繰り返される過去と未来の狭間で
「……これが、私の運命」
放課後、再び紗月と二人きりになった。僕は無言で彼女を見つめ、その瞳に映る不安と決意を感じ取った。昨日から抱えていた疑念が、やっと現実となった。
紗月は口を開いた。
「私が転校してきた日から――すべてが変わったの」
彼女の声は低く、どこか遠くを見つめるような響きを持っていた。
「それまでは、何も覚えていなかった。転校してきた瞬間から、町で不思議な事件が起こり始めて……そして、あの時」
「あの時?」
僕は思わず口を挟んだ。
「斉藤智也が失踪した日――それが、私の時間を狂わせたの」
紗月はゆっくりと目を閉じた。まるで、その瞬間を思い出すのが辛いかのように。彼女の指先が、無意識に震えていた。
「それから何度も……死んで、また目を覚ます。毎回、記憶が消える。でも、何度目かに気づいたの。私は、何度も繰り返しているんだって」
紗月は小さな声で続けた。
「死んでも記憶がリセットされても、必ずまた同じ時に戻される」
その言葉に、僕の胸がざわめいた。何度も死んで記憶を失い、それでも再び目を覚ます――それが、彼女の現実だというのか。
「君は――そのことに気づいて、どうしても抜け出せないのか?」
僕は尋ねた。
「抜け出せるなら、とっくに抜け出してる」
彼女は苦笑しながら言ったが、その目には決して笑顔が浮かぶことはなかった。
「でも、どうしても分からないの。私だけが、何度も繰り返し続けている理由が。何度も死んで、また戻される。そして、私の周りで起きる事件が、だんだんと絡み合ってくる」
その言葉に、僕はふと心に浮かんだ疑問を口にした。
「もしかして……斉藤智也が失踪したことが、このループの原因だとでも言うのか?」
「それが、分からない」
紗月はゆっくりと答えた。
「でも、彼の失踪から何かが変わった気がする。私の時間が狂い始めた日が、彼がいなくなった日と重なるんだ」
その言葉を聞いた瞬間、僕の頭の中で何かが閃いた。斉藤智也――彼が失踪したことで、このループが始まったのか。もしそうなら、彼がループを解く鍵を握っているのかもしれない。
「じゃあ、斉藤智也を探さなければならない」
僕は思わず呟いた。
「でも、それは危険だよ」
紗月は必死に僕を止めようとした。
「あなたも、私と同じように巻き込まれてしまうかもしれない」
「それでも構わない」
僕は決意を込めて答えた。
「君を一人にしておけない」
その言葉に、紗月は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに静かな微笑みを浮かべた。その微笑みには、どこか切なさと共に、深い感謝の気持ちが込められているように見えた。
「ありがとう。でも、私には逃げられない。逃げられるなら、とっくに逃げていたわ」
彼女は目を伏せ、声を低くした。
「私の運命は、もう決まっている」
その言葉に、僕の胸が締めつけられるような感覚を覚えた。紗月は、何度も繰り返される死の中で、必死に戦っている。その戦いが、どれほど辛く、苦しいものなのかを、僕は今、ようやく理解した。
「君と一緒に、その瞬間を迎えるよ」
僕は力強く言った。決して後悔しない覚悟で。
紗月は驚いた顔をし、やがてその目に涙を浮かべながら、静かに頷いた。
「ありがとう、君ならきっと――」
その言葉が途切れた時、僕は感じた。紗月と共に、過去を振り返り、そして未来を変えるために、僕たちがどんな代償を払うことになるのか。それでも、僕は全てを受け入れる覚悟を決めた。




