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狐娘と付き合うまでの物語  作者: 油揚げ
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約束事

 放課後、春樹と隼人と雫は教室の角の席に集まって談笑していた。


「なあ、朝のあれ、二人とも見てないのか?」


「あれって?」


「今日転校してきた女子だよ、えーっとふるかわ・・・」


「古川桜狐だよ。春樹。まだ名前覚えてないの?」


 隼人と雫が怪訝そうにこっちを見てくる。


「でも確かに春樹が覚えてないのも分かるかも。なんか覚えにくいんだよね。あのこのこと。ぼやけるっていうか、なんていうか」


 「それは俺も分かるかも。なんだろなんかあの子のことを思い出そうとしてもなんか曖昧になるんだよな」


 隼人が雫の言葉にかぶせるように言ってきた。だが俺が言いたいのはそんなことではなかった。だが二人にその話の続きをすることはできなかった。


「まあ、その転校生についてなんだけど、二人とも見てないのか?あの頭に生えた・・・」


 突然世界が止まった。目の前にいる二人は先ほどまで椅子を船が揺れるように動かしていたが今は、どう考えてもおかしな形で止まっている。本来止められるはずの無い角度で止まっている。よく見てみると二人の紙が重力に逆らって浮いている。運動場の方を見ても野球部が投げたボールが写真のように止まっている。


 「なんだこれ」


 俺はそう言ってとりあえず目の前にいる二人の肩をゆすってみようとしたが、二人の身体はその場に縫い付けられたように固まっていた。


 「ねえ、あなた見たんでしょ?」


 その声が聞こえるほうを振り向くとそこには今日転校してきた古川が教卓の上に足を組んで座っていた。


 「見たって、何が」


 「とぼけなくていいわ。これよ」


 そう言って古川は自分の頭の上を指さしてみせた。


 「ああ、やっぱり見間違いじゃなかったんだな」


 そこには俺が朝見た狐の耳が付いていた。


 「私もまだまだね。人間ごときに見破られるなんて」


 そう自嘲気味に言いながらこっちを見てきた。


 「まあいいわ。どっちにしろここで殺してしまえば関係ないもんね」


 殺す?なんか物騒な言葉がとびだしてきたな。


 「まて、まてまて。なんだよ。殺すって」


 「ん?そのままの意味だけど、何か分からないことでもある?」


 そう言いながら古川は狐の耳をぴょこぴょこと動かした。


 「いや、なんで殺されないといけないんだよ」


 「それはそうよ、今あなたがその目の前の二人に話そうとしていたことを広められると困るからよ。だから殺すの」


 「意味わからん」


 「そう?簡単な説明だったと思うけど。まあいいわ。さよなら」


 そう言って近づいてきた。それを見て逃げようとしたが体が動かない。


 「なっ、なんで動けないんだよ」


 「そりゃあそうよ。止めてるんだもん」


 「無茶苦茶だ」


 だがそうこう言っている間に古川は迫ってくる。少しづつ彼女の身体が視界に広がってきた。それを見てもう逃げることはできないと覚悟を決めて目を閉じた。だが何かが急に体に当たり目を開けるとそれは古川だった。


 「おい、どうしたんだよ」


 「うう・・・・」


 ただ呻るような声しか返ってこない。


 「おい、大丈夫か」


 「おなか・・・」


 「なんだ、腹が痛いのか」


 「おなか減った・・・」


 「は?」


 「おなか減ったから何かちょうだい」


 「わかったからちょっと待ってろ」


 すると急に体が動くようになった。古川を横にした後とりあえずカバンの中に入っていたお菓子をあげた。


 なんなんだ。こいつは一体。そんなことを考えながら、今しがたあげたお菓子を貪り食べている自称人間ではない古川を見ていた。いや、人間でないことは確かなんだけど。


 「ふーうまかった」


 そう言って口元を拭うその姿は妙に妖艶な姿だった。


 「おい、お前、私に劣情を抱くなよ」


 古川はそう言いながら自らの身体を守るように胸の前に腕を回した


 「れつ・・・お前ふざけんなよ」


 「そう怒るな。だが助けてくれたのには感謝する。お前のことは殺さないことにしようと思う」


 そう言ってしっかりとお辞儀をしてきて面食らった。


 「殺さないって本当か」


 「ああ、本当だ。恩を仇で返すようなことはしたくない」


 「恩って」


 「そう言うわけだ。だが、私のことを周りに話してみろ。その時はどうなるか覚悟しておけよ」


 「どうなるんだ」


 「そうだな、とりあえずお前の下半身は一生使い物にならなくなるだろうな」

 

 「なにする気だよ」


 「嘘。でも地獄のような苦しみは味合わえるのは保証する」


 「わかったよ」


 その言葉のあと世界は動き始めた。


 「春樹、でなんだよ転校生がどうしたんだ?」


 雫と隼人は話を早くしろと言いたげな顔だ。


 「ああ、いやなんでもないよ」


 二人は訳が分からんという顔をしている。


 「春樹君、だっけ」


 不意に後ろから声をかけられて振り向くとそこには先ほどまで俺を殺すと言っていた人物が立っていた。

 「あっ、古川さんだ」


 「あっ、えーと雫さんと隼人さんでしたよね」


 そう微笑みながら応えるさまはさきほどまでの様子が信じられなくなるものだった。


 「どうしたの?」


 「いや、恥ずかしいんだけど家までの道が分からなくて」


 そう言いながら頬を赤らめた。


 「そうなんだ、でそれでどうして春樹に声をかけたの」


 「あっ、それは先生が道が分からないっていうと私の家の近くに春樹君の家があるから送ってもらえって言われて」


 「そうなんだ。良かったな春樹」


 「あっ、ああ」

 

 隼人はにやにやしながらこっちを見ているが俺は内心驚愕している。


 「じゃあ時間も時間だしそろそろ帰ろっか」


 雫がそんなことを言って立ち上がった後、隼人も同じようにして教室から出て行った。


 それを見て古川は俺に顔を近づけてきた。


 「黙っていたの偉かったですね。ずっと聞いてますからね」


 そう笑顔で言うが目が笑っていなかった。


 「おーい二人とも早くいこうぜ」


 隼人の声が廊下にこだまする。


 「今日のことは忘れるよ」


 「それが賢いとおもいます。それじゃあ帰りましょ」


 その後、隼人と雫に合流して四人はオレンジと少しくらい青色が混ざった空の下帰っていった。

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