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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第1章 色のない魔法使いは領地ですくすくと成長する
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第8話 グスタフ

「へえ、やっぱりこっちの道場は豪勢だな。当主しか使えないのはホントもったいないぜ」


 そう言って知らない男が道場に入ってきた。黒髪を短く切りそろえていて無精ひげが生えている。全体的に粗野な雰囲気がある。きれいな道着を来ているけど、なんか小汚いんだよね。


 私とラーレが毎朝の訓練をしているときの出来事だった。


「こ、ここは当主が許可を出した人しか入れない場所です。誰だか知らないけど、すぐに出て行って!」


 ラーレが私の前に立って両手を広げながら告げる。どうやら私を身を挺して守ってくれているようだ。


 男は私たちを一瞥すると、ふんと鼻を鳴らした。


「まあ聞けや。俺はグスタフ。平民だが剣術を極めたくてこの領都に来たんだ。だけど師範代は弱いのに偉そうだし、当主の息子が2人いるが大したことない。もうこの領から出ていこうかと思って、最後に挨拶しにきたんだよ。お嬢ちゃんたちの邪魔をするつもりはねぇよ」


 そういってグスタフは道場に寝転んだ。「当主に挨拶したらすぐでていくからよ」というと、頭に手を当てて枕にする。


 私はしばらくグスタフを観察した。うん。あいつにあんまり敵意はないみたいだ。なんか本気で私たちを嫌ってる人のような、悪意のようなものを感じないからね。


「グスタフは邪魔しないみたいだから、私たちは練習を続けよ?」


 私がラーレに言うと、彼女は驚いたように目を見開いた。そしてグスタフと私を見比べると、「い、いいのかな」と言って戸惑いながらおろおろしていたが、しばらくして魔法板の操作を開始した。


 私は素振りを再開した。部外者がいるのは気になるけど、もう出ていくという話だし、まあ問題はないだろう。グスタフは不法侵入者だし、礼儀がなってない奴だと思うけど、少なくとも私たちに敵意はないらしい。


 最初は興味なさそうになんとなく私たちを見ていたグスタフだが、私の素振りを見て、怪訝な顔をした。そしてしばらく見つめると、私に食いつくように質問し出した。


「お嬢ちゃん、なんだその素振りは? 腕だけじゃなく、全身で剣を振ってるな。しかも、無駄がない。まさに剣と体が一体となって切る感じに見える。剣ってやつは、腕で振るもんだと思ってたが、お嬢ちゃんのは大分違うようだな。それが、ここの本当の剣か? 確かに聞いたことがある。ビューロウには両手剣の型があるってな。いやでも、当主もその息子も、俺達と同じような剣を使っていたはずだ」


 グスタフはぶつぶつと言いだした。うーん、ちょっとうるさいなぁ。


「おじさん、邪魔しないんじゃなかったの?」


 私が顔をしかめて言うと、グスタフはショックを受けたような顔になった。


「俺はまだ19だ! おじさんって言われるような年じゃねえよ! てかお前、当主の孫だろう? そんなわけのわかんない剣つかってもいいのかよ!」


 あ? 今なんて言った!?


「わけわかんない剣とか言うな! これは由緒正しい示巌流の剣だ!」


 私が叫ぶと、グスタフは驚いたように声を上げる。


「ジガンリュウとか聞いたことねぇよ! お前の剣、当主の剣と全然違うじゃねえか!」


 グスタフが思わずと言った感じで叫んだ。もう、修行の邪魔なんだけど! ラーレもおろおろとしながら私とグスタフを見てるじゃない!


 その時、おじい様が道場に入ってきた。おじい様はグスタフをぎろりと睨むと、冷たい声で問いただした。


「お前はグスタフだな。この領の南西の農村から来たと聞いている。なぜおまえがここにおるのだ」


 冷たく聞かれたのに、グスタフはどこか嬉しそうだ。笑いながら答えた。


「平民の俺が、当主様直々に覚えてもらえるとは光栄の極みだね。いや俺は、全国を回って武者修行をしてきたんでさぁ。北のメレンドルフは確かに強いが、槍は性に合わねえ。クルーゲは守りがすごいが、魔術師だよりの戦術には興味がない。剣だけで戦うならやっぱりビューロウだと思って戻ってきたが、今の師範代は正直期待はずれでね。だからまた旅に出ようかと思ったが、世話になったのは確かだから、ご当主様に挨拶だけしておこうかと思ってな」


 グスタフの言葉におじい様は苦い顔をした。グスタフはあれでかなりの素質があるようだ。その彼が抜けるのは痛手なのだろう。


「そうか。お前がそう言うなら仕方ないだろう。恩など気にすることはない。うちは来るもの拒まず、去る者追わずだ。どこへなりとも行くがいい」


 おじい様はそう言うと、道場の入り口を指す。しかしグスタフは納得していないような表情だ。


「ここまで言われて何も反応しないのかよ! ビューロウは狼なんだろ? 俺程度の軽口なら、叩き潰しておわりなんじゃねえのか!」


 グスタフが怒りに顔を染めた。


 おじい様は私たちを一瞥すると、溜息を吐く。そしてグスタフに向かって静かな声で話しかけた。


「本来なら貴様のような無礼者は囲んで捕らえて叩き出すんじゃがな。ここまでたどり着いた腕と度胸に免じて許してやろう。いいだろう。ワシの戦い方を見せてやる。試合場に立つがいい」


 おじい様が言い放つと、グスタフは嬉しそうに笑いだした。


「ははっ! 言ってみるもんだな。ビューロウの当主様と戦えるなんて思っても見なかったぜ!」


 おじい様が試合場に移動する。肩越しに私たちを振り返ると、ラーレに向かって命令した。


「道場の扉を閉めなさい。観客はここにいる2人だけだ。ルールは剣あり魔法ありの実戦形式じゃ。それでよかったら相手してやる」

 


◆◆◆◆


 2人は10歩ほど離れた位置でお互いに木刀を構える。おじい様は珍しいことに、両手で持つ用の長い木刀を使っている。


「おじい様、大丈夫かな。あのグスタフってやつに負けたりしないよね」


 不安がるラーレに、私はグスタフの印象を伝えることにした。


「あのグスタフってやつ、強いよ。この道場に来るには見張りを何とかしないといけないのに、騒ぎにもならずにこの場所に辿り着いている。おそらく、ビューロウの格闘術を相当習得してると思う。あれには、そう言う隠形の技もあるからね」


 冷静な私の言葉を聞いて、ラーレは顔を青くする。グスタフは木刀を構えているけど、格闘術も相当鍛えこんでいるように見えた。


「ラーレ、始まりの合図を」


 おじい様が剣をグスタフに突き付けたまま言う。ラーレはおろおろしていたが、震えたまま合図をした。


「え? え? は、はじめ」


 なんとも気が抜ける声だった。でもグスタフはその声を聴いてすぐに飛び出した。


「しゃああああああああ!」


 鋭い踏み込みだった。グスタフが剣を使えるのは本当なんだろう。一瞬で水の魔力を全身に纏わせると、鋭く振り下ろした。


「おおおおおおおおお!」


 おじい様も負けていない。全身に身体強化の魔力を展開し、剣を構えてグスタフの一撃を受け止めた。あれは、火の魔力を纏っているのか! 火の魔力を身体強化に使うと自分を傷つけちゃうって言われているのに、そんな素振りは全く見えない。


 そしてそのまま、両者は剣を何度も打ち合わせた。


 一見すると、おじい様はグスタフ以上の魔力を纏っているように見える。でも水は火に強く、理論上はグスタフの魔力でも互角に戦えるはずだ。なのに、剣を交えるたびに明らかにおじい様の方が押していた。グスタフの一撃をおじい様は完ぺきに受け止め、反対におじい様の一撃を受けるたび、グスタフは明らかに押されていた。


 おじい様の何度目かの剣を受け止めきれず、グスタフは大きく下がった。


「くそっ! なんでだ! 水の魔力は火に強いはずじゃないのかよ! なんで俺だけ下がるんだ!」

「ワシよりお主の魔力が強いだと? 面白い冗談だな」


 おじい様はニヤリと笑った。グスタフはカッとして斬りかかるが、おじい様は涼しい顔で斬撃をさばいていた。その防御術に、グスタフは拳を使うタイミングもないみたいだった。


「す、すごい。これがおじい様の実力・・・」


 驚くラーレとは対照的に、私は冷静に指摘する。


「まあおじい様は魔力はすごいからね。最初にグスタフが魔法を全身に展開した時点で、こうなることは読めていたよ」


 ラーレはハッとして振り返る。


「おじい様みたいなタイプと戦うなら、決して打ち合っちゃいけないんだ。グスタフみたいに、魔力の差で簡単に押し切られちゃうからね」


 しかしラーレは疑問を口にする。


「でも、グスタフは水の魔法でおじい様の火の魔力とは相性がいいはずだよ。あいつ、平民なのに魔力量は結構あるみたいだし、身体強化の差はそれほどじゃないように見えるけど、何でグスタフが一方的に押されるの?」


 いや、おじい様はおそらく・・・、そして私は気づく。おじい様が何のためにこの試合を受けたのか。私とラーレに戦い方を見せるためだ。


「見て。おじい様の体の周りの魔力が紫になっている。おじい様は火の魔力だけを纏っているんじゃない。目に見えない魔力・・・・・水の魔力を無属性に近づけて、体の中を強化しているんだ!」


 今、私は魔術師としての奥義を見ている気がする。おじい様は薄い水色の魔法で体の中を強化して、濃い火の魔力で体を外側から強化しているのだ。2つの属性を同時に展開するなんて、普通の魔法使いには絶対にできないよ!


 正直、剣術の腕ではグスタフのほうがおじい様より上だと感じる。だけど、魔法の扱い方に差がありすぎる。グスタフが10の魔力で強化しているところを、おじい様は30の魔力で強化しているのだ。これじゃあ、グスタフに勝ち目があるはずはない。


「くそがああああああ!」


 グスタフがやけくそのようにおじい様に斬りかかる。おじい様はその一撃を静かに躱す。ビューロウ家に伝わる、あの足運びだ。そしてグスタフと位置を入れ替えると、右腕を突き出した。


「炎よ!」


 速い、と正直に思った。木刀から手を放し、相手にかざすと同時に魔法が発動している。短杖を使ってもそんなことできないのに! 魔法ってこんなに早く発動できるものなのか。今私たちが必死で制御の訓練をしているのも、これをできるようになってほしいからか。


「うおおおおお!」


 グスタフに炎が当たる。炎は爆発してグスタフを吹き飛ばし、壁に激突させた。威力もすごいけど、すさまじいのは魔力構築の速さだ。あのグスタフが全く反応できなかった。でもこれ、剣術あんまり関係ないよね。


 おじい様がグスタフに近づき、その顔に木刀を突きつける。グスタフは悔しそうに切っ先を見つめると、剣を落として両手を上げた。

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