表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第1章 色のない魔法使いは領地ですくすくと成長する
40/395

第40話 新たな秘術 ※ラーレ視点

※ ラーレ視点


 私たちは3人がかりなのにダクマーに手も足も出なかった。コルドゥラに嘲笑されて、私はその場から逃げ出した。


 裏庭を離れ、屋敷の反対側にある噴水までたどり着いたとき、足を止めた。荒い息を吐きながら、地面を茫然と見つめていた。


 弟のホルストが生まれ、あいつが優秀な頭脳と高い運動神経を持っていることが分かると、両親は弟にかかりきりになった。そして、火の資質が過多で、闇魔法の資質があることが分かると、両親との関係はぎこちなくなった。


 レベル5以上の資質があると分かると、その属性はないもののように扱われる。私は炎も闇もレベル5以上だった。他の魔法はなんとゼロで全く素質がなかったので、魔法が使えない者のように扱われた。


 何とか両親に見てもらいたくて勉強も剣術も必死で頑張ったけど、どちらも1つ年下のホルストには手も足も出なかった。


 私が勝っているのは、魔力操作だけだ。でもどんなにきれいな魔法陣を描けても短杖で簡単に扱えるし、ほとんどの人がある程度まで操作できるようになると訓練を止めてしまう。魔力操作の訓練を続けているのは、私とダクマーだけだった。


「せめて火の素質がもう少し抑えられたらいいのに」


 母はいつもため息をつきながらそう零す。両親はいつもため息混じりに私に接するようになった。家庭教師の授業でいつもより良い点を取った時も、母は「それより魔力は暴走していないの」と心配するばかりで、成績のことに関心がないみたいだった。この人たちにとって私はすぐに暴走する火薬庫みたいなものなのかと感じた。


 そんなある日、使用人がダクマーのことを噂しているのを聞いた。


「ブルーノ様のお子さんも優秀なんですって。でも長女のダクマー様は、ちょっと足りないみたいなの。こっちのラーレお嬢様みたいにね」


 使用人がそううわさするのを聞き、ダクマーと言う少女に興味を持った。私と彼女はまだ顔を合わせたことがない。使用人が気を効かせていとこたちと交流する機会はほとんどなかった。だから、ダクマーと話すこともなかったけど、彼女も出来が今一つと聞いて、話してみたいと思ったんだ。


「? あなたがラーレ? ごめんなさい。使用人からイザーク叔父さんたちの家の人とは話すなって言われてるの」


 初めて彼女を見たとき、自分に似てると思った。両親に期待されず、成績が良かった時も気にもされない。さらには、彼女は四大魔法を全く使えなかった。境遇はほとんど一緒で、だから最初は強引に話しかけた。最初は慰め合うかのような関係だった。でも家族に対する愚痴を言い合ううちに、いつしか彼女はかけがえのない存在になっていった。



 今でも思い出す。私は小さいころ、彼女に助けてもらったんだ。


 あれはたしか、私が8歳のころだった。部屋を抜け出して彼女のところに来た私は、屋敷の異常な雰囲気に気づいた。なぜか使用人が少なく、私たちは2人きりだった。


「なんか怖いね。いつもの屋敷じゃないみたい」


 ダクマーの言う通りだった。私たちは一緒に怯えていたが、ふと外の音が消えたことに気づいた。


 私たちは恐る恐る庭を見た。そして庭に出ようとしたその時、黒づくめの男が私目掛けて飛び込んできたのだ!

 その男は私を一瞬で捕まえるて俵抱きにすると、一目散に屋敷の外に出ようとした。このままでは連れていかれる! 私は不器用に抵抗しようとしたが、男は私にナイフを突きつけると、「静かにしろ!」と脅した。


 私は怖くて動けなくなったけど、男が急に立ち止まった。男の左足に、ダクマーがつかまっていたのだ。


「お姉ちゃんを離せ!」


 彼女は男が足を振り回しても蹴られても、男から離れなかった。


「だれかー!! くせものだよー!!」


 彼女は訳の分からないことを大声で叫んだ。


「くそっ! ガキが騒がしいんだよ!」


 そう言って男は懐からナイフを取り出した。私は怖くて震えていたけど、ダクマーは怖がらずに叫び続けた。


「お姉ちゃんをどこに連れて行こうってのさ! お前なんかやられちゃえ!!」


 男は顔を赤くしてナイフを振り上げた。このままじゃあ、ダクマーが斬られてしまう! 私は手足をバタバタと振り回して抵抗した。


「くそっ、ガキどもが! 大人しくしやがれ!」


 暴れる私たちにじれたのか、男はものすごい形相でナイフを振り上げた。


 もうだめだ! そう思った時だった。


「火よ!」


 叫び声が響き、男が吹き飛んでいく。


「ワシの屋敷で狼藉とは、死にたいようだな」


 祖父は怒りに顔を染めて近づいてきた。


「ひ、ひぃぃ」


 男は私を取り落とす。私は地面に体をぶつけたが、それどころではない。這いつくばりながら、ダクマーに覆いかぶさった。


「ダクマー! しっかり!」


 そう言って無事を確かめる。ダクマーは怒ったような表情で私を見ると、すぐに破顔した。


「お、おねえちゃああああん」


 火が付いたように泣き出す。私もつられて大声で泣き出した。私たちは、抱きしめ合いながら泣き続けたのだった。



◆◆◆◆


 その事件のあと、私は祖父の近くの部屋に引っ越すことになり、しばらくしてダクマーもそばで暮らすようになった。私たちはいつも一緒に過ごすようになった。


「昔、中央に私だけおじい様についていくことになった時は大変だったなぁ。ダクマーが『私も行く!』って縋り付いてきて。強引に引き離したんだけど、帰ったらいつも以上に私にべったりになったんだよね」


 あのころから、私たちは本当の姉妹みたいになったんだよね。いつもどこでも一緒にいて、泣いたり笑ったりしてきた。私たちは2人とも両親に期待されなかったけど、それでも2人だったから堪えることができたんだ。


 そんな彼女が変わったのは、身体強化に初めて成功して頭を打った後だった。取り付かれたかのように素振りをはじめ、魔力なしでも動けるようトレーニングを続けた。押し付けられた写本の仕事も、弟の嫌味をものともせずに嬉々として取り組みだした。


「ダクマー、なんかあったの? 急にやる気出しちゃって、さ」


 思わず尋ねた私に、彼女は曇りのない笑顔を見せた。


「私は、この剣術を完成させたいんだ。道草喰ってる時間はない。私は魔法が使えないけど、私のやり方で強くなってみせる」


 そう言って素振りを再開する彼女を、私は茫然として見つめることしかできなかった。私も負けてられなくて、闇の魔法で減退させることで炎をやっと放つことができたけど、その魔法は弱弱しく、両親を一層失望させてしまった。母の悲しそうな目を思い出す。私は両親に認められたいだけなのに、どんどん距離が開いていくのを感じた。


 ダクマーも少しずつ変わっていった。裏山で魔犬を討伐したかと思うと、領内で秀才だと有名なコルドゥラを護衛に迎え、社交の勉強にも真剣に取り組むようになった。急に一生懸命になったあの子を見て、私は取り残されるような気持ちになった。彼女を素直に祝福できず、嫌味のような言葉をぶつけてしまったこともある。修行の手伝いはしたけど、心の距離は開いていった気がする。


 そして今日、護衛のエラとミリの3人で彼女に挑んだが、あっさりとあしらわれてしまう。私とダクマーは同じような存在だと思っていたのに、いつの間にか彼女は遠いところに行ってしまった。


 気づいたら、頬に涙が流れていた。ダクマーに置いていかれて、私は一人になってしまった。私は声を上げて泣き出していた――。


 泣き疲れて眠ってしまったのだろう。気づいたら、噴水の傍でうつぶせになっていた。私の背にはコートが掛けられていた。私の護衛がかけてくれたのだろうか。


 首を振って周りを見つめる。私の後ろに、大きな人影がった。


「!!!!!!!」


 しゃがみこんで顔を覗き込んでいたのは、祖父だった。魔法を見てもらっているとはいえ、現当主の祖父は私から見たら雲の上の存在だ。強い魔力を持っていることに加え、魔法の知識も豊富だ。なにより、ついこの間、闇魔を倒した一撃を忘れようはずはなかった。


 祖父は鋭い目で私を見つめていた。私は急に現れた祖父を見て言葉を失っていた。

 

「ラーレ、毎日の修行、お前はよく頑張っている。2属性の切り替えも、驚くほどスムーズだ。私を除くと、この家で最も操作が上手いのはお前だろう。アメリーも、お前ほどの制御はできんからな」


 憧れの祖父に褒められたのに、私は何も言うことができなかった。祖父は痛みをこらえるかのような表情になる。


「そうか。お前はそうなのだな。家族に認められないのはつらいな。それが最も身近な両親なら、より一層な。だが、自分が変わらなければ、周りは変わらんぞ」


 そして「ついてこい」というと、屋敷に向かって歩き出した。私は慌てて立ち上がると、祖父の後を追った。


「息子も孫も、派手さと美しさばかりに気を取られて、操作は下手くそだ。短杖になんぞ頼りおって、ろくに魔法が使えておらん。これもカールハインツが魔法の美しさに価値を置いたせいだ」


 カールハインツは今から30年ほど前に活躍した魔術師で、四大属性すべてに適性を持ち、破壊魔法を持って闇魔を倒したと言われている。魔力杖の開発者で、その魔法は美しく、一撃で闇魔たちを屠ったという。弟のホルストをはじめ、彼を尊敬している人は多い。なんか南の領地では彼の志を引き継ぐ人たちの研究所があるらしい。


「カールハインツのやつが、魔法を美しいものだとしたのだ。確かに、奴が開発したレイやハイドロプレッシャーは美しい。熱線や水圧で吹き飛ばせば、敵をきれいに殺すことができるだろう。だが本来、魔法はもっとおぞましいものだ。敵を痛めつけて苦しめて殺すことこそが本分なのだ。今の魔法使いは、技の美しさにばかり捕らわれて、そのことを忘れておるのだ」


 ずんずんと進む祖父を、駆け足気味になって追いかける。祖父は自分の部屋に私を招くと、椅子に掛けるように指示を出す。私が恐る恐る椅子に座ると、対面に座って話を続けた。


「ホルストもアメリーも、基礎をおろそかにしてきれいな魔法ばかりを使おうとする。息子たちや嫁も同じだ。闇魔法を軽視し、新式魔法ばかり使おうとする。その点、お前は見込みがある」


 部屋に着くと祖父は一本の巻物を取り出した。そこには、何やら複雑な魔法術式が描かれていた。


「これはワシが開発した魔法だ。おそらく使えるのはおまえだけだろう。お前が秘密を守り、魔法使いとして努力をし続けるというのなら、この魔法を授けてやる。だが最初に言っておく。この魔法はきれいに敵を倒せるようなものではない。敵を苦しめ、痛めつけ、命を奪うための魔法だ。おそらくこの魔法はお前の人生を変えるものとなるはずだ。良くも、悪くもな。ラーレよ。選べ。この魔法を手にするか、それとも魔法に捕らわれず、平穏な人生を送るかを」


 祖父は巻物を私に突き出すと、鋭い目で私を見つめてくる。目をそらすことはできなかった。私は人生の岐路に立っていることを実感する。


 その時私の頭に浮かんだのは、笑顔で素振りをするダクマーの姿だった。ここで怯んだら、多分一生あの子に追いつけなくなる。彼女に置いていかれたら、私は本当に一人きりになってしまうだろう。


 私は祖父に頷くと、巻物を受け取る。これで逃げ場はない。でも、それでも彼女の近くで歩いていけるのなら。


 私は魔法を習得して鍛え続けることを選んだのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 今のところ準備段階ですが成長していく姿が面白いですね [気になる点] 設定及び描写の矛盾が気になります ラーレは少し前の話で同年代の誰よりも早く祖父の布石に気付き、自信を持って魔力操作の技…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ