第369話 テンプルナイトのメルヒオーラ ※ ギルベルト視点
しばらく更新できずにすみません。再開します。
※ ギルベルト視点
「おらあ! 下がれよ!」
「くっ! まだ若者のくせにやるではないか!」
メルヒオーラとの戦いが始まった。意外なことにこちらが押していた。ハルバードを手に攻撃を仕掛けるメルヒオーラにオイゲンが果敢に戦っている。魔力障壁に阻害されて攻撃こそは通らないが、メルヒオーラの攻撃を的確に防ぎ、こちらへの移動を阻害してくれているのだ。
「!! 今だ! ベル・ウィンド!」
しかも的確な動きで僕をサポートしてくれている! 僕が攻撃するためのスキを作り、しかもこちらへの攻撃を的確に防ぐその姿勢に感嘆の思いを隠せなかった。長年、星持ちのハイデマリー様と連携しているだけあって、強力な魔法使いとの共闘は得意分野なのかもしれない。
「くっ! やる!」
僕の魔法はメルヒオーラの魔力障壁を打ち破った! 神鉄のフルプレートで守られているため有効打は与えられなかったものの、メルヒオーラに魔法を通すことができたんだ! うまくすれば、この魔法でメルヒオーラを倒すことができるかもしれない!
「この障壁は星持ちと呼ばれる魔法使いの攻撃すらも防げるのだがな。弱点属性とはいえ、まさか我が魔力障壁が打ち破られるとは。貴様は、星持ち以上の力があるというのか」
「あんたが現役だったころはレベル4すらも魔法が使えなかったようだがな! 今は違う! 僕のようなレベル5だって戦える時代が来ているんだよ!」
メルヒオーラの驚愕に、僕は嘲笑を持って答えた。
「ふっ! 今はまだ、レベル5で風魔法を使えるのはコイツくらいだがな! だが、この場ではそれで十分だ! 悪いがこの隙に取らせてもらう!」
オイゲンが突進する。僕が魔力障壁を壊したスキをついてメルヒオーラにダメージを合立てるつもりなのだ!
しかし・・・。
「ふん! まだ甘いな!」
メルヒオーラが足を踏みしめると、地面から一瞬にして壁が生えてくる! 急に壁が現われ、オイゲンがあっさりと足止めされてしまった。
さらに・・・。
「ぐおおおおおおおお!」
メルヒオーラがハルバードを振り回す! 横薙ぎの一撃はオイゲンとの間に合った壁ごとオイゲンを攻撃したのだ! オイゲンは慌てて盾で防いだが、その攻撃に吹き飛ばされて態勢を崩してしまう。
まずい! 今追撃されたら!
「くそっ! やらせるかよ!」
僕は再び風魔法を放つ。風魔法は再び展開されたメルヒオーラの魔力障壁であっさりと防がれるが、オイゲンへの攻撃を防ぐことに成功した。
オイゲンは素早く体勢を整えて武器をメルヒオーラに突き付けた。
「すまんな。助かった。しかしさすがはレベル5と言ったところか。まあ姫やハイデマリー様にはかなわんがな」
いやラーレさんと比べられるときついんだけど・・・。彼女、弱点属性のはずの水の魔力障壁も簡単に打ち破るらしいし。ハイデマリー様も規格外だ。あの人はすべての魔法を自分用にカスタマイズしている。レベル4の自分が最大限の威力を出せるよう一つ一つの魔法陣を自分で改良しているんだ。その上、使える魔法も幅広い。あの若さで後継に指名されるのは伊達ではないのだ。
「こうも簡単にこちらの攻撃が防がれるとはな。まさか魔力過多と呼ばれた貴様らがこれほどまでの力を発揮するとは・・・。時代は変わるものだな」
メルヒオーラが感心したようにつぶやいた。
「まあ、魔法の進化もあるが、こいつらが魔法を扱えるようになったのは耐えず訓練してきたからこそさ。ハイデマリー様も姫もこいつですらも、魔法を扱うために徹底した修業を行っている。何も考えずに魔法を使えるレベル3とは事情が全く違うのだからな」
僕は驚いてオイゲンを見返した。まさか、こいつから僕を援護するような言葉が効けるとは思わなかった。
「俺も伊達にハイデマリー様の護衛を務めてきたわけじゃねえよ。あの方が今のように魔法を使えるようになるまでどれだけ努力してきたか知っている。どれほどの集中力をもって操作を鍛えていたかもな。だからあの方よりレベルが高いお前や姫がどれだけ努力してきたかは想像に難くない」
伊達にハイデマリー様との護衛を長年務めてきたわけではないということか。
「そうだな。魔法が使えるまでは正直きつかったさ。僕の場合は家族が全面的に支援してくれたこともあったしさ。それに、素晴らしい本との出会いもあったからさ」
思い出すのは、魔術構成の仕組み――バルトルド様の著書だ。魔力過多の人間が普通に魔法を使えるまでの道のりが書かれていて、くじけそうになったときに読み返すことで何度も励まされたんだよな。
「振り返ってみるとバルトルド様には小さいころからお世話になってるんだよな。魔力を暴走させないための魔道具や修行のための魔力板も、バルトルド様が作ってくれたそうだし。そういや、あの頃父さんがバルトルド様に面会に行ったんだよな」
「おい! ぼうっとせずに集中しろ! 今は戦闘中だぞ!」
過去を思い出してしんみりする僕を、オイゲンが叱咤した。慌ててメルヒオーラを確認すると、ちょうど攻撃後にスキができているところだった。
「おおう! チャンス到来! 行け! ベル・ウィンド!」
この魔法はバルトルド様が僕のために作ってくれたものだ。発現するのは風魔法の基礎であるウィンドと同じ大きさの弾だが、密度は段違い。これを直撃させさえすれば、闇魔の魔力障壁だって打ち破れる!
風の弾が、メルヒオーラに迫る!
「うおおおおおおおお!」
メルヒオーラは腕に魔力障壁を集中させている! 全身を覆うはずの魔力障壁が、密度を増して腕の周りに発現しているのだ!
「なっ! 魔力障壁で盾を作った? バカな! そんなことができるはずがない!」
オイゲンが思わず叫んだ。
僕も驚いていた。通常の魔力障壁は体の周りに発生するものであって、ああいうふうに盾のように扱えるものじゃない。まさか、魔力障壁を器用に扱うことができるなんて!
「ふぬ! どらああああああ!」
メルヒオーラは風の弾を殴りつけると、その勢いのまま腕を振り抜いた! 風の弾を受け止めるのではなく、軌道をそらしたのだ! くっ! 正面から受け止めたなら打ち破れるのに、あんなふうに軌道をそらされたのならダメージを与えることができない!
メルヒオーラは腕を振り回すと、こちらに向かって不器用に笑いかけた。
「やはり支配の魔法とは厄介なものだな。頭でまずいと感じたら体が勝手に動いてしまう。私が無理だと感じたのなら、それに対応した技を使ってしまうのだ」
メルヒオーラは悔し気だった。
「悪いが、我らテンプルナイトはずっと世界樹の魔力障壁を扱ってきた。貴様らが闇魔と呼んでいる存在よりも何倍も、魔力障壁を扱う術は伝わっているのだ。魔力障壁の強固さは四天王には及ばんが、技術を使うことで彼らに匹敵する防御技術を扱えるということだ。簡単に倒されてやれずに申し訳ないな」
メルヒオーラは眉を顰めながら言い捨てたのだった。




