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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第2章 色のない魔法使いは学園で学びを深める
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第93話 目立たないクラスメイト ※ オイゲン視点

※ オイゲン視点


「ビューロウ、調子はどうだ? なんかつらいことがあったら俺に言えよな」


 必修授業が終わったタイミングで、オレはラーレに声をかけた。


「アンタもまめよね。大丈夫よ。厳しいけど、何とか授業についていけてるからね」


 そう言い残して、教室を出ていくラーレを見送る。


 学園に入学した当初は大変だった。何しろ彼女は南の主家であるフランメ家ともめたビューロウ家の子女だ。同じ学年の南の貴族から絡まれそうになったことは一度ではない。


 ロレーヌ家のエーレンフリート様の支援があることが分かって収まりそうになったが、火種はくすぶっていた。エーレンフリート様が卒業した今年はそれが再燃しそうになって、そのたびにオレがかばうようにしている。まあ、ロレーヌ家のエレオノーラ様が入学したことでそれも収まったようだが。


 オレは曽祖父がフランメ家出身で、子爵家だが南での発言権は強い。気づけば中位クラスの中心になっていて、オレが止めるから彼女はあまり絡まれないという側面がある。もっともオレが彼女に話しかけるようになったきっかけは別にあるんだけどな。


「オイゲンもまめね。影姫がいじめられそうだからって、いつも話しかけるなんて。あの子、かわいい顔してるけど成績もいまいちだし、オイゲンが気にするような相手じゃないでしょう? 剣術も強くないし、本当にビューロウ家出身なのかと思うわ」


 同じ南の貴族で幼馴染のフェーベがオレに話しかけてきた。フェーベもフランメ家の薫陶を受けて、ビューロウ家を敵視してる一人だ。ラーレは彼女の弟が上位クラスに入ったことで、南の貴族から下に見られるようになった。それだけ、上位クラスに在籍することのメリットは大きい。当主に選ばれるのにかなり有利になるのだ。


「取るに足りない、か。だが、フランメ家のハイデマリー様は彼女のことにかなり興味があるみたいだぞ。わざわざ会いに来て親し気に話しかけていたのをお前も見ただろう?」


 ハイデマリー様はフランメ家の次期当主になることが確定している。フランメ家としてはビューロウ家を、その家出身のラーレのことを疎んでいるようだが、彼女個人の意見は違うようだ。だがその話を聞いても、フェーベはあきれたような顔をした。


「ビューロウって、先の戦いでは活躍したそうだけど、今はもう落ち目でしょう? 学園にも教師を派遣していないみたいだし、身体強化だってたいしたことない。彼女、剣術では一般の生徒にも負けてるようだし。だいたい、四大属性の授業を取らないって、なんのために学園に来てるのよ。それに闇魔法に特性があるなんて、気味が悪いわ」


 まあ、言いたいことは分かる。貴族は四大魔法の授業を何かしらとっているのが普通だ。地脈を大規模に操作できる土魔法をはじめ、戦闘にも内政にも使える魔法がそろっているからな。オレ達南の貴族はほどんどが火の魔術を専攻している。四大魔法を一切取らない彼女に批判的な生徒がいるのは、理解できる気がする。闇魔法を取っているようだが、闇魔が得意としている魔法だから、イメージも悪いからな。


「だが気づいているか? 集団戦では、彼女に一撃を与えた生徒はいない。それこそ、上位クラスとの模擬戦でもな。一撃をもらう前に降参はするがな。あの足運びや位置取りは、魔術師として学ぶことが多いんじゃないか?」 


 フェーベは一瞬真顔になって、呼吸を止める。だが取り繕うように下を向くと、それでもラーレへの批判を止めなかった。


「でも遠距離攻撃を使えない魔法使いに何ができるのよ。あの腕輪もイヤリングも全然似合ってないしね」


 本格的にラーレのことを嫌っているようだ。だが彼女のように、ビューロウ家を嫌う南の貴族は多い。ビューロウ家の今の当主が、フランメ家の炎の巫女と駆け落ちのように結ばれたせいだ。炎の巫女はフランメ家にとって、いや南の貴族全体にとって特別な存在だ。その彼女を強引に娶ったビューロウ家の印象は今でもかなり悪い。宴会などでビューロウの悪口を言い合うのが、今でも恒例になっている。


「腕輪はともかく、イヤリングはフランメ家で使われていたものだぞ。うちで取れたルビーを使ってるし、おそらく彼女の祖母が使っていたものを譲り受けたんじゃないか? 少なくともビューロウの当主は、彼女を尊重しているように見える。仲良くするかはともかく、注意を払うべき相手だと思うぞ」


 オレはそう言って彼女をかばうが、フェーベの怒りに火を注いだようだった。


「なによ! あの女の弟も上位クラスで偉そうにしているって様子だし、あの女は落ちこぼれなのよ。成績もひどいしね。弟に追い越されるような存在、私たちもフランメ家も気にすることはないわ」


 頑なだよな。まあ、弟の態度を見ると、彼女が領内で疎まれているのは間違いないようだ。だが領地の有力者と当主の意見が食い違うことはよくあることだし、両親が後継に選ばれることも決まっていないようだ。


 ビューロウの当主は曲者だ。魔法はすさまじいし、頭も切れる。その当主に見込まれているラーレを無視していいとは思えない。


「まあフェーベの気持ちは分かるよ。だが、ビューロウ家は『武の三大貴族』の一つだし、彼女の回避技術は鮮やかだ。オレはクルーゲ流を学んでいるからよくわかる。下らん感情で、彼女を孤立させるのは避けてくれよ。次期当主のハイデマリー様に近い立場になる可能性もある。今のうちに恩をしっかり売っておくべきだと思うぞ。彼女は、恩を仇で返す様なタイプではないからな」


 フェーベはそっぽを向いたまま答えた。


「わかってるわよ。白黒のあの子は、あれで人気があるみたいだし、ハイデマリー様と敵対するつもりはないわ。あなたの不利になるようなことはしない。無視とかいじめとかは、私にとっても不快だしね。でも、私は必要以上に彼女に関わる気はない。そのことは理解してよね」


 不機嫌に去っていく彼女の後姿を見つめた。あれでいて、彼女がラーレを守るように積極的に動いてくれているんだから、愚痴くらいは許してやりたい。


 だが、今の評価なんて全くあてにならないと思うがな。ラーレには確かな技術がある。それは決して侮ってはいけないものなんだから。

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