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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第1章 色のない魔法使いは領地ですくすくと成長する
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第52話 倒せなかった闇魔 ※ 後半 フェリクス視点

「くっ! 逃がした! あと一歩なのに!」


 私は地団駄を踏んで悔しがった。


「すごい逃げっぷりだったね。風の闇魔に逃げに徹されたら、私たちだってどうにもできないか。おじい様やデニスみたいなのがいれば足止めできたかもしれないけど、攻撃力だけ高い私たちでは無理があったかもしれないわ」


 ラーレが慰めてくれる。


「お姉様も、ラーレお姉様も見事でしたわね。闇魔の魔力障壁をものともしないなんて」


 アメリーもすぐに褒めてくれる。アメリーはラーレを苦手にしていたのにちゃんと褒めるなんて、こういうところは大人だなぁと思う。


「い、いやぁ。さすがビューロウ家の貴族だ。闇魔をこんなに簡単に撃退するなんて」


 ワイワイと騒いでいた私たちに声を掛けたのはルーカスだった。


 ルーカスはアメリーを熱い目で見つめながらその働きを褒めたたえた。え? コイツロリコンなの? アメリー! 近づいちゃだめだからね!


「しかし我らが東領から“星持ち”が現れるとは思いませんでした。我われ東の貴族一同は、あなたを誇りに思うことでしょう」


 星持ちって、確かレベル4の素質を持って、しかも侯爵並みの魔力量を持つ人に与えられる称号だよね? たしかにアメリーはその条件を満たしているけど、手のひらを返されたようで気に入らないなぁ。


 そう感じたのは私だけではなかったようだ。


「まあ! そうだったんですの? てっきりビューロウは落ち目だというのがクシュナーの考え方だと思っていましたのに」


 そういって、アメリーはにっこりと笑う。


「い、いや。それはあくまで父の考え方でして・・・。私は同意したつもりは・・・」

「でも隣で笑っていらしましたわよね? ローマン様のように、否定するわけでもなく」


 アメリーの言葉にルーカスは絶句した。


 アメリーは笑顔だけど目は笑っていない。いつの間にこんな怖い顔をすることになったんだ・・・。


「私、2人の姉のことは尊敬しておりますの。それこそ、頼れる2人の悪口を言われると、どうするか自分でもわかりませんわ。あら? そう言えばルーカス様は2人に何かおっしゃってませんでしたか?」


 アメリーが真顔になって見つめると、ルーカスはたじたじになった。


「い、いや・・・、その・・・。し、失礼する!」

 

そう言うと、慌ててこの場を立ち去っていった。


「ふん! あれだけのことをおっしゃってるんだから、嫌われることくらい自覚してほしいことですわ」


 そう言ってため息をつき、こちらを見て絶句する。私たちがニヤニヤとアメリーを見ていたからだ。


「な、なんですの? お二人とも気持ち悪い笑い顔なんかして・・・」


 私たちはわざとらしい笑顔で答えた。


「いやね。私、アメリーの尊敬する姉みたいだから」

「アメリーがそんなふうに思ってたなんて知らなかったわ。これからはもっと大事にしないとね」


 私たちがそう言うと、アメリーは顔を真っ赤にした。


「あ、あれは! 冗談、ではないですが、あの男を撃退するためなんですからね! もう! 本気にしないでください!」


 そう言い捨てると、ずんずんと急ぎ足で前に進んでいく。


 私たその後ろ姿を笑って見送った。


 でもアメリーが前にいた叔母に合流したのを見て、私はそっと溜息を吐いた。


「どうしたの? ため息なんてついちゃってさ。やっぱり、逃げた闇魔が気になる?」


 ラーレが私の顔を覗き込む。


「いやね。闇魔に上空に逃げられたら何もできなかったと思ってさ。やっぱり魔法が使えないって、きついなぁと思って」


 ラーレは私の頭をぐりぐりとゆする。


「アンタはまたそうやって自分だけで何とかしようとするんだから」


 そういうと、私の目を見ながら言った。


「あれは、どっちかというと私たちのせいよ。魔法は急所を外しちゃったし。地上にいたあいつに、アンタは上手くやったと思うわ」


 そう言って、くすっと笑って言葉を続けた。


「遠距離攻撃ができなくてもいいじゃない。あんたには誰にも負けない剣があるんだから。一人で何でもしょいこもうとするのは傲慢だよ」


 ラーレは慰めてくれるけど、私は俯いてしまう。


 そんな私を見て溜息を吐くと、ラーレは再び私の目を見ながら言ってくれた。


「じゃあ、遠くの敵は私が倒す。今度から絶対に外さないようにするわ。その代わり、アンタは私に近づく敵をみんな斬ってよ。接近戦が苦手な私に代わってね」


 火魔法しか使えないラーレは、身体強化を使えない。いくら逃げ足が速くても、剣術は全然なんだ。剣術の成績は私たち孫の中でも一番下だ。


 やっぱり、一番年上なのに一番弱いのは、本人にとって相当なコンプレックスになっているみたいだ。


「そうやって、弱いところをかばい合うために仲間がいるんだと思うわ。私が撃って、アンタが守る。これなら、落ちこぼれ同士でも何とかできそうだと思わない?」


 ラーレが静かに笑った。


 一人で戦えないのは相当いやだろうに、そう言って私を励ましてくれた。ラーレはいつだって、私を励ますための言葉をくれる。自分を差し置いてでも、私を助けてくれるんだ。


 そんな彼女に協力しないってのは、女が廃るってもんだ!


「うん! 私だって、剣だけなら誰にも負けないんだから! ラーレに近づく敵は、みんな斬って見せるからね!」


 私はそう宣言すると、ラーレと目が合ってそっと微笑んだ。


「でも気になるわね。逃げた闇魔は北に行ったようだけど・・・。あんまり悪さをしないといいんだけどね」



※ フェリクス視点


「はあっ」


 しゃがみ込む闇魔に向かって騎獣を走らせる。そしてすれ違いざまに槍を一突き。急所こそ外したものの、闇魔の体に大きな穴が開いていた。


「くっ、バカな! 子供ごときに、この俺が・・・・」

「ははっ! お前はここで子供にやられて死ぬんだよ! ルックナー家の当主を倒した報い、その身に受けるがいい!」


 そう言って再び騎獣を闇魔に寄せた。


 そして――。


「くたばれよ。炎武槍!」


 火の魔力を込めた槍は、闇魔の胸を容易く貫いた。騎上からの一撃は、傷ついた闇魔のとどめとなった。


「ば、ばかな・・・・。こんなところで、またガキにやられるなんて・・」


 闇魔はそう言うと、少しずつ粒子になって消えていく。あとに残されたのは白く輝く爪だった。おそらくこれは、神鉄でできたという武具だろう。

 

 なんとなくその様子を見ていると、後ろから俺を追ってくる一騎があった。


「若! やっと追いついた!」


 振り返るとそこには俺の護衛のザシャが汗を流していた。どうやら軍馬で慌てて追いかけてきたらしい。


 オレはさっき拾った爪を槍で拾うと、ザシャに向かってほおり投げた。


「うわっ! なんですか、これ?」


 オレはザシャを振り返ることなく答えた。


「あの風の闇魔が落としたものだ。やはりあいつは武具付きだったらしい。強いはずだ。勇敢なルックナーの騎士も、コイツの前には下がらざるを得なかったんだからな」


 今回現われた闇魔に、ルックナー家は相当な被害を受けたそうだ。何人もの貴族がやられた。当主や後継に至っては死んでしまうほどだった。一応当主の弟や娘は存命だが、こちらでしっかり支援する必要はあるだろうな。


「でもその強い闇魔も、若の前じゃあひとたまりもなかったみたいですね。こうしてあっさりと死んじまうなんて」


 サシャが爪を確認しながら言った。


「いや。武具付きとはいえ闇魔は相当弱っていた。ルックナーの騎士が相当頑張ってくれたんだろう。簡単に倒せたのは、手負い状態だったからこそさ」


 それに少し気になることがある。


「どうやらこの闇魔、魔力障壁を使わなかったらしい。いや、使えなかったというのが正しいかな。話に聞く闇魔としては考えられないほどもろかった」


 闇魔の魔力障壁は通常攻撃では傷一つ付けられないと聞いている。だからこそ、俺も最大限の魔力で攻撃したのだが。


 結果は御覧の通りだ。闇魔は俺の一撃で跡形もなく消えてしまった。


「? なんか調子が悪かったんですかね? 闇魔の奴にしちゃあ、情けない死にざまだったですね」


 ザシャの言葉を聞き流しながら質問する。


「あの闇魔からは闇魔法の気配がした。あいつは一度、東に逃げたように見えたんだよな? 確かこの州境を超えれば、東のクシュナー領だったな。あそこに強い貴族なんていなかったはずだが」


 俺の質問を聞いてザシャが考え込んだ。


「クシュナー領ですか? 確か当主は魔力はあれども腰抜けって話です。30年前の戦いでほとんど戦果を上げられなかったのは有名ですからね」


 しばらく考え込んだ後、ザシャは何か思いついたようだった


「もしかしたら、クシュナーの奴、他の領地に援軍を求めたのかもしれません。いやきっとそうだ! 確か東領の奴らはこういう時にお互いに危機を知らせ合う魔道具があったはずだから!」


 それを聞いてザシャが言わんとしたことを理解する。


「そうか。クシュナーはビューロウに援軍を頼んだのか」


 だとすれば分かる。たしか、あそこの次男はバル家の令嬢を迎えたはずだ。バル家は、今は没落したが昔は闇魔法の大家だった。


「確か、バル家には相手の魔力障壁を無効化する技があったな。使い手がおらず失伝したかと思ったが・・・。それが形を変えてビューロウに伝わっていたのかもしれんな」


 確か、オレと同じ学年にビューロウの男がいるはずだ。まだ入学は先だが、そいつに話を聞けば何かわかるかもしれない。


 考え込む俺を、ザシャがニヤニヤと見ていた。


「若。なんだか楽しそうですね? ちょっと前までは学園に入学するのが億劫だって言ってたのに」


 ザシャに言われて自分が笑っていることに気づいた。


「3年間、退屈な学園生活になるかと思ったがどうやらそうではないらしい。東にも面白いヤツがいるみたいだしな」


 オレはそう言い残すと、当主に報告するために帰還することにしたのだった。

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