第395話 色のない魔法使いの挑戦は、続く
すみません。
一度消して再投降しました。
こちらが本日2羽目で 最終話です。
この話を見ていただいてありがとうございました!
「ダクマー様。何を見られているんですか?」
私が教室で手紙を読んでいると、ルイーゼ先生が声をかけてきた。私は顔を上げて、手紙を見せた。
「うちで働いていたグスタフから手紙が来ているんですよ。なんか、やっぱり向こうも大変みたいです。魔物も結構残っているみたいですし。大丈夫かな? 公爵家の武官なんて、かなり大変だと思うんだけど」
私に手紙というと、しょっちゅう送ってくるのはアメリーで、ロレーヌ家の後継や王子様の相手をするのが大変そうだけど、グスタフからも結構な頻度で手紙が来たりしている。エーレンフリート様は併合した北をまとめる都督みたいな感じになって、グスタフがついて行ってたのだ。エーレンフリート様って、優しい顔をしてやることは結構やってるんだよね。フューリーさんを娶ったり、グスタフを部下にしたり。まあ、あそこでは魔物との戦いも多いらしいから、グスタフも存分に腕が振るえて満足そうなんだけどね。
ちなみに北に行ったデニスはブリギットさんと結婚して領地経営に携わってるらしい。けっこう活躍しているらしく、北でも一目置かれる存在になっているらしい。まああいつは優秀だから、問題ないとは思うんだけどね。
「へえ。アルプロラオウム島ではいろいろあるんですね。エーレンフリート様も苦労されているようですね」
「ルイーゼ先生はエーレンフリート様と面識があるんです?」
私が尋ねると、ルイーゼ先生は優しく頷いた。
「エーレンフリート様は、私が初めて担当した教室の生徒だったんです。あの頃から真面目で、でも心配りも効いていて・・・。教師としてずいぶん助けられたと思います」
ルイーゼ先生が昔を思い出すように空を見つめた。やっぱりいろいろあるんだなぁ。
「それよりも。レオンハルト様がお呼びでしたよ。なんでも、至急話したいことがあるとかで。学園長室まで来るように、とのことです」
◆◆◆◆
私が学園長室に入ると、レオン先生は顔を上げた。どうやら、書類を見ていたらしい。レオン先生ってば、こっちに戻ってきてからいつも忙しそうにしているんだよね。大丈夫かな? 疲れていないかな? 今度また、カリーナのお菓子を持ってくるからね!
「ダクマーです。ルイーゼ先生からお呼びだとお聞きしましたが?」
私がそう言うと、レオン先生はまじまじと私の顔を見た。え?なに?私の顔になんかついてる?
レオン先生は、ちょっと微笑みながら私に声をかけてきた。
「いや、君も成長したなと思ってな。ここに来たばかりのころは幼さが残るような顔だったのに、今はいっぱしの顔をするようになっている。時が経つのは速いものだ」
レオン先生の言葉に私は憮然とした。
「私は変わらないですよ。変わったとしたら先生です。先生の考え方やモノの見方が変わったんだと思います」
私がそう言うと、レオン先生は苦笑した。その顔を見て、私も思わず笑いが込み上げた。あれから随分時がたったものだ。
変わらないものも多いけど、変ったものもいくつもある。時々あの頃が懐かしくなるけど、それでもあの頃に戻りたいとは思わない。私の目は、未来しか見えなかった。
レオン先生はさっそく本題に入った。
「実は、北の地から少女がここに来ている。彼女たちはちょっと資質に問題があってな。レベル1未満の素質しかない者と、火の魔力過多の2人組だ」
私はドキリとした。加護なしと火の魔力過多って、私とラーレみたいじゃないか!
「これはいい機会でもある。君が十分に力を発揮して彼女たちを導ければ、君が求める取り組みに意味があると証明できる。反対に、上手くいかなければ、君の取り組みに問題があるとされて計画が見直されるかもしれない」
私はごくりとつばを飲んだ。責任は重大だ。私の頑張りに、これからの計画が決まってしまう。なにより、2人の人生を背負うことに、息苦しさを覚えた。
「バルトルド先生やエレオノーラ君に手伝ってもらってもいい。君に、面倒を見てほしいのだ。できるか?」
私はドキリとしたが神妙に頷いた。私はこのために教員を目指してるんだ。ここでちゃんとやらないと、ここにいる意味なんてない!
「やります。やらせてください。私が、彼女たちに道を示して見せます」
◆◆◆◆
私は学園長室で、彼女たちを待った。
レオン先生に連れられた2人の少女は、どこかおびえたような顔をしていた。まだ10歳にも満たないくらいなのに、人生に怯えきったような顔をしていたのだ。
私は思い出した。
確か記憶を取り戻す前の私も、こんなふうにあきらめていたことを。ラーレやおじい様がいろいろ面倒を見てくれていたけど、世の中を絶望したような目で見ていたことを。
私は努めて明るく彼女たちに話しかけた。
「私は、ダクマー・ビューロウです。これから2人と一緒に暮らすことになると思います」
そう自己紹介した私を、2人はおびえた顔で見返してきた。
しばらく、教室に沈黙が落ちる。なんて話していいか分からないみたいだった。それでも2人は、なにか言おうと口を開きかけた。
私は笑顔を作り、彼女たちがしゃべるのを辛抱強く待った。すると、赤い髪をした少女がおずおずと話しかけてきた。
「あ、あの・・・。先生は、あのダクマー・ビューロウなんですか? アルプロラオウム島で闇魔を倒したという英雄の・・・」
うわっ。こんな小さな子にも知られるくらい噂になっているのか。私は顔が赤くなるが、努めて平気なように応えた。
「噂っていうのは分からないけど、たぶんそのダクマー・ビューロウです。まあ英雄かどうかは分からないけどね」
黒い髪の少女が驚いたような顔をした。
「あ、王国を代表するような人が、なんで私たちなんかのために・・・・」
私は努めて明るく答えることにした。
「実は、私は魔法の素質がまったくないんです。相棒のラーレは、君と同じ魔力過多だったのよ?」
私の言葉に、2人は驚いた様子だった。
「私も小さい頃はよく加護なしっていわれた。友達もどんどん離れてしまって、一人きりで過ごすことも多かったわ」
2人は俯き、何かをこらえるようにこぶしを握り締めていた。
「でも、こんな私でも価値を信じてくれる人たちがいた。その人たちが、どうすれば私が生きていけるか、一緒になって考えてくれたの。英雄って言われるのは、全部その人たちのおかげなんだ」
私の言葉に、2人は黙って考え込んだ。
「だから、あなたたちに何ができるか、私も一緒に考えさせてほしいの。いっぱい話そう。いっぱい話して、いっぱい喧嘩して。そして君たちがどうなりたいかを一緒に考えよう。大丈夫。私なんか、みんなに出来が悪いって言われてきたけど、それでも英雄って呼ぶ人がいるくらい頑張れたんだから。だから、私と一緒に、この学園で成長していかない?」
私は笑顔でそう宣言した。おじい様やラーレがしてくれたみたいに、彼女たちがどうやったら生きやすいか、一緒に考えるんだ。それがきっと、私の目指す教育者としての姿なんだから――。




