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近川駄瓶という男


「それでは、今回の騒動の概要を確認する。……ちょっと準備するから、そのまま待機していてくれ」


 手帳よりやや大きいサイズのタブレットが、警部の上着の内ポケットから現れた。上下を確認し、側面のボタンを押してから、鬱陶うっとうしそうに表面を指でなぞっている。ちゃんとセキュリティとか、設定しているんだろうか?


「まず騒動の発端となっているのは、言うまでもなく、三ヶ月前に逝去された風景画の巨匠、近川駄瓶先生の遺言だ。……その中の一部が、昨日の昼頃、弁護士の手を介して動画投稿サイトにアップロードされた。内容は、作品の中にメッセージが隠されており、それを解読した者に遺産の半分を与えるというものだ。……我々警察はすぐアップロードした弁護士に事実確認を行ったが、遺言の内容に間違いはないことが確認された。それから……」


 どうもあのタブレットは警部には使い辛い様子だ。おそらく資料を変える時なのだろうが、そのたびに指先がうろうろしていて微妙な間が発生している。


「つまり、悪戯いたずらの可能性は無い、ってことですよね」


 私の横で電子ノートパッドにメモしている理愛が、小さな声で話しかけてきた。


「ああ、それに遺言だからな。法律でその効力が保障されているものだ。駄瓶先生も自分がやろうとしていることの影響力は自覚していたはず。これでメッセージも遺産もウソだったら、立派な犯罪だ」


 その間、警部はタブレットを人差し指の先でぺちぺちと叩き続けていたが、ようやく口を開いた。


「そう、それから、駄瓶先生についての詳細だが……先生は10年ほど前から糖尿病と狭心症を患っていて、入退院を繰り返しておられた。えー、このころから本人も死を意識するようになったと友人の方々は話している。……末期には糖尿病で神経がやられ、絵筆も握れなくなってしまったそうだ。遺言は弁護士を介しての……口述筆記だったことも確認している」


「ねえ、駄瓶先生って本名じゃないよね?」

「うーん、レオナルド・ダ・ヴィンチからとっているのかな……」


 説明の途中で、理愛と、他の誰かの声が耳に入り込んできた。後ろをむくと、真希さんが隣にいる。いつの間にワープしてきたのだろう。


「それで、先生に直近の親族はおらず、晩年は入院されるまでほとんどの時間を……一人で……いや、えっと……週刊誌の情報では、晩年でも愛人とみられる複数の女性が出入りしていたそうで……。えー……今回の騒動に関与していない、もう半分の遺産は、親戚や遠縁の方々などに分配されたと担当弁護士から確認をとっており……」


「……駄瓶先生は、若いころに『香川のダ・ヴィンチ』って呼ばれたことがあるそうだ。世界で認められるようになってから、ペンネームで近川駄瓶を名乗るようになったんだと」

「あ、やっぱりダ・ヴィンチからなんですか」

「ていうか戸玉さん、そんなことを知ってるなんて……駄瓶先生とお知り合いだったんですか?」

「知り合いというか、ルポライターとして取材対象だったころがあってね。その時いろいろと話を聞いて――」


「うおっほぉん! では警察側のおさらいはこのぐらいにしておいて、ここまでの情報から、戸玉大先生はどのようにお考えなのかお聞きしたいのですが、よろしいでしょうかっ!」


 わざとらしい大声が、館内に響き渡った。警部は挑戦的なまなざしをこちらに向けている。理愛と真希さんは逃げるように、私の後ろへ隠れてしまった。この挑戦、受けないわけにはいかないようだ。


「そうですね、これまでの情報のなかで私が推理できることは……みっつ、あります」


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