第83話 3人の姫
「ダクマー! 大丈夫!?」
「すすみません! 私の家族が、なんか失礼をしたみたいで!」
私が槍の訓練生たちと談笑していると、エレオノーラとラーレが飛び込んできた。私はちょうど笑顔でザシャ先輩と話していたところなので、急な乱入者に笑顔が固まってしまった。
「え? あなた、拉致されたんじゃなかったの?」
「なんで和やかに談笑してるのよ! 話を聞いて急いできたんだからね!」
なんか、2人ともすんごい心配しているみたいだけど・・・。
フェリクス先輩が苦笑した。
「ロレーヌの妖精姫とビューロウの影姫が揃いも揃って・・・。ダクマーにはこっちの修行に付き合ってもらっただけだ。決して拉致したわけじゃないからな」
妖精姫と影姫ってなんだ!? 新しい黒歴史なの? 姫が連呼されているみたいじゃない!
私が固まっていると、ザシャ先輩がそっと耳打ちしてくれた。
「妖精姫ってのは、ロレーヌ公爵令嬢のあだ名だな。なんでも、国王陛下が幼い彼女のことを『妖精みたいじゃな』とか言ったのをきっかけにつけられたらしい。影姫ってのはお前の従姉のあだ名だ。影みたいにクラスで目立たないけど、ひそかに人気があるからつけられたらしいぜ」
ぐおおおお! エレオノーラはともかくラーレにまでそんなあだ名があるなんて! あ、でもこれでラーレとは黒歴史仲間だね! 姫なんてあだ名をつけられたのは私だけじゃなかったんだ!
私が密かに笑いをこらえていると、ラーレがものすごい表情でこちらに近づいてきた。
あ、これヤバイ。
「あんたは! 人を心配させるだけさせて! もう! 無事ならすぐに知らせなさい! 本当に心配したんだからね!」
そう言って、私に説教してきた。こうなったら、ラーレってばしつこいんだよね。
◆◆◆◆
「なるほど。フェリクス先輩もダクマー様のために動いてくれたんですね」
「ありがとうございます。そしてご迷惑をおかけして申し訳ありません」
エレオノーラが納得した様子で、ラーレは深々と頭を下げた。
「いや、こちらもいい訓練になった。特に地上での戦い方には学ぶことが多かったしな。結局、こちらの攻撃を当てることができなかったからな」
フェリクス先輩がちょっと苦笑している。
まあでも、この人の本領は、騎乗しての戦いだからね。不安定な騎乗での戦いでも正確な突きを放てるなら、それはもう脅威と言っても過言じゃないと思う、あの槍を使った魔法も、かなりの精度があったしね。
「でもエレオノーラ様は本当にビューロウ家と仲がよろしいのですね。まさかこんなところまで駆けつけてくるとは思いませんでしたわ」
あのモデルのような女子生徒が面食らったようにつぶやいた。
「ダクマー様は私の大事な側近ですからね。魔物に襲われたところを剣術で助けられたこともあるんですよ。ビルギット様も、彼女の戦いぶりには参考になることが多いと思いますわ」
エレオノーラの言葉に、ちょっと照れる。あんまり手放しでほめられたことなんてないんだよね。おじい様はいつも説教ばっかりだし。
「なるほど。剣のビューロウ家が復活したということですね。デニスを見ていたらビューロウの身体強化は終わったのかと思いましたが、ダクマー様に受け継がれていたのですね」
その言い方に少しカチンとくる。剣は使えないけど、デニスだってすごいんだからね! そのうち絶対、おじい様と同じような魔法使いになるんだから!
「デニスの本領は剣じゃないですからね。魔法を使わせたら、右に出る人なんてほとんどいないんですから! 魔法の種類と精度については、私たち孫の中で一番だと思いますよ」
私の言葉に興味を引かれたのはフェリクス先輩だった。
「ほう。そのデニスってやつはホルストよりも上なのか。それは確かにすごいな」
え? ホルストのことを知ってるの?
「お前にあってみようと思ったのはホルストがきっかけなんだ。言動はあれだが、ホルストの奴はすごいと思ってる。魔術の腕はかなりのものだからな。ビューロウで魔術が一番うまいのは奴だと思っていたが、それを上回るやつがいるなんてな」
詳しく聞いてみると、フェリクス先輩はホルストと同じクラスに在籍しているらしい。そこで自分よりも剣術が上手い人に私の名前を上げたらしく、興味を持ってくれたようだ。
「そのホルスト先輩という男は、フェリクス様が認めるほどの腕なのですか?」
審判役をしてくれた女生徒――ビルギットさんは驚きながらそう話す。
「ああ。短杖のあつかいはもちろん、古式魔法もよく使う。剣術だって決して侮れるものじゃない。なんせ、オレがクラスで唯一落とせなかったのはあいつだからな。ホルストに認められたのなら、デニスとやらの動きにも期待できるな」
ビルギットさんは遠くを見るような目をした。
「王子に良いように使われる軟弱な男とばかり思っていましたが、そう言うわけじゃないんですね。ちょっと注意してみるようにします」
うん。デニス弱い説を覆せたようで何よりだ。
笑顔で頷く私に、フェリクス先輩から忠告の言葉が飛んだ。
「今回の件でお前を侮る生徒は少なくなったと思う。だが、あまり気を抜くなよ。さっき話題に出た王孫のライムント様には注意しろ。俺達とは考え方が根本から違うからな。そして、その取り巻きをしているクルーゲ家のフリッツにも気を付けるんだ。あいつも俺達とは違う。噂をうのみにしてお前にちょっかいを掛けるかもしれん。ロレーヌの言うことをよく聞いて、十分に注意するんだぞ」




