第6話 帰ってきたビューロウの魂?
2つになった木刀の先が天井から回転しながら落ちてくる。
「やった・・・」
私はつぶやいた。デニスは驚いたような顔で、切り落とされた木刀の先を見つめていた。
「それまで」
おじい様が試合終了を告げた。デニスは荒い息を吐きながら、半分になった自分の木刀を見返した。木刀は半ばで斬り裂かれていて、切り口はまるで鋭利な刃物で切られたようだった。
おじい様が斬り飛ばされた木刀の先の部分を拾う。試合を見ていたホルストやアメリーも、おじい様の周りに集まった。そして驚愕したような顔で、斬り飛ばされた木刀の先をを見ていた。
「木刀・・・でしたわよね? まるで鋭い刃物を使ったかのよう。なんで、こんなふうに木刀を壊せるんですの?」
アメリーが茫然としてつぶやいた。
おじい様も切り落とされた木刀を見ながら何やら考え込んでいる。
「ダクマーの魔力と木が相性が良いのは分かっておったが、刃のない木刀で斬るとは・・・・。魔力が、刃そのものになったのか? だがこの技は、ビューロウと言うよりもむしろ・・・」
おじい様が言っていることはよくわかんないけど、身体強化の魔力を磨いていけば、この剣だけで十分に戦っていける! 自信を付けた私はおじい様の方に向き直った。
「これが、私の目指す剣です。おじい様はこの剣を認めてくれますか?」
挑発するように言う。おじい様は何やら考え込んでいたが、私の顔を見てニヤリと笑う。
「くっくっく。北で奮闘した戦士の魂が、この地脈に戻ってきたというのか。敵の技からすら技を盗み取ろうとするのは戦士の業よ」
おじい様は含み笑いを漏らした。その笑い声は少しずつ大きくなり、やがて大きな声で笑い出した。ちょっと怖い笑い声だが、私にはその声が悲しく聞こえた。
「え? あ、あの・・・、おじい様、大丈夫です?」
私がおずおずと訪ねると、おじい様は笑いながら答えてくれた。え? なんか泣いてない? 私、そんな変なことした?
「ワシらの代はな。戦い方をいろいろ工夫したのだ。特にワシの兄、ディートヘルムは闇魔からすらも剣技を学ぼうとした。結果は、残念なことになったが、工夫した技はお前の中で息づいておるのだな」
え? おじい様の兄弟なんて知らないんだけど! 私はおろおろして否定しようとするが、そんな私の行動をおじい様が止めた。
「ダクマー、見事だ。お前が使った剣はビューロウの剣の本流とは少し違うかもしれん。だが、ワシは覚えておる。お前のような剣を、ワシの兄が使っておったことをな」
そう言って、おじい様は涙をぬぐう。え? 私の知らないところで話が進んでいるみたいなんだけど!
「よかろう。お前はお前が思う通りにやってみるがいい。おそらく、お前には天才剣士と言われたわが兄の記憶がある。お前はその記憶を頼りに、自分だけの剣を作り上げるのだ!」
そう言うと、おじい様は私たち一人ひとりの顔を見回した。
「ただし! 独自の剣を作り上げるのはダクマーだけだ! 他の者は、ちゃんとビューロウの剣を学んでもらう! ダクマーにはそれと同時に魔力操作の訓練は今まで以上にやるのだぞ! そして、修行の成果はこまめに確認させてもらうからな!」
おじい様はそういうと、そのまま道場を出ていった。あれはきっと、泣き顔をみんなに見られないようにしているんだな。
私は喜びが沸き上がるのを必死で押しとどめた。そっとこぶしを振り上げる。拳が、いや私の全身が震えてきたのが分かった。
「認められた! これで、示巌流の訓練ができる!」
こうして、私は前世の示巌流の剣を磨くことが認められたのだった。




