第39話 ラーレとの確執
数ヵ月の時が経過した。
このころになると、アメリーの授業の終わりにコルドゥラとゲームをするのが定番になった。コルドゥラはその後も私に竹刀を当てることができなかったので、「魔法を使ってもいいよ」と伝えて難易度を上げてみた。最初は断っていたが、実際に魔法を使っても私に剣が当たらないことに気づくと、魔法と剣を組み合わせて攻撃するようになった。そろそろ、身体強化の魔法なしでは厳しいかもしれない。
「ホント、いつもよくやるわよね。2人とも飽きないの?」
ラーレが魔術板を操作しながらあきれたように言った。心なしか、いらいらしたような目で私たちを見ている。コルドゥラは冷たい目でラーレを一瞥した。ラーレの護衛は、はらはらした様子で私たちを見ていた。
ラーレの護衛は、エラとミリの双子の女の子で、2人とも小柄だけど、動きが素早いんだよね。なんか貧乏だけど大家族の家出身で、弟や妹が学校に通えるように、ラーレと同じ年なのに護衛をして稼いでいるそうだ。
「もう一度、お願いします」
コルドゥラはラーレに取り合わずにもう一度試合をするよう頼んでくる。ラーレは不機嫌そうにコルドゥラを睨むと、そっぽを向いた。
「たあああああああ!」
コルドゥラが気合とともに打ちかかってくる。私は素早く横に動いて躱す。そこから突きと横薙ぎのコンビネーションを放つが、私は最小限の動きで躱していく。エラとミリは手に汗握って試合を真剣に見つめている。だけどいつも通り、時間切れまでコルドゥラは私を捕えることはできなかった。
「あ、、ありがとう、、、ございました」
汗だくになって伝えるコルドゥラ。そんな彼女を、ラーレは冷めた目で見つめていた。
「ふん。いつも偉そうにしているくせに、天才だとか言われてるけど、アンタも大したことないのね」
ラーレはコルドゥラと仲が悪い。コルドゥラは領内では剣の天才だと言われているし、おじい様から直接指導を受けているとはいえ、ラーレは私と同じくらい落ちこぼれだ。
劣等生は優等生を苦手とするものだ。ラーレは自分のことを才能がないと思っているので、特にその傾向は強い気がする。こうして事あるごとにコルドゥラに突っかかっている。
「そうまでいうのなら、ラーレ様もやってみたらいいじゃないですか。3人がかりでもかすりもしないと思いますよ」
売り言葉に買い言葉で、コルドゥラはラーレを挑発する。いつもならなんだかんだで逃げていくラーレだが、この日は違った。
「エラ、ミリ。手伝いなさい。ダクマーを仕留めるわよ」
えっと、私はやるとは言ってないんだけど。でもラーレと双子は、目に力を込めて私を見てきた。おじい様に魔法を学んでいるみたいだから、その力を試したいのかもしれない。
まあ、いいか。私は剣をラーレに向けると、挑発する。
「ちょうど、複数を相手に避ける練習をしてみたいと思っていたんだ。悪いけど、3人がかりなら私も反撃するからね」
ラーレの目に怒りが浮かぶ。ラーレもこのビューロウ家の一員だ。毎日一緒に訓練しているし、才能はなくても認められようとあがいているのをいつも見てきた。
でも、だからと言って私は手を抜くつもりはない。
「エラ! ミリ! 行きなさい!」
「やああああああ!」
双子は気合とともに私に突撃してきた。私は最初に突撃してきたエラを躱しがてらに竹刀で胴を払う。間髪入れずに剣を放つミリの一撃を横に避けると、竹刀で彼女の木刀を叩き落とした。
「食らいなさい! ファイア!」
ラーレは黒い魔力の靄を纏いながら、何の遠慮もなく魔法を顔に向けて放つが、私はそれも首をひねって躱す。そして、掌底でラーレを突き飛ばした。
「!? っっっ」
ラーレは後ろに吹き飛ぶ。倒れはしなかったものの、前のめりになり、床に手を着いた。そして顔を上げて私を睨んできた。
「三人がかりなのに!」
ラーレは驚愕に目を見開く。エラもミリも、信じられないものを見るかの表情で私を見つめていた。
「あなたたちごときが、ダクマー様を捕えられるわけがないでしょう」
コルドゥラが冷たく言い捨てた。ラーレはショックだったのか、驚愕に顔をひきつらせた後、下を向いて立ち去っていく。双子は私に一礼すると、そのままラーレを追いかけていった。
「コルドゥラ、ちょっと言いすぎだよ」
しかし、コルドゥラはラーレが去っていった場所を冷たく見つめた。
「才能のないあの人に言われっぱなしにはなれません。あの程度の努力しかしない方が私たちの訓練に口出しするのが間違っているのです」
容赦なく言い捨てるコルドゥラを見て、私は悲しくなる。剣があるとはいえ、勉強ができない私は、両親や兄、ホルストから見ると、ラーレと何が違うというのか。
「私もついこの間まで彼女と変わらなかった。頭を打って、やるべきことが見えたから前を向けるようになったけど、それまでは兄や妹をうらやむことしかできなかった。だから、ラーレの苦しみはよくわかるし、それを『努力不足だ』と言われるのはつらい」
私がつぶやくと、コルドゥラはバツの悪そうな顔をした。「今日はこれくらいにしておこう」というと、私はその場を離れていった。




