第96話 ギルベルトとの出会い
5月になった。授業はそこそこ面白いけど難しく、必修授業の座学は必死に予習・復習して何とか乗り切った。分からないことはエレオノーラやドロテーたちに遠慮なく聞いている。無属性魔法は相変わらず面白くて、私も短距離なら瞬間移動できる魔法を習得している。すっごく魔力を使うけどね。
剣術の授業では相変わらずフリッツやホルガーがからんでくるけど、ゲラルト先生がしっかりフォローしてくれているので、こっちに被害は少ない。なんでもゲラルト先生がクルーゲの当主に手紙を出したらしく、ある時を境にフリッツが私に絡むことが少なくなった。相変わらずジークやホルガーがうるさいけどね。
他のゲームの登場人物とは接点がない。メインキャラのライムントとは一個も授業がかぶっていないし、他の人も同じ感じだ。やっぱり四大魔法の授業を一つも取っていないことがいいほうに作用していると思う。兄やホルストともクラスが違うので関わらないけど、私の学生生活は今のところ順調と言える。
そして、この連休は、予定通りエレオノーラの実家の闇魔退治に向かうことになった。公爵家の護衛の人たちは緊張感のある顔をしているし、エレオノーラ自身も身長ほどもある豪華な長杖を持っていて、戦闘準備万端って感じだ。
「実は、領内に闇魔の姿が確認されたそうなの。領民や戦士たちにかなりの被害が出ています。うちの精鋭も探しているのですが、なかなか見つからなくて。大戦が近い予兆かもしれませんので、領内をしらみつぶしに調べて討伐しようという話になったんです」
仮にも公爵家なんだから、動員できる兵は多いはずだが、闇魔と戦える人材と言うのは限られてる。被害のあった地域を絞り込んで闇魔の潜伏先はかなり絞られてきているそうだ。
「でも私なんかが討伐に参加していいのかなぁ。あ、やっぱり学園の生徒にはそれなりの信頼があるとか?」
エレオノーラは首を振った。
「たしかに人材は足りないけど、学園の生徒にそこまでの信頼はないわ。卒業生でも、魔物討伐には戦力にならないって苦情が来てるみたいだし。ダクマーが今回の討伐に参加できるのは、うちとビューロウ家は昔から仲がいいし、前にあなたが闇魔を斬ったことがお父様に伝わってるからね」
なんでも、前回の戦いを見た護衛たちの口からうわさが広がっているらしい。エレオノーラの既知と言うこともあって、私が討伐に加わることは問題ないようだ。
◆◆◆◆
私たちはエレオノーラととともに、王都に続く街道を中心に探索することになった。
「こっちの方向って、夢幻の湖とは逆だよね? 鏡みたいにきれいな湖、見たかったのに・・・」
私の言葉にコルドゥラがあきれたように見つめてきた。
「ダクマー様。観光じゃないのですから、少しは緊張感を持ってください。ビューロウ家とロレーヌ家は昔から親密な付き合いがあるとはいえ、相手は公爵家。失礼があってはいけないのですよ」
気楽な私に、コルドゥラの叱責が飛んできた。私は首をすくめてその忠言を受け止めた。
私の家からは、コルドゥラとメイドのカリーナが同行している。一見戦力にならなそうなカリーナだが、彼女には従軍経験がある。補給や火の確保、食事の用意だったりと、経験を生かして私たちをフォローしてくれているのだ。ラーレはカリーナがいなくなることを嘆いていたけど、しょうがないよね。
そうしてエレオノーラの実家に向かっていたときのこと、通信兵と会話していたエレオノーラが申し訳なさそうに話しかけてきた。
「ダクマー、ごめんなさい。私たち以外にも同行者が来ることになったわ」
同行者が増えることに問題はないはずだ。エレオノーラの言葉に首をかしげる。
「え? 別にいいと思うけど、何か問題ある?」
エレオノーラは申し訳なさそうに私に耳打ちする。
「同行者は、メインキャラの一人なの」
◆◆◆◆
「すまないね。闇魔と戦えるチャンスだと聞いて無理を言って同行させてもらったんだ。こう見えても、風魔法にはちょっと自信がある。探索の技術もあると思うし、足を引っ張ることはないはずだ」
そう言ったのは、上位クラスに在籍する魔術師、ギルベルト・ウィントだ。彼の家は風の魔法で有名なのに加え、父親が魔術団長の職に就いている。ゲームのメインキャラだけあって顔は非常に整っていて、肩まである緑の髪はつややかで、緑の目を優しく細めながら、さわやかな笑顔を浮かべている。まあ、普通にイケメンである。
ここは、学園に行く途中でエレオノーラが手配してくれた宿だ。一度泊っただけだけど、ホントにいい宿なんだよね。ご飯もおいしいし、ベッドもふかふかだ。高位貴族の人でも安心して誘えるだけの豪華さがある。まあ、私たちにはちょっと豪華すぎるって印象があるけどね。
今日はここで一泊することになっていたが、ギルベルト様が私たちに追いついてきて、挨拶をしてくれたのだ。
「えっと、ダクマー・ビューロウです。一応エレオノーラの護衛に雇われました。こっちは同じく護衛のコルドゥラで、私の護衛も兼ねています。こっちはメイドのカリーナで、補給なんかを担当してくれる予定です。こう見えて、我が領で兵站を経験したこともあるので、かなり優秀だと思います」
そう言って私たち3人は頭を下げる。ギルベルトはちょっと意外そうな顔をした後、ほっとしたように答えた。
「いやあ、1学年上のホルスト先輩と話したことがあるから、ビューロウ家と聞いて心配だったんだよ。デニスは穏やかだけど、ホルスト先輩はかなり変わっているし、人の話をあんまり聞かないからな。ダクマーたちは普通に話せそうだから、ちょっと安心したよ」
ホルストはろくなことしないなあ。学業は優秀だけど、言動が私とは違った意味で特殊で、合わない人とは合わないらしい。
「こちらも風魔法で著名なウィント伯爵家の方と同行できて光栄です。どうかよろしくお願いします」
私が一礼すると、コルドゥラとカリーナも続く。その様子を見て、ギルベルトはほっとした様子だった。
「実はうちとビューロウは縁が深い。何代か前の当主は、ビューロウの豪族から養子に来たというしね。これを機会に、交流してくれると嬉しいよ」
ギルベルトは笑顔で微笑む。なんか白い歯が輝いてない? これだからイケメンは!
ちなみに、何代か前にうちから養子に行ったというのはグンターの家のことだ。あの家は貴族ではないが風魔法に本当に優れていて、過去に優秀な風魔法の使い手が当主の娘と結婚したらしい。なんでも、グンターの家は今でも連絡を欠かさないとか。
うちの貴族は魔法使いだから、資質の高さによっては平民でも貴族に取り込まれることがあるんだよね。
「さて、顔合わせが済んだことですし、食事にしましょうか、明日からは探索を開始します。ここの食事は美味しくて有名なんですよ」
エレオノーラの言葉で、私たちは豪勢な食事にありつくことにしたのだった。




