔を浮かべ、それきり追ってくることはなかった。
王妃としての自覚が芽生えたのか、やがて彼女は王の子を孕んだ。
その膨れた腹を見た瞬間、脳裏に激痛が走る。
——神からの啓示だ。
「その腹に籠もる者は、二つの魂を持つ。
美しき女児は国に安寧を。穢れし男児は国を滅ぼす。
真の安寧を望むのであるのならば、女児を立てよ」
神の言葉は、絶対である。
もともとこの国では、「双子」は歪な存在として信じられていた。
女児を王位に立てるなど、前代未聞のことではあるが——
それこそが、興味をそそる材料だった。
何より、まだこの国が滅びてしまっては、神の教えを広めることができない。
自分はその予言を、王に密かに伝えた。
王は、自分に対して絶対的な信頼を寄せている。
「神のお告げ」であると言えば、説得力はさらに増す。
王が従わぬはずがない。
やがて、激しい嵐の夜——
「二つの魂」が生まれる。
取り上げられた女児は、王から祝福を受ける。
男児もまた取り上げられたが、その小さな命が母の温もりを受けることはなかった。
すぐさま、側近が男児を連れ去り、その姿を消したのだ。
出産を終えた王妃は、悲痛な叫び声を上げた。
「なぜ! なぜなの!? 私は、あなたのために…!」
産後の身であるにもかかわらず、彼女の憎しみは、自分へと向けられた。
その顔が、たまらなく面白かった。
ああ、人の感情が露わになるその瞬間は、なんとも愉悦なものだ。
「どうして、こんなことをするの。どうして、どうして、どうして!?」
怒り、悲しみ、憎しみ——暴れるような感情。
それらすべてが混ざり合った顔を見ながら、静かに口を開く。
「王よ。神は言っています。この女もいずれ国を滅ぼす存在になると」
「な、なんだと!?」
言葉を鵜呑みにする王。
国を統治する者が、自分の言葉ひとつでこんなにも容易く動くとは、なんと滑稽なことか。
「王妃を追放せよ!!」
その唐突な言葉により、王妃と呼ばれた彼女は産後間もなく王国を追われ、「国母」としての立場を失ったのだった。
どうしようもない絶望と、自分への憎しみに満ちた顔。
嗚呼、たまらない。
人間とは、神の言葉一つでここまで変わるものだろうか。
ただ悲痛な叫びを聞きながら、その場から静かに去った。