変な時期の転校生
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今日、俺たちのクラスには転校生が来るらしい。5月も終わりかけの今の時期に転校なんて変な話だ。担任からこのクラスに新しくクラスメイトが増えると告げられた時そう思った。
「なあ、春樹。どんな女子が来ると思う?」
「知るかそんなこと。そもそも男かもしれないだろ」
「いや、女子だね。俺の感がそう言ってるから女子に間違いない!」
クラスメイトと言うか友達というか、偶然、二年連続で同じクラスになった隼人がそう自信満々に言うのを見て、少し呆れてしまう。
「まあ、男にしろ女にしろ変な奴が来そうではあるな」
「ん?なんでそう思うんだ」
「いや、考えてもみろよ。こんな高校二年の五月も終わりかけの訳の分からない時期に転校してくる奴だぞ。何かあるだろ。普通」
「そうかな?親の転勤とかじゃないの?」
「もしそうだとしても、こんな時期に転勤っておかしいだろ」
「まあ、そう言われるとそうかもな。にしても春樹は少し考えすぎじゃね?」
「隼人が考えすぎないだけだ」
「人のことを馬鹿みたいに言うんじゃねーよ」
俺たちは椅子に座ってその後も他愛無い話をつづけた。
「おはよう、春樹、隼人」
「ああ、おはよ」
「おお、おはよ!雫。また夜更かししたのか?」
「ん?してないが?」
「いや朝、雫の家寄ったけど雫の母さんにまだ寝てるから先に行っておいて言われたぞ」
「もう、毎朝寄らなくていいのに」
「いや小学校の時からの習慣で朝誘いに行かないと変な感じがするんだよ」
「なにそれ」
そう言って雫は隼人の顔を見て笑った。この二人は幼馴染らしく、以前に隼人の家に遊びに行ったときに部屋にいて、一瞬隼人の意外な趣味を見てしまったと思い悪いことをしたと感じたが、よく見てみると寝そべっているのは紛れもない隼人ではない別人であることが分かった。そして隼人本人が俺の後から飲み物をもって現れたときにこいつは誰なのかと聞いたところ幼馴染の雫だと紹介された。
「相変わらず仲いいな二人とも」二人で笑いあう様子を見てそう思わず口に出た。
「いや、春樹。何言ってんだよ。恥ずかしいな」
「そうか?別に思ったことを言っただけだぞ」
「それが、恥ずかしいんだけどな。まあいいや。そう言うところも春樹の良さだしな」
「お前の方が恥ずかしいこといってんじゃねーか」
「確かに!」
俺たちは三人で笑った。朝からこんなくだらないことで笑える友達ができてよかったと思う。
「ねえ、二人とも。今日転校生来るの覚えてる?」
雫が少し間をおいて聞いてきた。
「ああ、その話を雫が来るまでしてたんだよ。だよな春樹」
「ああ、隼人は可愛い女子がくるって大騒ぎしてたけどな」
「おい、それは雫の前で言うなって」
「へー可愛い女子が来てほしいんだ」
雫が隼人に詰め寄る。その顔には笑顔が張り付いているが目元が陰っている。
「私というものがありながら、隼人は可愛い女子が来てほしいんだ」
「いや、それはそうだけど、そうじゃなくて春樹のことを思って」
隼人は口ごもりながら必死に言い訳をしている。その姿が可笑しく一人で笑ってると雫がこっちに顔を向けてきた。
「春樹、あんたも早く恋人とか作りなさいよ。顔は別に悪くないんだから普通にしてたら彼女の一人や二人は作れるはずなのに、変に人に対して警戒心を持つからできないのよ。あんた」
「褒めてくれてありがと。雫」
「別に褒めてない!」
二人でそんなやり取りをしていると隼人が雫の方を見ているのに気が付いた。
「なあなあ、雫俺もかっこいいよな?」
隼人が雫が俺の顔を悪くないといったことを気にしてかそんな情けない質問をしていた。
「さーね。どうだろ」
「ごめんって、許してよ」
隼人は雫の制服に抱きついて謝っていた。雫はその様子を堪能した後に隼人の体を引きはがした。
「もう、分かったから。許してあげるから一回離れて」
そう言われて隼人は素直に離れたあと、制服のついた埃を掃っていた。
二人のこういったやり取りは結構な頻度で行われている。
雫と隼人は中学生のころから付き合っており、互いに信頼しきっているからこそできることだと思う。以前そのことを二人に伝えたところ、二人とも恥ずかしそうにはしたがどこか嬉しそうな様子だった。
「あっ、そろそろ時間だ。転校生どんな子だろ」
隼人が性懲りもなくそんなことをまた言う。だがこれは隼人が純粋に思ったことを言っただけなことは雫も分かっているらしく、先ほどみたいなことにはならなかった。
「確かに、どんな人が来るんだろ」
「まあ、とりあえず二人とも自分の席に座ったら?今立ってるの隼人と雫だけだし」
教室の中にいる生徒は既に全員自分の席についており、立っているのは二人だけだった。担任は既に教壇の前に立っており隼人と雫を静かに眺めていた。そのことを目線で教えてやると二人はすみませんという様子で自分たちの席に戻った。
「あー二週間前ぐらいに伝えたと思うが、今日からこのクラスに新しいクラスメイトがやってくる。みんな仲良くするように。それでは入って来てくれ」
担任が扉に向かって呼びかけるとガラガラという音と共に扉が横にスライドして、そのあとに一人の女子が教室入ってきた。
「えっ、めっちゃかわいいじゃん」
「ほんとだな」
「肌白、髪も綺麗だし」
その女子の姿を見て、ひそひそとそんな会話があちこちで交わされた。
「おーい、お前ら。静かにしろ」
担任が軽く注意したことで一旦教室は静まり返った。
「今日からこのクラスで一緒に過ごしていくことになった、えーっとこれはなんて読むんだったか」
名前をまだ覚えていないらしく名簿を見ている。
「ふるかわさきです。先生」
「あ、ああ、そうだった。すまない」
「ふふ、別にいいですよ。確かにあまり見ない名前ですもんね」
「そう言ってもらえると助かるよ。古川さん」
そう言った後、俺たちの方に向きなおして教員としての仕事をし始めた。
「えーもうすでに名前は言ってくれたが、今日からこのクラスの一員となる古川桜狐さんだ。仲良くしてやれよ。あーそれと、この後俺は職員朝礼があるから、一度職員室に戻るがくれぐれも騒ぎすぎないことな」
そう忠告して、持ってきた荷物を教室の片隅に置いた後、教室から出て行った。
それを見計らってクラスの奴らが転校生に話しかけに行った。
「ねえねえ、どこから来たの?」
「連絡先交換しようよ!」
「今日学校終わったら遊びに行かない?」
クラス中がお祭り騒ぎになった。全員が自分が聞きたいことを返答が返ってくる前に質問するためどの質問を答えたらいいのか困っている様子だった。
その様子を遠くから見ていると隼人と雫が席に近づいてきた。
「さっき気づいてたんなら教えてくれよ。先生がいるの」
「ほんとだよ。恥かいたじゃん」
二人は笑いながら頭をつついてくる。
それに「ごめんって」と言ってひとまずは区切りがついた。
「にしても、かなり可愛いい女子が来たな」
「確かにあれは可愛いと認めざるおえないな」
そんな芝居がかった様子の二人を見ていると可笑しくなってくる。
「春樹はどう思う?」
「いきなり話を振るなよ。まあ確かに可愛いな」
「だよな」
その言葉の後、改めて俺たち三人はクラスメイトに囲まれている古川桜狐の席に視線を移す。
「ん?」
なんか頭に生えてないか?
「ん?春樹どうした?」
「いや、今何か頭に生えてるのが見えた気がしたんだけど気のせいか」
最後の方は独り言のようになっていた。隼人もフーンと音を鳴らすだけでそれ以上追及はしてこなかった。
一体、一瞬だけ見えたあれは何だったんだろうか。古川桜狐の頭から狐の耳が生えているように見えたのだが気のせいなのだろうか。にしてはやけにくっきりと見えたような気がするが。でも多分見間違いだろ。実際そんなものが生えていたら今頃教室の中は今よりももっとうるさくなっているだろう。
そんなことを考えていると「あっ、先生戻ってきた!」と叫ぶ声が聞こえてきて、それを合図に全員が自分の席に戻っていった。
古川桜狐は少し疲れたような顔をしており、気の毒に思えた。
だが本当に一瞬見えたあれは何だったのだろうか。もしかしたら知らず知らずのうちに疲れていたのかもしれない。そう思って、一時間目は寝ることにした。
ここまで読んでくださりありがとうございます。ゆったりと進めていきたいと思っています。
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