第364話 城へと続く隠し通路
洞窟の中は一本道だった。
「えっと、ずいぶんと昇ったり下ったりみたいだけど、この道って城まで続いているの?」
「この道は城下町の寺院へと続くものでござる。寺院の地下には城に通じる隠し通路があるそうでござるよ。まあ、シュテファーニエの情報が正しいならばでござるが」
おおう。そういうことになっているのね。
私たちが洞窟を出ると、そこはさびれた庭だった。人の手入れなんてほとんどないような、雑草なんかも生い茂っているようなんだけど・・・。
「この寺院に立ち寄る人間なんてほとんどいないでござる。魔物が闊歩するような町で、住んでいる人間はごくごく少数ということでござるが・・・」
へ? この町に人間が住んでいるの? いや、闇魔の本拠地だから、人間がいるなんて思わなかったよ!
驚いている私に、ヨッヘムが苦笑した。
「ここには少数だけど少しだけ人間が住んでいるでござるよ。まあ、町には魔物が歩き回っているし、闇魔なんかもいたりで自由はほとんどないそうでござるが・・・。ある意味特権階級で、何不自由なく過ごせるようでござる。選定条件はかなり厳しく、闇魔に逆らうことは許されていないそうでござる」
世界樹が人間を優遇して、しかもあらゆる特権が与えられている? 闇魔って、この島の住民を迫害してるんじゃないの?
「この城下町で暮らすための条件というのは、魔力量でござるよ。資質に関わらず、魔力量が多いものはここで暮らすことが許されているらしい。まあ、特権階級に慣れきってこちらを敵視する人間も多いでござるから、接触は避けた方が無難でござるからな」
世界樹が魔力の多い人間を集めるってどういうこと?
そんな疑問を感じていると、ヨッヘムは寺院へと突き進んでいく。私たちは慌てて彼の後に続くのだった。
◆◆◆◆
寺院に入り、もくもくと向かった先にあったのは、地下へと続く下り階段だった。
階段を下りて、しばらく進むと、すぐに行き止まりになった。かなり広い場所なんだけど、先へと続くはずの道はどこにもなかったんだ。
ヨッヘムはその先の一角に私たちを案内した。
「ここが、シュテファーニエが示した場所になるはずでござる! あの暗号は、この場所を指しているでござるよ!」
えっと、どういうこと? 見た感じ、ここには何もないんだけど? シュテファーニエの暗号が間違えていたってこと?
私が戸惑っていると、ギルベルトが自信満々に近寄ってきた。
「ここは僕の出番のようだな。隠し通路や探索と言えば、風魔法の出番だからさ!」
そう言って私を押しのけると、そのまま行き止まりの壁を確認し出した。見たり触ったりしているけど、何の変哲もない行き止まりに見えるんだけど・・・。
「あるかないか分からないのと、あると分かって探すのでは成果は変わってくる。ここにさらなる抜け道があるという情報があるなら、手立てはあるってことさ!」
ギルベルトはにやりと笑うと、足元に緑の魔法陣を展開した。その魔法陣は、ギルベルトの力を急速に高めているようだった。
「ははっ! 風魔法のレベル5の力、見せてやるさ! この資質を活かすための方法は、バルトルド様が考えてくれたことだしな!」
ギルベルトめ! こんな時でもおじい様を称えるのか! 本当に、おじい様のファンだよね!
「行くぜ! ゲヘイム・オーフドゥケン!」
ギルベルトが頭上に緑の魔力を展開する。緑の魔力は四方に飛び散り、壁にぶつかると壁の一部に扉のような輪郭を形作った。
「え? なにあれ?」
私が魔力で示された壁を触ると、突如として地響きが鳴り、壁の一部がなくなってしまった。壁の奥は通路になっているようで、いきなり現れた壁に動揺を隠せなかった。
「え? なんなのこれ? いきなり隠し通路が現われたんだけど!」
「ふっふっふ! この魔法は、隠された道を探し出すものなんだ! バルトルド様が開発してくれたんだけど、範囲が狭いのが欠点でね。でも、隠された扉が近くにあるのならこの通りさ!」
ドヤ顔で言うギルベルトにちょっとイラっとするけど、これは正直すんごいと思う。何しろ王の影が見つけられなかった隠し通路を見つけてしまったのだから。
「でも、この通路が城につながっているとは限んなくない? もしかしたら、全然別の場所につながったりするんじゃないの?」
私が疑問を口にすると、ギルベルトは一瞬悩んだが、自信に満ちた顔でこっちを見返してきた。
「ふっ! 任せろよ! この道がどこに通じているのかも、すぐに調べてやるさ!」
そして再び足元に緑の魔法陣を展開すると、自信満々な顔でその魔法を力強く叫んだ!
「行くぜ! ヴィア・ゲラーデ!」
まばゆいばかりの緑の魔力があたりに充満した。そして魔力はギルベルトの頭上に集結すると、次の瞬間には四方に飛び散っていった。
沈黙があたりを支配した。しばらく時間だけが過ぎていってるようだけど・・・。
「この場に留まり続けるのはまずいんじゃない? 地上がら敵が来ないとも限らないんだし」
ハイデマリーがあきれたように言った。まあ、そうなんだよね。念のため、何名かの護衛が寺院の入り口を見張っているけど、このまま何時間も待機するのは危険だと思う。
「まあ落ち着けって。無警戒に進むわけにはいかないだろう? 道の探索はすぐにおわるから」
そう言っている傍から魔力が戻ってきた。ギルベルトは魔力を受け止めると、ニヤリと笑った。
「今確認したぜ! この道を通れば城に辿り着くらしいぜ! 城の内部までは様子が分からなかったけど、ここを通れば城に着けるのは間違いないと思う! この先の道は任せろ! ばっちりエスコートしてやるさ!」
これが風魔法の力!? いや風魔法が探索には欠かせないと聞いていたけど、一発の魔法でこんなに簡単に道が分かるなんて!
「さ、さすがウィント家の後継でござるな。拙者たちが時間をかけて調査するはずの場所を、こんなに簡単に示すとは・・・」
ヨッヘムの驚いた声を上げている。なんかヨッヘムたちは地道な調査を続けていたみたいだから、こんなに簡単に道を調べられたら戸惑うよね。
だがその時だった。寺院の入り口から、見張っていたはずの戦士がこっちに駆け込んできたのだ。
その戦士は慌てた様子で、緊急事態を報告してきた。
「大変です! この寺院に、大量の魔物が押し寄せてきています! どうやら、魔物たちは我々が侵入したことに気づいている様子! 先頭には、あの魔将のブルクハルトの姿もあります!」
くっ!? もう気づいたか! しかもブルクハルトほどの猛者がこっちに向かっているなんて!
唇をかみしめる私に、一つの影がそっと頭を下げてきた。コルドゥラだ。
「お嬢様。ここは私たち選任武官にお任せください。私たちがここで、ブルクハルトたちを止めてみせます。決して、追撃などさせませんから」
驚いて見返すと、コルドゥラはそっと私に微笑みかけた。
「あなたたちには使命がある。ここで足踏みしているわけにはいかないはずでしょう。大丈夫。私たちも必ず使命を果たしてみせます」
そう言ってほほ笑むコルドゥラに、私は何も言えなくなった。
「ったく。ビューロウの剣士ってのは思い切りが良すぎるぜ。簡単に命を捨てようってんだからよ」
あきれたようにつぶやいたのは、ギルベルトの側近だった。
「若。俺たちもここで魔物たちを足止めします。今回のように、この先も若の力が必要とされる時はあるはずです。俺たちのことは気にせず、若たちも使命を果たしてくだせぇ。なあに、この程度の敵なんぞ俺達の敵じゃねえ。きっちり倒して、若たちの後を追わせてもらいますから」
そう言って、ギルベルトの側近は私たちに笑いかけたのだった。




