第42話 教えるべきこと
ラーレ視点
泣きながら走りだしたホルストを思わず追いかけた。あいつの向かう先はなんとなくわかる。多分、庭の噴水の裏に向かったのだろう。私もよくいくけど、落ち込むとここに来たくなるんだよね。
予想通りの場所にいた愚弟は、泣きべそをかいていた。護衛のヤンは離れたところでおろおろしている。
「ほら。もう泣きやみなさい。普段は強気なくせに、相変わらず泣き虫なんだから」
そういってハンカチを差し出す。愚弟はハンカチを奪い取ると、涙をぬぐいだした。ちょっと! 鼻をかんだりしないでよね!
しばらく佇んでいると、ホルストが泣き止んだ気配がした。
「ダクマーとはちょっと言い合いになっただけだからね。そんな深刻な喧嘩をしたわけじゃないんだから」
そっぽを向きながら言い訳すると、ホルストは顔を上げる。
「べ、別にお前のためにやったわけじゃない! 勘違いするなよ!」
生意気なことを言い出す愚弟に、思わず笑ってしまった。ホルストはバツが悪そうな顔で言い訳を続けた。
「でも、このままじゃああいつはやばいと思ったのも確かなんだ。あいつは接近戦は強くなった。僕たち孫の中で随一の力を持っていると言えるだろう。おじい様の言う色のない魔法ってやつを使いこなしているんだと思うよ」
ホルストが珍しくダクマーを評価した。
「でも、魔法はもっと奥が深いものだ。このままじゃあ、あいつは魔法をなめてかかる。そんな状態で強い魔法使いに遭遇したら、簡単に負けてしまうと思う。おじい様は別格と考えているみたいだけど、同年代に負けなしで調子に乗せてはいけないんだ。もっと魔法を警戒するようにならないと」
愚弟は珍しくあの子の将来を本当に心配しているみたいだった。
こいつの言うことは分かる。ダクマーは調子に乗りやすいきらいがある。このまま敗北を知らないままだったら、本物の強者に当たった時に大変なことになるかもしれない。
「まあ、アンタじゃ難しかったかもね。アンタは両手剣を使っているみたいだけど、どっちかと言うと“耐える”戦い方に見えたし。魔術師なんかと連携できれば強いと思うから、クルーゲ流に近いんじゃない?」
私の言葉に、ホルストは顔を歪める。ホルストの闇魔法と剣術は、その場で敵を仕留めるというよりも、敵を弱めたり足止めしたりするって方が近い気がする。でもそんな地味な戦い方、愚弟は気に入らないと思うんだけど。
「い、いや、盾で敵の攻撃を受け止めるクルーゲ流みたいな真似、僕は嫌なんだけど・・・。痛いし、忍耐力が必要だし・・・」
愚弟のテンションが急に下がる。さてはコイツ、おじい様みたいにバッタバッタと敵を薙ぎ直すことだけ考えて、敵の攻撃を避けたり防いだりすることを考えてなかったな。まあおじい様の剣は敵を倒すことに特化しているみたいだけど。
「い、いや! 僕は魔法も得意なんだから大丈夫なはずだ! それよりダクマーだ! このままじゃあ、あいつ、勘違いしたまま進んじゃうぞ! 一部のやつ以外には簡単に勝てるってな! そんな状態になったら敵にあっさりやられちゃうんじゃないか!」
こう見えて、愚弟は親族に対する思いやりが強い。ダクマーが簡単に殺されてしまう未来を憂いているようなんだけど・・・。
私は思わず手を握り締めた。愚弟の言う通り、このまま魔法を侮ってしまえば、後々苦しむのはあの子だ。
「私が、やる。あの子が間違った方に進みそうなら、それを止めるのは私の役割だ。おじい様の魔法を完成させることができたら、あいつに思い知らせてやれるはずだから」
私は決意を込めて前を睨んだ。魔力過多で全然魔法が使えない私だけど、あいつのことを絶対に止めて見せる!




