セロフィート
「 人物である人格・釈迦は──、沙弥クドン( ゴータマ )、出家前の悉達た達だっ太たい子し多たの人じん身しんを籍かりて世間に出現された佛ほとけである神格・釈しゃ迦か牟む尼に佛ぶつが、人格・釈しゃ迦かの口を籍かりて説とかれた教えが佛教です。
“ 当とう来らい佛ぶつ ” とは世よに出現する権けん化げ身しんの法ほっ身しんです。
人じん身しんの生誕と同時に世よに出現し、時ときを待ち、本ほん然ぜんの相そうを顕けん現げんされます。
人釈しゃ格迦かと神釈しゃく格尊そんが同居し、外がい面めんからの識別は不可能です。
依って、人格の釈しゃ迦かだと考え発言した者には人格・釈しゃ迦かが答え、神格の佛ぶっ陀だだと考え発言した者には人間釈しゃ迦かの口を籍かりて神格の釈しゃく尊そんが発言され、多く説法されました。
但し、当時の時代は学問の程てい度どが低くく、その時代の水準に合わせた教えを説とかれました。
当時に高度な教えを説といたとしても、学問の程てい度ども教学水準も低く、知識が乏とぼしく理解力も低い当時の人間には到底理解は出来ない説法ばかりでしょう。
教えの中には方便的に説かれている説法も有ります。
鯔とどのつまり、当時の知能レベルに合わせた低い教えを説とかれていた訳です。
法は説とかれていても真しん理りは説といていません 」
マオ
「 セロ──、然さりり気げ無く昔の人達をディスってないか? 」
セロフィート
「 はい?
ディスってません。
ワタシは事実を述のべているだけです。
抑そもそも≪ 天てん竺じく ≫に納められている釈しゃ迦かの説法の全すべては、釈しゃ迦かが亡くなった後あと、弟子達が寄せ集まり釈しゃく尊そんが当時に説とかれていた説法の記憶を頼りに記録をし、経きょう文もんという形で残しました。
〈 当とう来らい佛ぶつ 〉が直接,直じき々じきに書き残した経きょう文もんではなく、釈しゃ迦かの御世話をしていた従兄弟いとこの弟子が身近で聞いていた説法が纏められているだけです。
“ 無いよりはマシ ” な程てい度どの説法記録です。
本来の意味も真しんの正しさも失われてしまった低レベルな経文を有あり難がたがり崇拝する人間は実じつに愉快です♪ 」
マオ
「 セロ!
少しは自重しろよ…… 」
セロフィート
「 自重です?
ふむ……ではマオに問いましょう。
知能の低い原始人に合わせて説といた釈しゃく尊そんの教えが有るとしましょう。
それを身近で聞いていた釈しゃ迦かの弟子達は口こう答とうで自分の弟子達に伝えました。
脈みゃく々みゃくと弟子達に受け継がれた釈しゃく尊そんの説法は数すう百ひゃく年ねんの時ときを経へて、弟子達の手に依って説法が寄せ集められ、経きょう文もんという形で後こう世せいへ残されました。
経きょう文もんの内容は幼稚で低能な原始人に合わせて説とかれている説法です。
“ 有あり難がたい ” と思えます? 」
マオ
「 原始人は言い過ぎだろ…… 」
セロフィート
「 例え話ばなしです。
釈しゃく尊そんが直接説とかれた教えであり、釈しゃく尊そんが直じき々じきに説法を書き残し、原始人達へ残した経きょう文もんならば、当時の時代にとっての “ 本物の教え ” と言えましょう。
当然、何なに物ものにも変えがたい価値が有ります。
教えの中身が原始人レベルの低い説法であったとしても≪ 大陸 ≫の宝たからと言っても過言ではありません。
ですが、残念な事に釈しゃく尊そんは自みずから説法を書き残す事はされませんでした。
当時の釈しゃく尊そん,当時の弟子達を全まったく知らない数すう百ひゃく年ねん後ごの弟子達が、御互いに聞いた説法を寄せ集め、書き残した説法記録──経きょう文もんは “ 本物の教え ” とは言えません。
有あり難がたがり、崇拝するのは人間の勝手です。
命いのちを懸けて旅をし、祖国へ教えを持ち帰る程ほどの価値は無いに等ひとしい経きょう文もんを求め、誰も疑う事もなく弘ひろめるのですから滑稽でなりません 」
マオ
「 ……………………。
『 釈しゃく尊そんが原始人達に対して “ 斯かく々かく然しか々じかと説といていた ” って事を1番弟子が聞いてましたよ ” って内容の寄せ集め──って事か?
……………………有あり難がたい…………のかなぁ……?? 」
御客:おっさん
「 兄にいちゃん達──、僧侶様でも無いのに随分と詳しいんだねぇ?
俺は吃驚だよ…… 」
セロフィート
「 吟遊大詩人ですから、色いろ々いろな話はなしを集めているのです。
説法記録を残したのが、釈しゃく尊そんを知る弟子達だったのか──、遥か未来の弟子達だったのか──、そんな事は些細な事であり、大たいした問題ではないです。
1番大事なのは、“ 釈しゃ迦か牟む尼に佛ぶつである神しん諸天善神佛ぶつ,諸菩薩が、人じん身しんを籍かりて世せ間けんに出現し、大だい乗じょう佛教を説とき、後こう世せいに残された ” という事実です。
当時の釈しゃく尊そんや当時の弟子達を知らぬ遥か未来の弟子達が説法を寄せ集めて作った説法経きょう記録文もんよりも、当時の釈しゃく尊そんを知り、当時の釈しゃく尊そんの御世話をした1番弟子が傍そばで聞いていた説法を書き残した説法経きょう記録文もんである──とした方がロマンが有ります。
人間はロマンを求め、よりロマンを感じられる事こと柄がらを事実にしたがる傾向が有ります。
悲しいかな人間の性さがですね 」
マオ
「 より信憑性の強い方にロマンを感じ易いって事かな?
遥か未来の弟子達が残した説法経きょう記録文もんより、当時の釈しゃく尊そんを知る弟子達が残した説法経きょう記録文もんの方が人間的に考えて都合が良いいって事か? 」
セロフィート
「 ふふふ……そうなります。
より広く多くの衆しゅ生じょうへ大だい乗じょう佛教を弘ひろめる手段としては──、釈しゃく尊そんの1番弟子と共ともに作り、後こう世せいに残した説法経きょう記録文もんの方が持って来こいですね 」
マオ
「 セロ……言い方ぁ~~~~ 」
セロフィート
「 はいはい。
話はなしを戻しましょう。
亡くなられた牛ぎゅう魔王さんは暗殺でもされました? 」
御客:おっさん
「 暗殺ぅ?!
とんでもないよ!
牛ぎゅう魔王を暗殺する命いのち知らずな奴なんて居いやしないさ!
≪ 都 ≫を治めている領主だからねぇ。
忠実な配下も多いし、牛ぎゅう魔王に近ちか付づける者なんて限られてるよ 」
セロフィート
「 そうですね。
妻である鉄てっ扇せん公こう主しゅさんならば、夫である牛ぎゅう魔王さんの食事に毒を盛り、毒殺する事は可能です 」
マオ
「 セロ!
何なにを言うんだよ!?
妻が夫に毒を盛って殺ころす理由が何ど処こに有るよ!? 」
セロフィート
「 牛ぎゅう魔王さんの浮気とか? 」
マオ
「 何なんでオレを見て言うんだよ!
オレは何い時つだってセロ一筋だろが!! 」
セロフィート
「 妻が夫を毒殺する理由等など、探せば幾いくらでも有ります 」
マオ
「 浮気したぐらいで毒殺するかよ…… 」
セロフィート
「 ワタシなら〈 合成獣キメイラ 〉の玩具おもちゃにしますけど? 」
マオ
「 止やめてくれよ…… 」
御客:おっさん
「 いや~~、強あながち浮気説は間違っちゃねぇかも知れないよ。
牛ぎゅう魔王ってのは6つ子ごなんだが、どの牛ぎゅう魔王も “ 無類の酒と女おんな好ずき ” って噂は昔から聞いていたし、実際に愛人を侍はべらせて豪遊していた牛ぎゅう魔王も実際に居いたんだ。
性欲が強いんだろうねぇ。
奥さんだけじゃ物もの足たりなかったのかも知れないよ。
昔から “ 浮気は男の甲か斐い性しょう ” って言われてるぐらいだからねぇ 」
マオ
「 ………………へぇ……凄いね……。
でもさ、自分で夫を毒殺しといて、殺ころした夫を “ 蘇生させよう ” なんて思うかな??
オレは奥さんの鉄てっ扇せん公こう主しゅが夫の牛ぎゅう魔王を殺ころしたとは思えないな~~ 」
セロフィート
「 そうでしょうか。
とある計画を達成させる為に必要な通過点に過ぎなければどうでしょう。
計画を成功させる為にはど・う・し・て・も・牛ぎゅう魔王さんを殺ころす必要が有り、蘇生実験も計画を成功させる為に必要な通過点の1つだとしたらどうです? 」
マオ
「 鉄てっ扇せん公こう主しゅが計画してる “ 何なにか ” を成功させる為に必要な手順だったら……。
鉄てっ扇せん公こう主しゅは “ 何なにを計画してる ” って言うんだよ? 」
セロフィート
「 ワタシにも分かりません。
仮に鉄てっ扇せん公こう主しゅさんの目的が、妖怪や半妖を狂わせ,凶暴化させ,人間を襲わせ,人間の数かずを減らす事だったらどうです?
確実に計画は成功してます。
牛ぎゅう魔王さんの蘇生実験が原因で妖怪や半妖の様子が豹変し、理性を失い狂暴化した──と言うのならば、先ずは鉄てっ扇せん公こう主しゅさんに疑いの目を向けるべきでしょう。
彼女は加害者かも知れません 」
マオ
「 ………………セロ……妙みょうに拘こだわるなぁ~~。
鉄てっ扇せん公こう主しゅを夫おっと殺ごろしの殺人犯にしたいのかよ 」
セロフィート
「 マオ──、勘違いしないでください。
鉄てっ扇せん公こう主しゅさんは確実に夫おっと殺ごろしの犯人です 」
御客:おっさん
「 そりゃ~~おっかねぇ話はなしだ!
良いい酒の肴さかなになるよ! 」
セロフィート
「 それは何なによりです。
時ときに牛ぎゅう魔王さんの蘇生実験とやらが始まった後あと、5人の兄弟達は何なにも手を打たなかったのですか? 」
御客:おっさん
「 いや、他ほかの牛ぎゅう魔王達は1年近く平常を保たもっていたと聞くよ。
だが……次つぎ々つぎに他ほかの牛ぎゅう魔王達も狂い出して凶暴化してしまったらしいよ。
平常を保たもっていた時ときは、蘇生実験を止やめさせる為に配下を鉄てっ扇せん公こう主しゅの元へ向かわせたりしていたらしいんだが──、やたらと強い術術師者が用心棒に居いるらしくてな、牛ぎゅう魔王達の配下達が次つぎ々つぎと返り討ちに遭っては門前払ばらいを食くらっていたらしいんだ。
“ 信じられない程ほど強い ” って噂を聞いた事があるぜ。
当時の風の噂では──、“ 齊せい天てん大たい聖せい孫そん悟ご空くうなんじゃないか ” って言われていたんだ。
孫そん悟ご空くうはけ・っ・た・い・な・妖術を使うからねぇ。
腕っぷしが強くて、悪戯好ずきで暴れん坊の乱暴者でね、困った妖怪なんだ 」
マオ
「 齊せい天てん大たい聖せい孫そん悟ご空くうか──。
サ◯イ人に変身する孫そん悟ご空くうとど・っ・ち・が強いんだろうな? 」
セロフィート
「 齊せい天てん大たい聖せい孫そん悟ご空くうですか。
妖怪ならば、蘇生実験の被害を受けて狂暴化している可能性も有りますね。
用心するとしましょう 」
マオ
「 そだな。
因ちなみに鉄てっ扇せん公こう主しゅの居いる≪ 都 ≫って何なん番ばん目めに通過する関所なの? 」
御客:おっさん
「 3番目に通過する関所だよ。
4男なんだからね。
鉄てっ扇せん公こう主しゅの居いる≪ 都 ≫は簡単には入はいれないだろうねぇ……。
僧侶様なら入はいれるかも知れないけど……配下達に襲われて食くわれちまうだろうねぇ…… 」
マオ
「 他ほかの関所も通過するのは難むずかしいのかな? 」
御客:おっさん
「 牛ぎゅう魔王が健在だからねぇ。
≪ 都 ≫に入はいって関所を通過するには牛ぎゅう魔王を倒さないと難むずかしいかも知れないねぇ…… 」
セロフィート
「 親切に教えてくださり有あり難がとう御座います。
随分と物知りなのですね 」
御客:おっさん
「 へっへっへ……。
40年前から世界が豹変しちまって楽しみが無くなっちまったからねぇ……。
情報通つうにもなっちまうわな…… 」
セロフィート
「 とても有意義な情報を頂きました。
今夜の酒さか代だいは全額、ワタシが支払います。
好きなだけ飲んでください 」
御客:おっさん
「 いや──、とんでもねぇよ。
俺も久し振ぶりに楽しかったしな!
兄にいちゃん達なら玄げん奘じょう三さん蔵ぞう法ほう師し様と話はなしが会うかも知れないねぇ 」
マオ
「 玄げん奘じょう三さん蔵ぞう法ほう師しぃ??
それって誰さん?? 」
御客:おっさん
「 有名な僧侶様だよ。
何なんでも普ふ賢げん菩ぼ薩さつ様の神託を受けて、≪ 天てん竺じく ≫の在る西を目指して旅をされているらしいんだ。
その内うち、≪ 宋そん枩しょうの村 ≫にも立ち寄ると思うよ 」
マオ
「 ふぅん?
この御時世に≪ 天てん竺じく ≫を目指して旅してるなんて、普ふ賢げん菩ぼ薩さつ様も随分と酷こくな事を神託するんだな? 」
セロフィート
「 普ふ賢げん菩ぼ薩さつも釈しゃ迦か牟む尼に佛ぶつと同様に神しん諸天善神佛ぶつ,諸菩薩の方ほう便べん身しんです。
相応の意味が有るのでしょう。
玄げん奘じょう三さん蔵ぞう法ほう師し──、覚えておきましょう 」
マオ
「 ≪ 天てん竺じく ≫を目指してる──って事は大だい乗じょう佛教が説とかれてる説法経きょう記録文もんが目的なのかな? 」
御客:おっさん
「 僧侶様が≪ 天てん竺じく ≫を目指すのは、それしか理由はないよ。
それだけ有あり難がたい経きょう文もんなのさ 」
マオ
「 当時の人間達のレベルに合わせて釈しゃ迦かが説といた現代に合わない幼稚な説法を纏めた説法経きょう記録文もんなんだろ?
知ったらショックを受けるんじゃないのかな?
釈しゃ迦かが死んだ数すう百ひゃく年ねんが経たってから佛門の弟子達が纏めた説法経きょう記録文もんなんだろ。
何なんかさ、いたたまれないよ…… 」
セロフィート
「 教えないのも大人の優しさです。
知らん顔しときましょう 」
マオ
「 ………………そだな。
此方こっちから態わざ々わざ張り切って旅をしてる玄げん奘じょう三さん蔵ぞう法ほう師しの腰を折る必要も無いよな…… 」
それからも情報通つうで酒好ずきなお・っ・さ・ん・と話はなしをしながら夕ゆう食げを済ませた。
夕ゆう食げ後ごにはセロが詩しい歌かを1曲披露した。
御客達はセロの美び声せいな歌うた声ごえに酔いしれて骨抜き状態になった。
御客の酒を飲む手も進んで食堂兼けん酒場は大盛況となった。
セロが詩しい歌かを歌い終わって席に戻って来きた時ときには、おっさんの姿は消えていた。
大だい分ぶん飲んでたし、宿泊室に戻ったのかな??
セロとオレも食堂を後あとにして宿泊室に向かった。