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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第2章 色のない魔法使いは学園で学びを深める
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第74話 鎧を斬る

 店主は絶句して、二つに分かれた鎧を見る。


「なんて切り口だ。歪みが全くない。すさまじい技量だぜ」


 茫然とした様子でいろいろな角度から切り口を確認する。そんな店主を見て、公爵家の護衛の一人が苦笑しながら話す。


「私たちは見たんだ。ダクマー様が、闇魔を魔力障壁ごと叩き切るのをな。ダクマー様なら、このくらいのことは簡単にできるだろうさ」


 普段褒められていないので、ちょっと照れる。


「前にホルストとか言うガキが来たときは、置いてある剣なんか目もくれずに護衛になれるやつがいないか聞いてきたんだ。剣の宗家のくせにそんなこと聞くなんてな。それを見て、ビューロウ家はもうだめかと思ったんだが・・・」


 店主は戸惑っている様子だ。


「ホルストは私のような剣士にも対抗できるように護衛を集めてるって話だよ。言っておくけど、あいつ自身はかなり剣を使えるからね。簡単に斬れるような奴じゃないし、ビューロウがそこまで衰えたわけじゃない」


 ちょっとあれだけど、一応ホルストをフォローしておく。


 こちら側の面々はと言うと、コルドゥラは腕を組んで自信満々な顔をしてるし、エレオノーラの使用人や護衛たちは感動した様子だ。「すごいものを見た」なんて言葉も聞こえてくる。 


 私は急に恥ずかしくなった。そして思い出した。私、お金ないんだった。なんか刀を買うのが当たり前の流れになっているけど。


 真っ二つになった鎧はもちろん、使った剣も魔力を通したせいでぼろぼろになっている。折れなかったのは多分、運がよかったからだ。でもこのままじゃあ、すぐに折れてしまうだろう。


 思わず冷や汗が流れた。とりあえず、私は咳払いをしてごまかすことにした。


「ま、まあこんなところね。私にかかれば、この程度のことは簡単よ。私が武器をお願いすることはないと思うけど、せいぜい北のランドルフや西のクルーゲに良い武器を作るといいわ」


 ちょっと混乱した頭で適当なことを言う。私は頼めない。だって、お金がないからね。


 今のところ自前の剣で切れないものはないし、いい剣だから、一度や二度魔力を通した程度で壊れることはないはずだ。うん、大丈夫。


「じゃあ、私、先に出ているわ」


 私はそのまま店の外に向かって身をひるがえす。お金がないのがばれないように。


 ん? 叩き切った鎧のお金は請求されないよね? 剣ももう折れそうだけど、やばいかな? 店主が斬れって言ったから大丈夫だよね?


「ま、待ってくれ。ビューロウを馬鹿にしたのは謝る。前に来たガキがしつこかったからつい、な。言い過ぎた。許してくれ」


 私は店主を一瞥すると、そのまま立ち去ることにする。ここまで派手に動いたら、冷やかしなのがばれて恥ずかしいじゃないか! コルドゥラは慌てて私の後に続く。


「お金ないのに鎧を斬ったの、やっぱりまずかったかな。多分、あの剣もダメにしちゃったし」


 そっとコルドゥラに尋ねると、彼女はあきれた顔で返事をしてくれた。


「いえ、挑発したのは店主ですし、気にしなくてもいいと思いますよ。斬っちゃだめなら、鎧を出さなきゃいいんです。ダクマー様が気にされることではありません」


 コルドゥラはそう言ってくれたけど、弁償を迫られたら目も当てられない。なにせ、私はお小遣いがないから使えるお金は限られているし、仕事の当てもない。私はそそくさと鍛冶屋を後にすることにした。



※ エレオノーラ視点


 ダクマーが立ち去った鍛冶屋では、店主が冷や汗を流していた。


「鎧を真っ二つたぁ、すさまじいもんを見た。鎧を砕ける当主とやらもすごいが、叩き切る方がはるかに難しい。剣の技術と、武器を強化する魔力、どちらかが欠けていたら剣が折れちまうだろう。いや、魔力で体も強化してるのか? そんな素振り、全然見えなかったぜ」


 ぶつぶつとつぶやく店主に、私は不機嫌な顔で注意した。


「店主、いくらビューロウ家にいけ好かない男がいたからと言って、あの態度はないですわ。ダクマーさん、かなり怒っていらしてよ」


 私がそう指摘する。店主は肩を落として言う。


「そうだよな。いくら前に来たガキに腹が立ったからと言って、当主までけなす必要はなかった。あの子、許してくれねーだろうな」


 おそらくダクマーは、この時代で最も優れた戦士の一人だろう。そんな剣士の武器を打てるのは、鍛冶屋としてこの上ない名誉だ。なのに、つまらない意地のせいでその機会は失われてしまった。店主はさすがに落ち込んでしまったようだ。


「ここまで怒らせたら、簡単な謝罪では無理でしょう。今度はあなた自身の“腕”を見せるしか、方法はないのではなくて?」


 私の言葉に店主は思わず見返した。


「まずはあの子にきちんと謝ること。ダクマー様は細かいことは気にしない性格ですので、真摯な態度で謝ればきっと許してくれますわ。そして、私からの依頼です。彼女の刀を打ってほしいの。材料や経費は私が出します。刀の大きさや長さも私が知っているわ。あなたが申し訳ないと思うのなら、彼女にふさわしい一振りを作ってあげてくださいな。あの子、このままだとすぐに武器をダメにしそうで、危なっかしいのよ」


 店主はその言葉にぽかんとする。そんな彼に、ダクマーが使った剣を見せる。そして軽く剣を振ると、剣はそのまま折れてしまった。


 店主は驚きに目を見開く。そして、私の顔を見て不敵に笑った。


「おうよ! あのお嬢ちゃんにふさわしい武器を作れるのはオレしかいねえ。この世に2つとない刀を、つくってやろうじゃないか!」


 闘志を燃やす店主を、私は微笑みながら見つめていた。



※ ダクマー視点


 私とコルドゥラは、店の外でエレオノーラたちを待った。


「勢いで出てきちゃったけど、エレオノーラ様が来ないとどこにも行けないね」


 コルドゥラは溜息を吐く。「剣の腕はものすごいのに、考えなしなんですよね」と言って、なぜか気合を入れなおした様子だ。私が頼りないからだよね。ホント、ごめんね。


「まあ、今回は相手が失礼なことをしたので大丈夫でしょう。それよりも、明日からの授業で足りないものはありませんか?」


 コルドゥラの心配事を聞いて、慌てて手帳を見返した。


「えっと、筆記用具はあるし、ノートもある。運動用の服もあるから…、あ! 靴ひもの予備がなくなってるんだった」


 忘れ物がないかを確認しているところで、エレオノーラが歩いてきた。


「ダクマー様、申し訳ありません。店主には厳しく言っておきました。後日必ず謝罪させますので、今日のところはこれで許してあげてください。私の方でも調べが足りなかったわ。本当にごめんなさいね」


 何度も謝るエレオノーラに恐縮する。公爵令嬢って、簡単に謝っちゃいけないんじゃなかったっけ? いくら前世がアキちゃんだからって、これ以上謝らせてはいけない。


「いや、私もちょっと短気だったし、エレオノーラ様が謝ることじゃないよ。それに、ホルストが迷惑をかけたのは間違いないみたいだしね。こちらの方こそごめんなさい」


 私は謝り返す。お互いに謝り合って、今回はチャラと言うことになった。いやホント、申し訳ない。


「それでダクマー様は、明日からの授業で足りないものはありませんの?」

「ええっと、靴紐と、あとは・・・・」


 私が買いたいものを伝えると、エレオノーラは売っている店に案内してくれた。なんか、エレオノーラには借りばかり増えていくなぁ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「えっと、筆記用具はあるし、ノートもある。運動用の服もあるから…、あ! 靴ひもの予備がなくなってるんだった」 靴紐って、学生時代に切れたことないなー。まあ、予備はある方が安心だね。
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