第38話 ビューロウ家の資質
おじい様は私たち一人ひとりを紹介するようだった。
最初に紹介したのは、ホルストだ。
「まず、イザークの息子のホルストです。この子はほとんどの属性魔法に対応できます。ビューロウの剣と合わせて独自の技を磨いております」
いきなり声を掛けられたにもかかわらず、ホルストは丁寧にお辞儀をした。
「こちらがブルーノの息子、デニスです。四属性すべてに適性があります。孫たちの中で一番私に似ているタイプだと思います」
おじい様に紹介されて、デニスは慌てて一礼した。
「そしてその妹のアメリーです。この子は、エルネスタの血を強く引いております。また、剣術の腕もかなりのものです。火を使った戦術はこの子が一番になるかと思います」
アメリーは孫の中で一番年下なのに、優雅に微笑んでみせた。
おじい様はラーレの隣に移動した。
「そしてこの子がホルストの姉のラーレです。火魔法と闇魔法に強い適正があります」
そう紹介されると、ラーレは慌てて頭を下げた。
おじい様は最後に私の隣に来ると、バプティスト様に紹介した。
「この子がダクマーです。身体強化を得意としております。また剣術の腕も、孫たちの中では随一でしょう」
おじい様は最後に私も紹介してくれた。でもやっぱり私とラーレは劣等生扱いなのかな。紹介の順番が最後だったし。
バプティスト様は私とラーレを頭の先からつま先までじっくりと見た。そして、おじい様に笑いかけた。
「バルトルドよ。ずいぶん、難しい子たちを育てておるな。色の濃すぎる子と、色がほとんどない子か。お前の息子たちは普通に優秀だが、この子たちは気を付けねばならんぞ」
バプティスト様の言葉にドキリとする。優秀な魔法使いは、見ただけで魔力量や素質を見破ると言われている。どうやらバプティスト様は、一目見て私たちの素質を見抜いたようだった。
私は下を向く。バプティスト様に、貴族失格だと思われたのではないだろうか。
「ダクマー、じゃったな。そう心配するな。お嬢ちゃんには貴族を名乗るにふさわしい魔力量がある。学園でしっかり学べば、王国貴族としてちゃんと義務を果たせるからの」
私はハッとして顔を上げた。バプティスト様は私に微笑みかけてくれた。そして私たち一人ひとりを眺めると、笑顔で話しかけてくれた。
「地脈を細かく操作できるのは確かに土魔法だ。土の素質があれば、地脈から魔力を取り出したり、魔力を使って土地を豊かにしたり防壁を作ることができるからの。だが、メンテナンスだけなら色が薄くても行える。まあ、その分魔力の量は必要じゃがの。お嬢ちゃんくらいの魔力量があるなら十分に可能じゃろう」
そういうとバプティスト様はニヤリと笑った。
「いやあ、バルトルドの孫は全員個性的だな。まあ、こやつの孫として生まれたなら運がいい。それぞれの個性に合った育成を、してくれるだろうからな」
そう言うバプティスト様は愉快そうに笑った。
「さて、仕事の後はお待ちかねの温泉だ。今回の視察はこれを楽しみにしておったのだ。しばらくはゆっくりさせてもらうぞ」
◆◆◆◆
その後1週間、バプティスト様はうちの領地でのんびり過ごした。ゆっくりとお湯につかり、ビューロウの料理に舌鼓を打った。
バプティスト様はいろんな話をしてくれた。話も面白くて、思わず笑ってしまうこともしばしばだった。デニスやホルストなんか、一緒に温泉に入ったりしてかなりなついていたように思う。
でも、さすがに1週間もいると時間切れらしい。バプティスト様は名残惜しそうにしながら、私たちに別れを告げた。
「さて、そろそろ帰らんと、カールマンの奴がうるさいからの。秘伝の宝玉も、持ち出したままだといかんし」
そういうと、少し寂しそうに屋敷を振り返った。
王家には秘宝と言うべき宝具がある。バプティスト様が持ってきた宝玉もその一つだ。なんでも、それを使えばかなり強固な結界を張れる。地脈の制御装置を新たに作るときには必須ともいえる法具らしい。
まあ、王家の宝具では光輝の杖なんかが有名だけどね。これを使えば光魔法がすごく強化され、闇魔ですらも簡単に倒せるようになるみたいだ。伝説のアルヌルフ王なんかは、その杖を使ってかなりの戦果を挙げたそうだけどね。
「バプティスト様! また近くに来た時はぜひ立ち寄ってください! みんなで温泉に入れる日を楽しみにしています!」
ホルストが元気に声をかけた。この1週間ですっかりバプティスト様になついたんだよね。
名残惜しく感じていたのは他の孫も同じようで、みんなしきりに声をかけている。もちろん、私も同じだ。なんか、田舎のおじいさんと別れるときみたいに、さみしく感じていたんだよね。
「はっはっは。ではまたな。温泉に入れる日を楽しみにしておるぞ。ダクマー嬢ちゃんもラーレ嬢ちゃんも、しっかり成長すればちゃんと貴族として認められるからな。くさらず、頑張るのじゃぞ」
私もラーレも、バプティスト様の人柄にすっかり魅了されていた。最初はさっさと帰らないかな、とか思ってたけど、今はまた訪ねてくれる日を楽しみにしている。
「ではまた! さらばじゃ!」
そう言うと、バプティスト様は馬車に乗り込んだ。私たちはバプティスト様との別れを惜しみながら、馬車が見えなくなるまで手を振り続けた。
◆◆◆◆
バプティスト様の馬車が見えなくなったとき、私はなんともなしにつぶやいた。
「王族って、てっきりもっと偉そうにしている人かと思ったけど、バプティスト様は本当に親しみやすかったね。あんまり警戒しすぎる必要はなかったのかな」
デニスがぎょっとした顔で私を見た。
「ダクマー。そんなことを考えていたのか。王族の方はおじい様が尊敬するくらいだから、いい人ばかりに決まっているだろう」
デニスはそう言うが、それを聞いたおじい様は首を振る。
「いや。ダクマーの懸念はもっともじゃよ。国王陛下やバプティスト様は話の分かる方だが、王族の方のすうべてがそういうわけではない。中央や西の貴族は、ワシらとは考え方が根本から違うからの」
私たち5人は驚いておじい様を振り返る。
「お前たちは学園に通うために中央に行くことになるが、気を付けなさい。特に第一王子のヒエロニムス様は、身分が下の者の扱いがかなり厳しいと聞く。その息子のライムント様も、同じような考えを持っているらしい。幸いなことに、ワシら東の貴族にはロレーヌ家がおる。なにかあったら、必ずロレーヌ家を頼りなさい。きっと助けてくれるはずじゃからの」




