ループの中で
次の日、僕は一晩中眠れなかった。紗月が言った「何度も死んでいる」という言葉が、頭の中でぐるぐると回っていた。
彼女が言う「死」――それが本当なら、このループの中で何度も命を失っては、また最初からやり直すという、信じがたい現実が繰り返されていることになる。
もしそうだとしたら、彼女が忘れるのも当然だ。毎回死んで、記憶をリセットされる。
そんな地獄のようなサイクルに閉じ込められているのだとしたら、僕は何をしてあげられるのか。どうすれば、紗月は解放されるのだろう?
放課後、結城と再び会う約束をしていた。今日は、少しでも真実に近づくために、紗月の過去をさらに掘り下げるつもりだった。
「結城、やっぱり紗月が言っていたこと、本当なんだろうか?」
僕は思わず尋ねた。
結城は冷静に答える。
「可能性は高い。紗月がループに関わっていること、そして彼女の死が繰り返されていること。それに、この町で起きた不審な事件や失踪者が、紗月の転校と重なることも関係しているかもしれない」
「でも、どうして彼女だけがそんな目に……」
僕は言葉を詰まらせる。
「それを解明するのが僕たちの仕事だろう?」
結城は不敵に笑いながら言った。その笑顔には、僕がどんなに不安を感じていても、揺るがない決意が込められていた。
その後、僕たちは再びインターネットで情報を調べ始めた。紗月の転校前後に起きた異常な出来事――失踪者、奇妙な事故、そしてその時期に町で頻繁に目撃された不審者。すべてが繋がっているような気がしてならなかった。
「これだ」
結城が指さしたのは、ひとつの古いニュース記事だった。それには、紗月が転校してきた時期に起きた一連の不審な事件が詳細に記録されていた。特に、紗月が転校してきた直後に失踪した人物の情報が記されていた。
「失踪者の名前は……?」
僕はその記事をじっと見つめながら問いかけた。
結城は少し黙った後、答えた。
「『斉藤智也』、この人物も紗月の転校のタイミングで姿を消している」
その名前を聞いて、僕の胸が締めつけられた。斉藤智也――僕はその名前をどこかで聞いたことがあるような気がした。
「斉藤智也……もしかして、あの事件の……」
僕は言葉を続ける。
「そう。彼は数年前、この町で発生した連続失踪事件の一人だった」
結城が冷静に説明した。
「そして、紗月が転校してきたその日、彼の姿は二度と確認されなかった」
その言葉を聞いた瞬間、僕は何かに気づいた。紗月と斉藤智也――彼の失踪が、もしかするとこのループと関係しているのではないか。
もし彼が、このループの鍵を握る人物だとしたら、紗月の「死」と「記憶喪失」がすべて繋がる可能性がある。
その時、結城が突然言った。
「このループ、ただの時間の繰り返しではないかもしれない。何かが起こったとき、時間が逆戻りしているんじゃないか?」
「逆戻り?」
僕はその言葉に驚きながらも、意味を考えた。
「そう。時間が戻るのは、何か大きな変化が起こる瞬間だ」
結城は真剣な顔で続けた。
「もし斉藤智也が失踪したことが、このループを引き起こした原因だとしたら、その瞬間に時間が巻き戻されることがあるかもしれない」
「でも、どうしてそんなことが可能なんだ?」
僕はまだ信じきれなかった。
「それが分かれば、僕たちもこのループから抜け出せるはずだ」
結城は無言で画面を見つめた。彼の瞳には、少しの不安も見せず、ただひたすらに前を見据える強い意志が込められていた。
その日、僕たちは紗月の過去に関するさらなる手がかりを探し続けた。しかし、結局その夜には目新しい情報を得ることはできなかった。だが、僕の心の中には、少しずつ確信が芽生えていた。
「紗月、君が隠していること、必ず明らかにする」
僕は静かに誓った。明日、もう一度彼女に尋ねよう。今度は、全てを知る覚悟で。




