第370話 メルヒオーラとの死闘 ※ ギルベルト視点
※ ギルベルト視点
「ふん!」
「くっ! またかよ!」
メルヒオーラが気を吐くたびに奴の周りの土が隆起する。一刻一刻と変わる地形に、オイゲンが戸惑っている様子が見て取れた。
元テンプルナイトの土魔法使いというのは伊達ではない。メルヒオーラはあらかじめ地面に魔力を放っていたのだろう。足を踏みしめるたびに土から壁が出現しているのだ。
「くっ! ラーレさんが調べたところによると、こいつは確か過去にも土魔法で一瞬にして迷宮を作り上げたんだってな! 周りの地形を操るなんてわけないってか!」
「うむむ! このような敵がいるのを知らせてくれるとはさすが我らが姫! 相変わらず素晴らしい知識だな!」
南の連中のラーレさんへの傾倒具合がすさまじい。まあ、彼女が学園で穏やかに過ごせたのは彼らの影からのサポートがあったためらしいから、ある程度はしょうがないと思うが・・・。
「いや気に入らねえな! ラーレさんはオレたち東の貴族なんだからな! 学園で彼女が無事に過ごせたのはロレーヌの次期当主様が睨みを付けていたからだから!」
「ふん! あの方が大過なく過ごせたのは同じクラスの俺たちがいたからこそだ! フェーベもなんだかんだ言って姫をきちんと守っていたんだしな! それに気づいたら、姫だって南の力を頼りにしてくれるはずさ!」
ぐぬぬぬぬ! 確かにあれだけの美貌を持つラーレさんが中央や西の貴族の干渉を受けなかったのは南の貴族たちの奮闘もあったかもしれない。万が一、ラーレさんが暴れていたら、確実に死人が出ていたと思うしな。
「ふふ。恋のさや当てか。若いな。ああそうだ。若者が集まれば自然と恋の話になる。私も、よく若い団員たちの相談に乗ったものだ。的確な返しができたとは思わぬがな」
メルヒオーラが苦笑しながらつぶやいた。そう言えばコイツはテンプルナイトの団長的立場だったはずだよな。てことは、若い団員の相談に乗ることも多かったのかもしれない。
「だが、こんな日が訪れるとは思わなかったぞ。世界樹様の僕としてしか戦えなかった私が、若者とはいえ王国の精鋭たちと戦える日が来るとはな。悪いが、全力でやらせてもらうぞ。こんな状況だが、私の晴れ舞台なのだからな。意に沿わぬとはいえ、これは公国と王国の勝負なのだからな」
メルヒオーラが悲しげに笑った。僕は何も言えなくなるが、このスキを見逃すようなオイゲンではない。素早く突進して攻撃を仕掛けようとするが、その進路は地面から現れた壁にあっさりと防がれた。
「くそ! 地面から次々と壁を生やしやがって! これじゃあ、近づくこともできやしない!」
メルヒオーラは巧みだった。オイゲンの進路を読んで的確に壁を生やし、勢いを殺している。四天王ほど強固な魔力障壁は生み出せないものの、巧みな土魔法ででこっちの攻撃を確実に防いでいるのだ。
「地面にばら撒かれた魔力がある限り、こっちの攻撃は届かないってことか! だったら!」
僕は不敵に笑ってみせる。こんな時こそ風魔法の出番だ! 風魔法が探索にしか使えないとは思うなよ! 風はあらゆる面で役に立つ魔法なんだからな!
「うおおおおおおおおおお!」
僕は魔力を大量に練り込んだ。足元からは緑の魔法陣が展開される。この魔法を使って、この戦いを有利に進めてやる!
「いけ! スタードサージェン!」
僕はメルヒオーラ目掛けて風魔法を展開した。メルヒオーラの周りの空気が一瞬にしてなくなっていく。この魔法は、領地対抗戦でリカルダを倒したものだ。空間を切り取って真空状態を作り出す者なんだけど、この場においては別の効果もある!
「!!!!」
メルヒオーラが驚愕しながら何かを叫んだ。空気がないから何も伝えられないけど、地面に撒かれたはずのあいつの魔力が飛散したのが分かるはずだ!
「くっ! さすがにやるな! 風魔法で、地面に撒かれたあいつの土の魔力を吹き飛ばしたのかよ!」
オイゲンの叫びに僕はにやりと笑った。
あいつの言う通りだ。この魔法は真空状態を作り出すだけではない! その場に接地された魔力を消し飛ばす効果もあるんだ!
「・・・・・・!」
メルヒオーラが何やら叫びながら突進してくる。だが、隙だらけだぜ!
「食らいな! ベル・ウィンド!」
僕はメルヒオーラの体目掛けて圧縮された空気を解き放った!
「ちっ! さすがは風の魔法家といったところか! でもこれなら!」
オイゲンが悔し気に言い捨てた。僕の風魔法なら、あいつの魔力障壁を打ち破って致命傷を与えられるはずなのだ!
「・・・・・・!」
しかし、体勢が崩れているにもかかわらず、メルヒオーラの手に再び魔力障壁が集まっていく! そして裏拳を僕の風魔法にぶつけると、勢いよく拳を振り抜いた! かなりのスピードが出ていたにもかかわらず、僕の風魔法は明後日の方向に飛んでいく。メルヒオーラの魔力障壁は、またしても僕の風魔法をそらすことに成功したのだ!
「くそっ! あのタイミングでも魔法をそらせるのかよ! 確実に仕留めたと思ったのに!」
オイゲンが悔し気に吐き捨てた。
僕も唇をかみしめた。タイミングはぴったりだったし、威力も申し分なかった。それでも、上位闇魔のメルヒオーラには傷一つ付けられなかったのだ。
「威力も早さも申し分なかったはずだ。それでも簡単にそらされた。小さく圧縮した魔力では、あいつに有効打を与えられないということか・・・」
僕は静かにメルヒオーラを睨んだ。あいつを止めるには、ベル・ウィンドでは不十分だ。あいつが反らせないくらい巨大な魔力で攻撃する必要がある!
「オイゲン先輩! 力を貸してくれ! ちょっとばかり強力な魔法を使ってやる。あいつが反らせないくらい、強力な風魔法で仕留めてやるさ!」
僕の宣言を聞いて、オイゲンが不敵な笑みを浮かべた。
「はっ! ウィントの小僧が生意気に・・・。いいぜ! やって見ろよ! 俺がまた、魔法を当てるだけのスキを作ってやるさ。あいつの土壁も防いでくれたことだしな」
オイゲンの返事に、僕は黙ってうなずいた。
こんなところで足止めを食っているわけにはいかない! 四天王に、魔王に、世界樹。僕たちが倒さなければならない敵はまだまだ多いのだから!




