第72話 学園に到着
その日の翌日に、エレオノーラの馬車が追いついてきた。それまで、エレオノーラと簡単なお茶会をして過ごした。私は昨日の出来事を話したかったのに、誰も取り合ってくれない。ちょっと寂しいんだけど。
ラーレは雲の上の存在の公爵令嬢が一緒にいて肩身の狭そうな顔をしていたけどね。エレオノーラは王都のこと、学園のことを色々教えてくれた。うちは田舎で知らないことばかりだったので助かった。
でも彼女は上位のクラスになるだろうけど、私はラーレと同じ中位クラスになると思う。同じクラスなら助け合ったりできそうだけど、それはちょっと厳しそうだ。
「上級クラスなら他のクラスに影響を与えることができると思うから、何かあったら遠慮なく言ってくださいね」
「うん、じゃない、はい。私は剣しかできませんが、役に立てそうなときは声をかけてくださいね」
下のクラスでは、上級クラスの生徒と知り合っていることがステータスになるらしい。なにかあったら遠慮なくロレーヌ公爵家の名前を使ってほしいと、エレオノーラは言ってくれた。
「それに、ヒロインと仲良くしていた方が、悪役令嬢としては安心だからね。私の婚約者候補はあなたのタイプじゃなさそうだけど、もし万が一好きになりそうなら私に教えてね。お互いに生き残れそうな方法を考えるから」
そっと耳元でそうささやいた。でも、アキちゃんを捨てるようなら、そんな男、私はごめんだな。
エレオノーラと楽しく会話しながら、馬車は進む。なぜか私だけ公爵家の馬車に招待され、エレオノーラと話しながら学園に向かっている。
そうしてしばらく住むと、窓から高い建物――王城が見えてきた。
「ふええええ、あれが王城かぁ。ホントに大きな建物なんだね」
「私はたまに行くことがあるけど、中も豪華ですごいのよ。働いている人もみんな丁寧だし、ちょっとお年を召しているけど、王様も王妃様も素敵な人なの」
ここで婚約者の名前がでないことに、エレオノーラの気持ちが表れている気がする。確かにゲームだと、俺様でちょっといけ好かない感じがしたんだよね。まあ私は、誰一人攻略できなかったんだけどね。
「王城までくれば、学園はすぐそこよ。ダクマー様は王都は初めてのようだけど、まずは学園に行って手続きをしましょう。入学式まではまだ何日かあるし。学園の中を案内するのはそのあとでいいかと思うんだけど」
エレオノーラの言葉にこくこくと頷く。学園かぁ。どんなところだろうなぁ。
◆◆◆◆
街路樹が並ぶ長い小道を抜けると、大きな屋敷が見えてきた。そこが、私たちが3年の時を過ごす「学園」の本棟らしい。建物はうちの4倍くらいの大きさがあって、校庭はすさまじい広さがあった。本棟のとなりにも屋敷がいくつかあって、そこは教員棟だったり、研究棟立ったりするらしい。
「王城から3時間ほどで、こんな広大な学校が広がってるなんて、想像だにしなかったよ! なんかコロッセオみたいな建物もあるし!」
私はこの世界の貴族と言うやつをちょっと舐めてたのかもしれない。学園ってやつがこんなに広大だとは思わなかった。学校っていうか、これもう一つの町だよね?
馬車は本棟の近くに停車した。私たちは馬車を降りると、使用人を連れて入口に向かった。ラーレも私についてきてくれるようだった。
「やっぱりここにあるのは桜じゃないんだね」
玄関までの道にある街路樹を見て、私は思わずエレオノーラに尋ねた。ゲームのタイトルに「桜吹雪」ってあるから、学園にも桜があることを連想したけど、やっぱり桜はあそこにしかないらしい。
「そうね。桜はあの寺院にあるもの以外は、一本たりとも育たなかったらしいわ。アルプトラウム島にはまだ桜があるらしいけど、闇魔がいるから誰も見た人はいないのよ。それよりどう? ここが学園よ。考えられないくらい、大きな敷地でしょう? お店もあったりして、生活必需品は全部ここで手に入るのよ」
学園っていうと前世の学校をイメージしてたけど、建物はいくつもあるし、普段授業を受ける本棟の規模はうちとは段違いだ。何百人と入れそうなくらい大きい。
「私たち貴族はこの学園で一般教養と闇魔と戦う術をみにつけるの。森や川なんかもあって、平地以外での戦いも学べるみたいよ。この国では貴族は全員が魔法使いだからね。ここで魔術の基本的な使い方と戦闘技術を学ぶのよ」
私は頷く。特に四属性の魔法には戦闘に有効な魔法がたくさん含まれているので、私のような例外を除いてほとんどの人が1属性以上は使えるとされている。ラーレやアメリーの火とか、デニスの土とか、コルドゥラの水とかね。
「希望すれば、専門性の高い魔法も学べるんのよね?」
「ええ。学園には必修科目と専門科目があって、それぞれ自由に選べるの。必修科目は法律や歴史、算術やマナーなんかね。専門は今言ったような属性魔法とか、外国語や剣術、槍術なんかもあったと思う。まあ詳しくは最初の授業の時に詳しく聞けるようだけど」
本棟の受付に行くと、受付嬢に待合室まで案内され、授業についての簡単な説明があった。エレオノーラとは別の部屋に通されたので、ちょっと不安になる。
授業は基本的に、午前中は必修科目、午後からは選択科目があるらしかった。まあ特別な授業は午前と午後がひっくり返ったり、1日中一つの授業をすることもあるらしいけどね。
入学式までは少し時間がある。これは王都から遠い領地に住む人に配慮したもので、私たちも日数に余裕をもって出かけてきた。学生は寮みたいなのがあって、そこに使用人と暮らす人も多いらしい。王都の屋敷から通いの人も多いようだけどね。
受付では書類とともに、寮のカギも渡された。私は「青の206」と書かれたカギをもらった。どうやら、これが寮を示すらしかった。
「私は『青の201』ね。色は建物の名前、番号が部屋を指すらしいわ。ダクマー様とは結構近いかもね」
エレオノーラの言葉を聞きながらとりあえず私たちは寮に向かうことにした。寮は10棟あって、東西南北に男女2つずつと平民用2つに分かれているらしい。庭には厩舎みたいなのもあって、騎獣を飼うこともできるらしい。結構大きな建物だけど、騎獣と共に暮らす北の寮にはこれより大きな建物があって、牧場みたいになっているところもあるらしい。
私やエレオノーラは東を表す青の寮があてがわれた。ラーレは「青の202」の部屋に住んでいるらしい。
荷物もあるので、寮まではここに来るまで使った馬車で向かう。ちなみに建物同士の移動は馬車が通っていて、その馬車に乗り合わせて移動するらしい。寮から本棟までは大きめの馬車が何本も出ていて行き来するみたいだ。ちょっと前世の電車を思い出した。
寮は3階建ての大きな建物で、エレオノーラは公爵令嬢らしくかなり広い部屋だった。私の206号室は前世で言う3LDKで、自分の部屋だけでなく、コルドゥラとカリーナの部屋もあるようだ。
「へぇ~、結構いい部屋が用意されているのね」
「あ、私たちの部屋もあるんですね。やっぱり貴族にはそれなりに広い部屋が用意されているんですね。まあ、平民用の寮はかなり狭いみたいですけど。ご当主様がダクマー様の部屋を直々に用意したそうですよ」
正直おじい様は私に厳しいのか甘いのかよく分からないけど、ここは感謝しておこう。まあ平民用の家は2人一部屋だったりするらしいし、従者もいないからその分部屋が狭かったりするらしい。
私たちの部屋はかなり広いように感じるけど、貴族の中にはこれでも狭いってクレームを上げる学生もいるらしいから、難しいところだよね。
荷物を置いた私にコルドゥラが声をかけてきた。
「エレオノーラ様が部屋に来てほしいそうです。この王都を案内してくれるそうですよ。入学式が始まるまで、周りのお店とかを調べておきましょう」




