第51話 空を飛ぶ闇魔
「今代の星持ちにこんなところで出会えるとはな。ふふふ。私は運がいい。お前の首、魔王様に供えてえてやろうではないか」
闇魔がそう言うと、隣で宙に浮いていた魔物たちが勢いよく飛び出してきた。あれはビックバット。巨大なコウモリ型の魔物だね!
「させるかよ!」
グスタフがその一帯に斬りかかる。グスタフは私たちの護衛のために控えていてくれたんだよね。戦う機会が得られてうれしいのか、彼は笑顔で大剣を振るっている。
「私の娘に触らせるわけがないでしょう!」
叔母さんが、ラーレのほうに向かおうとしたビックバットに、勢いよくムチを放つ。
叔母さんって、なんか女王様って言いたくなるような風格があるよね。使ってる武器もムチだし。
「あれ? でも叔母さんがムチを使うってことは、闇魔法を使う気になったってことかな? 鞭で攻撃すると同時に闇魔法を使うのが、バル家で使われていた戦術らしいし」
叔母さんが打ち据えた魔物は、闇魔法の効果なのか、確実にスピードを落としていく。その隙を、グスタフは逃がさない。着実に追いついて仕留めていくんだけど・・・。
「魔物ばかりに気を取られていていいのかな! 私もいるんだぞ!」
闇魔は羽をはばたかせ、さらに1、2歩ほど上空に上がると、アメリーに再び狙いを付けた!
「キョオオオオオオオオ!」
闇魔が頭から突っ込んでくる!
「くっ!」
アメリーは横に飛んで躱すが、体勢を大きく崩してしまう。闇魔は地面に降りると、再び爪を構えて突撃してきた!
「危ない!」
私は思わず叫ぶ。アメリーとは距離がある。すぐに守りに行くことなんてできないよ!
でも・・・・。
「くっ! そうそう好きにやらせるかよ!」
グスタフが闇魔の爪を剣で受け止めた。
「グスタフ! やるじゃん!」
私がほめるが、グスタフは厳しい表情を崩さない。
グスタフは前蹴りを放って距離を作ると、大剣を大きく振りかぶった。
「どらああああああああ!」
大剣の一撃が、闇魔の頭上に振り下ろされた!
「ふっ」
闇魔が邪悪に笑った。
グスタフの大剣は、しかし闇魔の魔力障壁に阻まれてしまう。
「クッソオオオオ! またかよ! また俺の剣は通じないのか!?」
グスタフが悔しそうに叫んだ。
そうか、グスタフは前も渾身の一撃が、闇魔の魔力障壁に阻まれたんだよね。近接戦闘が得意なグスタフからしたら、こんなに悔しいことはないかもしれない。
「吹き飛びなさい!」
闇魔が右手をかざすと、グスタフは勢いよく吹き飛ばされた。
「くっ! 好きにさせるわけには!」
叔母さんが鞭を振るうが、闇魔は魔力障壁でその一撃を簡単に防いでしまう。そして手をかざすと、叔母さんも一瞬で吹き飛ばされてしまう。
「さて、邪魔者はいなくなったな。魔物たちも追いついてきたようだし」
闇魔がアメリーを睨んだ。
アメリーは気圧されたように一歩下がった。
闇魔の言葉通り、前からコボルトの群れが走り込んでくるのが分かった。コイツ! あらかじめ数体の魔物を伏せていたな! しかも私の妹を怯えさせるなんて! ただで済まされると思うなよ!
「きえええええええ!」
私は全身に魔力を循環させた。
そして――。
「秘剣! 鴨流れ!」
素早く接近すると、闇魔に横薙ぎに一閃した!
「なっ! ばかな!」
私の剣閃は闇魔の魔力障壁を引き裂いたものの、仕留めるには至らない。胸を浅く斬り裂いたに過ぎなかった。
「くっ! 次で!」
私は上段から剣を振り下ろそうとするが、闇魔は上空へと逃れていく。
私は悔しくて上空を睨みつける。上に逃げられたら、私の剣が届かないじゃない!
「ふ、ふふふ。ここに攻撃する手段はないようだな」
闇魔がニヤリと笑う。遠距離魔法が使えない私には、上空にいる闇魔を倒すことなんてできない。
でもね、ここには私だけがいるわけじゃないんだよ!
「食らいなさい! レイ!」
アメリーが火魔法で顔を狙った。
火線が闇魔の顔に直撃すると、闇魔はたまらず数歩下がった。
「くっ! やるな! だが私を倒せるほどでは!」
闇魔が空中で静止してアメリーを睨む。
そしてその表情は驚愕に染まった。
アメリーの後ろで、ラーレが黒い炎を作り出したのを見て!
「バカな! なんだ、その炎は! ま、まさかお前は!」
ラーレが闇魔に向かって右手を突き出した。
そして――。
「燻り、焼き尽くせ」
ラーレの右手から黒い炎が発射された。
「くおおおおおおおお!」
闇魔がとっさに右手を突き出すが、黒い炎はその魔力障壁を簡単に突き破った。
体の右側を焼かれながらも、闇魔は驚愕の表情を浮かべていた。
「ば、ばかな!? そんなバカな! こちらの障壁が、一瞬で!」
黒い炎は闇魔の右半身をあっという間に炭へと変えていた。
闇魔の右羽も一瞬で燃え尽きていた。これじゃあ、飛び立つことなんてできそうにない!
「く、くそぉ! このままやられるわけには! お前たち! 後で覚えていろよ!」
飛べなくなった闇魔は、それでもすごいスピードで北のほうへと身をひるがえす。
「あ! 逃がすか!」
私は追おうとするが、いつの間にか現れたコボルトの群れに行く手を防がれた。
「邪魔を、するなぁ!」
私はコボルトの群れに剣を振るった。
アメリーもきっちりと援護してくれた。
それでも――。
「くっ! 逃げられたってこと!?」
私たちがコボルトの群れを倒すころには、闇魔の姿はどこにも見えなかった。




