よくわからない称号を山ほど沢山抱え持つ学園のアイドルに誘われましたが、早くトイレに行きたいので断りました。
*注意*この作品はしいたけガチャ作品です。
下校中、人影のあまりない小道の影で、学園のアイドルと呼ばれている女子に声を掛けられた。
「あ、あの……今時間よろしくて?」
「宜しくないです。じゃ」
「えっ!? あ、待って!」
申し訳ないが、今の俺はそれどころではない。急な腹痛でトイレに行きたくて仕方ないのだ。
今すぐに帰宅するか人目を避けて木陰でリリースするか、今考えられる選択肢はこの二つ。
「わたくしを知っておりますでしょ!? 折り入ってお話しが御座いますの!」
「後で良いかな? 急いでるんだ」
「そんな!」
スタスタスタと足早に。しかし彼女が追い掛けてくる。無視するように歩を進めるが、彼女が俺の横に位置取り話を始めだした。
「カフェに行きませんこと?」
「ごめん、マジで急いでるから」
「このわたくしの誘いを断ると言うの!?
彼女にしたい女の子ランキング第一位!
夏に一緒に海に出掛けたい女子ランキング第一位!
マネージャーにしたい女子ランキング第一位!
着物が似合いそうな女子ランキング第一位!
青春が似合いそうな女子ランキング第一位!
料理上手そうな女子ランキング第一位!
花火デートに誘いたい女子ランキング第一位!
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一万円払えばやらせてくれそうな女子ランキング二年連続第一位!
一緒に紅葉狩りしたい女子ランキング第一位!
クリスマスに一緒に居たい女子ランキング第一位!
なんだかんだ浮気しても許してくれそうな女子ランキング第一位!
神社が似合いそうな女子ランキング第一位!
文化祭で一緒に回りたい女子ランキング第一位!
バレンタインチョコ貰いたい女子ランキング第二位!
卒業式の後に告白したい女子ランキング第一位!のわたくしのお誘いを見事に断ると申すのかしらぁぁぁぁ!?!?!?」
「…………うん」
「なんですってぇぇぇぇ!!!!」
よく一息で言えたな。
てか、ちょこちょこ不名誉そうなランキング第一位があったぞ。大丈夫か?
彼女の長話で気が紛れたのか、何とか自宅まで汚名を頂くことなく無事に済んだ。
「それじゃ」
「ええっ!?」
玄関を閉め、トイレへと駆け込む。
「お待ちなさいな!」
何故か彼女が家に上がり込んできた。鍵を閉めておけば良かったと、軽く後悔なう。
しかし、デモの腫れ物ところ構わずとはよく言ったもので、俺の中のビックバンは待った無し。
爆音を奏でた後、しめやかに用を足してドアを開けると、目の前にはよくわからない称号盛り沢山の学園のアイドル。
「わたくしと付き合いなさい!」
大音量の排泄音を聞いた上で、即時この申し込みはある意味勇者だなと俺は思った。
「わかった。じゃあ、そこの便器に飛び込んだら考えよう」
「オヤスイゴヨウヨ!」
そう言うと、高跳びの姿勢で一気にさっき俺の使用した便器に飛び込んだ。
「さあ!わたくしと付き合いなさ」
大の水量ボタンを押す。
綺麗に吸い込まれていった。詰まり知らずとうたっていただけあるな。このトイレ。
***
それから数年経ち、排水された学園のアイドルは、浄水施設で綺麗にされた後、海に流されて世界を放浪した。
そして赤道に近いところで見事に蒸発し、雲になるとある時、俺の家に雨となって落ちてきた。
「まぁ、それが今の俺の奥さんなんだけどな」
「はははっ!先輩その話つまんねーっすよ」
「そういうわけで、余計なものは全部落として清廉潔白な妻第一位になったんだ」
会社終わりの後輩と呑み屋の前で、俺は俯きながら言った。
「はいはい。女の子のいないただの呑み屋なんですから、セーレンケッパクな奥さんでも許してくれますよ」
「……そうかな」
そう呟いた途端に、ポケットの中のスマートフォンが揺れた。
画面を見ると、『栄養の偏りがある食事はダメです。早く帰ってね』と、用意されている夕飯の画像付きで、妻からラインが送られてきた。
「……帰るわ」
あの時、トイレに流さなければ。
後悔したが、もう遅かった。
「白河の清き流れに住みかねて、元の田沼の濁り恋しき……か」
日本の下水処理能力の高さに嘆息しながら、俺は清い妻の待つ綺麗なマイホームへと足取り重く、今日も帰っていくしかなかった。