第57話 ダクマーの秘剣
私とグスタフは5歩ほどの距離を開けて再び対峙した。
グスタフは私の秘剣を警戒して距離を詰めてこない。
「攻めるなら、今がチャンスだね! ちょっと距離が開いてるけどあの秘剣なら!」
私は剣を横に構え、そっと足に魔力を循環させる。
「今度は私から行くよ!」
私は一瞬でグスタフの前に移動すると、鋭い横薙ぎの一撃を放つ!
「くっ、足音がほとんどない! あれは! あの一撃は!」
ホルストが叫ぶ。
そう、この一撃はホルストの木刀を弾き飛ばした一撃だ!
この走・攻一体となった一撃なら、離れた相手も一瞬で斬りつけることができるんだ!
思ったよりもずっとスムーズに秘剣を放つことができた。足音もほとんどなかったし、剣擊も無駄な力なんて入ってなかった。
でも・・・。
「くっ!」
グスタフは、体をそらして私の渾身の一撃を回避した。
「うそでしょう! あの一撃を躱せるのですか!?」
コルドゥラが思わず叫んだ。
グスタフは額の汗を拭うと、ニヤリと笑って見せた。
「いやぁ。今の一撃はやばかった。だが、よけて見せたぜ!」
そう言うと、木刀を横に大きく振るう。 私は剣を引いて何とかその一撃を受け止めるが、枯れ木のように吹き飛ばされてしまった。
「今度はこちらから行くぜ!」
グスタフは木刀を振り回す。
私は下がりながら躱すが、木刀を打ち鳴らすたびに少しずつ追い詰められていく。
「くそっ! このままじゃあ!」
グスタフの一撃をなんとかしのぐが、体勢は確実に崩されていく。このまま攻撃を受け止め続けたら、いずれ大剣の一撃を食らってしまうだろう。
「くっ、でも・・・」
ピンチは、チャンスでもある。
グスタフが勝利を確信したのなら、私だって!
「どらああああ!」
木刀を下から上へと斬り上げる! グスタフの一撃で、私は態勢を大きく崩す。木刀は右下に落ち、足はふらついて倒れそうになるけど・・・・。
「これで終わりだ!」
グスタフが流れるような動作で、振り上げた大剣を落としてくる!
あれが落ちてきたら、私の防御は確実に弾き飛ばされてしまうだろう。
けどね!
「その一撃! 見えてるよ!」
グスタフの姿がスローモーションになる。ゆっくりと木刀が振り下ろされる。このままじゃあ、あの木刀が頭に当たって私の負けになってしまうけど・・・・。
「秘剣! 鷹落とし!」
私は思いっきり、木刀を斬り上げた!
私とグスタフの木刀が激突する。
本来なら、グスタフの上から振り下ろすグスタフの一撃は、下から斬り上げる私の一撃よりも有利なはずだ。
でも、無属性魔法で強化した身体能力なら、グスタフの一撃を上回ることだって難しくはない!
ガツン!
木刀同士がぶつかる音がしたのは一瞬のことだった。
次の瞬間、私の木刀は、グスタフの木刀を斬り飛ばしていた。
「なん・・だと」
放物線を描いて飛んでいく木刀の切れ端を見ながら、グスタフが茫然とつぶやいた。
グスタフが唖然とした目で私を見ていた。
「それまで」
おじい様が私に向かって手を上げた。
一瞬沈黙が落ちると、やがて兄妹たちから歓声が起こった。
「・・・今回は俺の負けだ」
悔し気に吐き捨てるグスタフの声を聴いて、私は戦いに勝利したことを実感するのだった。
「勝った・・・んだよね?」
正直、10回やれば9回は私が負けるように感じたけど、今回は私の勝ちだった。
「ダクマー。ワシが保証しよう。この試合は一切の手加減なしに行われた。剣豪ともいうべきグスタフを、わずか12歳のお前が打ち破ったのだ」
喜びで体が震えてくるのを実感する。
でも、おじい様の次の一言で、私は厳しい現実に引き戻されることになる。
「ダクマー。おぬし、ワシの兄の知識があるわけではないのだな。お前の知識は一体誰のものなのだ」




