⭕ 巒圜の都 6
──*──*──*── 2週間後
──*──*──*── 裏庭
罧寧が旅館で一緒に寝泊まりする様になって2週間が経った。
罧寧の基礎体力を上げる為、バランス感覚に必要な体幹を鍛える為、丈夫な身体作りを手伝う為にマオキノと協力して罧寧を鍛えた。
食事に関しては完全にマオキノ監修だ。
弓道の心得や基礎知識,基礎動作なんかの基本的な事に関しては幻夢さんが担当してくれる事になった。
基礎を応用した実戦的な弓技の向上なんかは弓弦さんが担当する。
至れり尽くせりじゃないかな。
幻夢さんは、穏やかで親切に相手を褒めて伸ばす方法で罧寧に教えている。
駄目な所は的確に教えて、丁寧に指導している。
因みにキョンシー作りは、幻夢さんに似せて作られた優秀で有能な2体の複製呪靈に任せているんだとか。
完全に独学で弓技の腕を上げて、生きるか死ぬかの実戦向きの弓弦さんは、幻夢さんとは正反対で中々のスパルタ振りを発揮している。
弓弦さんは「 教えるのは向かない 」って言ってたけど、言葉通りだと思った。
今にも泣きそうな顔をしながら懸命に弓弦さんから教わっている罧寧の様子を幻夢さんも困り顔で見ている。
オレと一緒に見学している玄奘さんなんて、さっきから胸の前で両手を合わせた合掌ポーズで、ずっとハラハラしっぱなしだ。
まるで歳の離れた弟を心配する過保護なお兄ちゃんみたいになっちゃってるよ、玄奘さんっ!!
マオキノ
「 弓弦様はマオ様以外にはとんとお厳しいですエリ~~ 」
マオ
「 幾ら厳しいって言ってもさ、セロよりはマシだよ 」
マオキノ
「 それは言えてますエリ。
命中率が上がってますエリ。
努力の賜物ですエリ 」
マオ
「 そうだな。
少しずつだけど確実に弓弦さんが指示した部位の近い位置に矢が刺さる様になって来てるもんな 」
そうなんだ。
最初の頃は藁人形の股間部分が大変な状態だったけど、今では股間部分に刺さる矢は減っている。
上達しているのは明らかだ。
未だ偶に刺さりはするけどな……。
玄奘三蔵法師
「 はぁ……見ているだけで疲れてしまいますね…… 」
マオ
「 玄奘さんは椅子に座って見学した方が良いかもだね 」
マオキノ
「 三蔵、座って見るエリ 」
マオキノは笠の中から背凭れの付いた椅子を出すと玄奘さんに進める。
椅子まで入るなんて笠の中は何処に繋がってるんだ……。
テーブルとかクローゼットも普通に出て来るもんなぁ……。
玄奘三蔵法師
「 有り難う御座います、マオキノ殿。
座らせて頂きます(////)」
マオキノ
「 三蔵は遠慮し過ぎエリ。
もっと図々しくなって良いエリ。
世知辛い世の中を生き残れないエリ 」
玄奘三蔵法師
「 ………………努力してみます(////)」
マオキノ
「 図々しさなら悟空を見習うと良いエリ 」
玄奘三蔵法師
「 そ…それは流石に……。
遠慮させて頂きたいです…… 」
マオ
「 孫悟空は図々しさと我が儘の塊みたいな奴だからな~~。
見習うにしても抵抗感を感じるのは普通だと思うよ 」
マオキノ
「 藁人形を取り替えて来ますエリ 」
マオ
「 マオキノ、あの矢の刺さった藁人形はどうするんだ? 」
マオキノ
「 セロ様に御見せ致しますエリ 」
マオ
「 セロに?
何でだ? 」
マオキノ
「 罧寧が戦力になり、マオ様の役に立てる逸材なのか判断して頂く為ですエリ 」
マオ
「 セロ……(////)」
厳蒔弓弦
「 ──一旦、休憩にする 」
罧寧
「 はい……。
有り難う御座います 」
厳蒔弓弦
「 マオキノ、罧寧を頼めるか? 」
マオキノ
「 お任せですエリ。
罧寧、此方へ来るエリ 」
藁人形を取り替えたマオキノが罧寧を呼ぶ。
罧寧は汗を拭いながらマオキノの元へ駆けて行く。
獅聖幻夢
「 弓弦殿、罧寧はどうですか。
実戦に役立ちそうですか? 」
厳蒔弓弦
「 そうだな。
命中率は射っていれば上達するものだ。
幻夢の教えた基礎もきちんと身に付いている。
後は本番さながらに動く獲物を狙い、命中させられる様に腕を磨く事だな 」
獅聖幻夢
「 腕には問題ない様ですね 」
厳蒔弓弦
「 次は矢の先端に法力──ではなく、妖力を込めて射る訓練だな 」
獅聖幻夢
「 未だ幼いですし、妖力の制御は難しいのではないですか?
集中力も必要でしょうし 」
厳蒔弓弦
「 意識の問題だな。
年齢は関係無い。
私の場合は無意識に矢へ法力を込めれていた。
どう教えれば良いのか分からない…… 」
獅聖幻夢
「 説明するのは難しいですね。
私も無意識に法力を使っていたので教え方は分かりません… 」
マオ
「 無意識に法力を使えるのが普通なんじゃないの? 」
獅聖幻夢
「 マオ殿、それは違います。
本来は無意識に使える様な能力ではないのです。
血の滲む様な努力と集中力を必要とします。
法力を暴走させぬ様、常に平常心を保ち制御する必要が有ります。
何の意識もしないで法力を自在に扱える陰陽師は居ません 」
厳蒔弓弦
「 幻夢は “ 鬼才の忌み子 ” だったのか? 」
マオ
「 きさいのいみごぉ??
何それ? 」
厳蒔弓弦
「 私も知り合いの陰陽師から聞いただけだ。
詳しい事は知らないんだが、遥か昔の陰陽師の中には “ 異才 ” と呼ばれる天才的な陰陽師が存在したらしい。
その中でも飛び抜けた存在が “ 鬼才の忌み子 ” と呼ばれる存在だ 」
獅聖幻夢
「 物覚え付く前から法力を自在に扱い、誰から教わる事なく式神を使役する程の逸材です 」
マオ
「 幻夢さんって、そんなに凄い子供だったの? 」
獅聖幻夢
「 遥か昔の事です。
私は両親に恵まれました。
両親には今でも感謝しています 」
厳蒔弓弦
「 妖力の扱い方なら猪八戒に頼むべきなのだろうが── 」
玄奘三蔵法師
「 八戒殿は悟空殿と《 華街 》へ出掛けています 」
マオ
「 華街ぃ??
未だ明るいのに? 」
玄奘三蔵法師
「 はい……。
私も誘われたのですが……、私は僧侶ですから御断りしたのです 」
マオ
「 玄奘さんを如何わしい街に誘うなんて、孫悟空の奴ぅ~~!
猪八戒さんも羽目を外し過ぎだよ…… 」
厳蒔弓弦
「 猪八戒に頼めないとなると──、沙悟浄か。
沙悟浄は旅館に居るのか? 」
玄奘三蔵法師
「 沙悟浄殿は菻犁殿と観光に出掛けて行きました 」
マオ
「 そっか、沙悟浄は菻犁の兄弟子だもんな。
一緒に行動するのは自然か… 」
厳蒔弓弦
「 沙悟浄にも頼めないか。
困ったな…… 」
獅聖幻夢
「 確かに困りましたね。
集中したら矢先に妖力を集めれませんか? 」
厳蒔弓弦
「 分からないな…… 」
玄奘三蔵法師
「 あの──、沙悟浄殿が言っていたのですが、一時的にでも妖力を見える様には出来ないのでしょうか? 」
マオ
「 妖力を見える様にする??
──そっか!
妖力が一時的にでも見えたら、腕を伝わせて矢先に集める様にイメージがし易い! 」
厳蒔弓弦
「 目に見えない妖力を見える様にか。
確かに見える様になれば、流れも分かるな 」
マオ
「 幻夢さん、そういう陰陽術は無いの? 」
獅聖幻夢
「 法力を見える様にする術は有ります。
妖力となると難しいですね。
応用すれば良いだけですから、出来ない事はないと思います。
その為には先ず、妖力を調べて解明する必要があります 」
厳蒔弓弦
「 ………………成る程な。
妖力の解明か……。
妖力を使える犠牲者が必要なのだな 」
マオ
「 犠牲者って── 」
確かに犠牲者だけど、弓弦さんも直球だな~~。
マオ
「 でもさ、妖力を調べて解明しないといけないなら、時間が掛かっちゃうよね 」
獅聖幻夢
「 セロ殿に相談してみましょう。
セロ殿ならば妖怪の10体や20体くらい捕獲している筈です 」
厳蒔弓弦
「 それは有り得るな。
頼めるか? 」
獅聖幻夢
「 はい。
嗚呼ぁ……また楽しい実験が出来──。
今のは聞かなかった事にしてください 」
厳蒔弓弦
「 そうだな 」
マオ
「 セロと気が合う筈だよ……。
でもさ、この後はどうするの? 」
獅聖幻夢
「 私が式を出します。
動く式を的にして射ってもらいましょう 」
厳蒔弓弦
「 そうだな。
式ならば射っても罪悪感を抱く事もないだろう 」
玄奘三蔵法師
「 あの、しき……とは何でしょうか? 」
獅聖幻夢
「 おや、三蔵殿は陰陽師を存じないのですか? 」
マオ
「 幻夢さん、この≪ 大陸 ≫に陰陽師は居ないんだ。
道士って呼ばれてる術者は居るみたいだよ 」
獅聖幻夢
「 そうなのですか?
道士ですか。
どの様な術者なのか気になります。
キョンシーを作り、自在に操れるのでしょう?
是非ともモルモットに何人か欲しいです。
セロ殿に頼まなければ── 」
マオ
「 幻夢さん、今は落ち着いて!
式の事は言葉で説明するよりも実際に見せた方が分かり易いんじゃないかな? 」
厳蒔弓弦
「 そうだな。
陰陽術を知らない者には見せるのが1番だと私も思う 」
獅聖幻夢
「 分かりました。
では三蔵殿に私の式を御見せします 」
幻夢さんは狩衣の袖の中から1枚の折り紙を出した。
獅聖幻夢
「 これは唯の折り紙です。
この折り紙に法力を込めて念じます。
すると──可愛い栗鼠に変わりました。
これが陰陽師の使う陰陽術です 」
玄奘三蔵法師
「 りす??
──本物の動物ではないのですか?? 」
獅聖幻夢
「 本物の動物に見えても式です。
時間が経つと元の折り紙に戻ります。
可愛いでしょう? 」
厳蒔弓弦
「 可愛いな(////)
触っても良いか? 」
獅聖幻夢
「 どうぞ。
良ければ三蔵殿も触ってください。
式ですから逃げたり噛んだりしません 」
玄奘三蔵法師
「 は…はい……。
…………………………可愛いですね!
柔らかくて毛がモフモフしています(////)」
獅聖幻夢
「 気に入っていただけた様で何よりです 」
弓弦さんと玄奘さんは式の栗鼠にメロメロで夢中だ。
獅聖幻夢
「 陰陽師ならば依り代を使い式を出す事が出来ます。
依り代に込める法力を調整しながら出したい式の姿を思い描きます。
小さい式ならば翌日まで消えません 」
マオ
「 玄武さんにも見せてもらったよ。
陰陽師って凄いよな~~。
矢の的に使う式は動物にするの? 」
獅聖幻夢
「 そうですね。
いきなり人型では抵抗も有るでしょうし。
初めてですし、熊辺りにしましょうか? 」
マオ
「 熊ぁ?!
いきなり熊はデカ過ぎるんじゃないかな? 」
獅聖幻夢
「 大きいので命中させ易いと思います。
初めての動く的ですし命中させ易い熊でも良いのでは?
虎にしますか?
それとも猪にしますか? 」
マオ
「 凶暴な動物ばっかだね… 」
厳蒔弓弦
「 豚にしよう。
的としては小さくなるが、走らせても狙い易いだろう 」
マオ
「 猪八戒さんが居なくて良かったね……。
幾ら式の豚を使うとは言っても、豚を矢の的にしてる場面を見たら、元食用豚の猪八戒さんも穏やかでは居られないかも知れないし…… 」
玄奘三蔵法師
「 それは大丈夫かと。
八戒は普通に豚肉料理を食べてますし 」
マオ
「 そ…そう言えば、猪八戒さんって肉料理が大好物きだったよね……。
共食いしてるなら大丈夫かぁ…… 」
獅聖幻夢
「 では的には豚の式を使いましょう 」
マオ
「 折角だしさ、皆で《 仕事斡旋所 》へ行って依頼を受けてみない?
罧寧には良い経験になると思うしさ 」
厳蒔弓弦
「 そうだな。
実戦で慣れるのは大事だ 」
獅聖幻夢
「 《 仕事斡旋所 》ですか?
何やら面白そうな響きです。
私も是非、御一緒させてください 」
マオ
「 うん!
呪靈を操れる幻夢さんが居てくれると心強いよ! 」
玄奘三蔵法師
「 私も参加させてください 」
厳蒔弓弦
「 ならば戦闘のメインは三蔵と罧寧だな。
私達は後方だ 」
マオ
「 早速、明日にでも行ってみようよ 」
獅聖幻夢
「 ワクワクして来ました♪ 」
玄奘三蔵法師
「 足手まといにならない様に頑張ります 」
そんな訳で──、休憩が終わるとマオキノと一緒に罧寧が戻って来る。
幻夢さんが出した動く式豚を的にして矢を射る練習が始まった。
動かない藁人形と違って動く式豚が的だと命中率は下がっている。
慣れなんだろうなぁ。
昼食はマオキノが用意してくれた炊き込み御飯のオニギリを食べる。
具沢山で食べごたえのある炊き込み御飯のオニギリには皆大満足だった。
昼食後も罧寧の練習は続く。
玄奘さんとオレも弓矢を射らせてもらったけど、上手く射れなくて大苦戦した。
だって藁人形にすら当てられないんだからな!
罧寧の弓の腕前は素直に凄いと思う。
◎ 矢の的を豚にしたのは、「 豚のレバーは加熱しろ 」に登場する豚が可愛かったからです。




