第340話 ヨルン・ロレーヌの追憶16
ヨルン・ロレーヌの追憶16
「くっ! 炎よ!」
「あまい! ザウバー・フォーセッゼン!」
アレクシスの火魔法を私の水魔法が相殺した。そして同時に発現した2発の魔法が、アレクシスの方とわき腹をかすめていく!
アレクシスが思わず蹲り、そして私を見上げた。私の魔法は致命傷にはほど遠かったが、それでもアレクシスに大きなダメージを与えたようだった。
「お、おのれ! 王国の深淵! こちらの魔法を確実に相殺するとは!」
歯噛みしているアレクシスを、私は冷たい目で睨んだ。
「くそっ! どうする? 中位魔法は使えない。奴の下位魔法で出鼻を完全に崩される。上位魔法など、いうまでもない! 魔法を構築している間に確実に下位魔法を食らってしまう! やはり、魔法を構築している間を守ってくれる護衛がいないと!」
アレクシスがぶつぶつ言っている間に魔法を放つが、アレクシスは素早い動作で避けてしまう。ちぃ! 見かけによらず身軽な!
「や、やはり魔法使いには頼りになる護衛が不可欠なのか! ブ、ブルクハルト!」
アレクシスがシュテファーニエと戦うブルクハルトを呼び掛けた。
向こうでも激しい戦闘を繰り広げられていた。
「うおおおおおおおおお!」
ブルクハルトが勢いよく大剣を振り上げた。そして、気合とともに振り下ろすが――。
「はっ! そんな大ぶりの攻撃た当たるかよ!」
シュテファーニエがあっさりと下がってお返しとばかりに棒を突きつけた!
「ぐっ! 貴様!」
シュテファーニエの攻撃は致命傷には届かないが、ダメージは確実に蓄積されている。ブルクハルトの攻撃は、足運び、斬撃共にすさまじく鋭いものだったが、シュテファーニエは簡単にさばいて見せた。そしてさらには・・・。
「ほらよ! 食らいな! 土礫よ!」
シュテファーニエが左手を突き出すと、展開した魔法陣から5発の土礫が発現し、ブルクハルトに向かって発射された。ブルクハルトは巨体に似合わぬ素早さで躱すが、土礫はあっさりとブルクハルトの方を掠めていく。
「こ、小娘が! おのれ!」
すさまじい形相でシュテファーニエを睨むが、彼女は見下しながら指を突きつけた。
「はっ! 帝国の将軍だか何だか知らないが、あたしにかかればこんなもんさ! 私はおろか、親父にも手も足も出ない! アンタは、ここであたしに倒されちゃいな!」
勢いごんだシュテファーニエが胸を張ってブルクハルトを挑発している。
「なんかみんな勘違いしてっけど、あたしが得意なのは近接戦闘なんだよ! アンタ程度の攻撃なら、この棒であっさり止めてやるさ! そして次、アンタが攻撃してきたときが最後だかんな!」
シュテファーニエの言葉に、ブルクハルトは歯噛みしているみたいだった。
シュテファーニエがここまで有利に戦いを進めているのにはいくつかの理由がある。まずは属性相性。水で強化するブルクハルトに対し、シュテファーニエは土で身体強化を行っている。あれでは、武器がぶつかったときに相性の差で土属性のシュテファーニエが打ち勝てるのだ。
「はっ! 食らいな!」
そしてあの土魔法だ。左手を突き出したと同時に何発もの土礫が飛び出していく。魔法構築のスピード、土礫の高度、そして弾丸の数と発射速度! すさまじいばかりの魔法技術に、ブルクハルトは完全に躱すことができない。かろうじて避けているようだが、あのままではいつか捕まってしまうだろう。
「残念だが、向こうからの増援は期待できそうにないな。お前の魔法技術では私には及ばない。お前は私には及ばない。このまま一気に葬ってやるさ」
私が言うと、アレクシスが悔し気に唇をかみしめた。
「く、くそっ! 魔法技術では王国の深淵に及ばないということか! しかし、私はそれだけではない! 私にだって、貴様に負けない技術があるのだよ!」
そう言うと、アレクシスは目の前に魔法陣を構築した。私はとっさに縁談を放つが、魔法陣から現われた何かが盾となり、私の攻撃を防いでしまったのだ。
「くははは! 見たか! わが魔法を! 私の本流は召喚にこそある! 私の魔物で、お前たちごとき倒して差し上げよう!」
魔法陣から現れたのは、大きな大きな門だった。これは召喚門と呼ばれる門で、特定の場所をつなげる効果がある。帝国の魔法使いは、門の中に魔物を潜ませて敵を攻撃させてくるのだ!
「開け! 召喚門よ! 私の敵を打倒すのだ!」
アレクシスが言うと、門がゆっくりと開かれた。そしてその中から、数匹の蟻たちがゆっくりと歩みを進めてきたのだ!
「お前たちを倒すために特別に調教した魔物だ! 名を、スクラム・エッセンという! この子たちにかかれば世界樹の守りも貴様らの魔法もものともしない! 大人しく、消え去るがいい!」
アレクシスの言葉で、戦いは新たな局面を迎えたのだった。
「まずは小手調べ! ザウバー・フォーセッゼン!」
私が右手をかざすと、3発の水弾が同時に発現する。そして、そのまま勢いよく蟻に向かって突き進む。
ドガ! ドガガガガ!
水弾は狙い違わずに蟻に直撃する。蟻は大きくのけぞるが・・・。
「シャアアアアアアアアアアアアアアアア!」
大したダメージも与えられずにいようで、蟻は全く怯むことなくこちらを威嚇してくる。
「は、はっはっはっは! 私の子を突き飛ばしたのは見事だが、さすがにこの装甲は崩せないようだな! このまま一気に葬ってやるさ! 行け! 私の子供たち! 王国の深淵を、このまま倒すのだ!」
アレクシスが私を指さすと、蟻たちはこちらを威嚇しながら突き進んでくる!
「くっ! 私の魔法でもびくともしないとは! こちらの攻撃が、まるで通用しないとは!」
言いながら、わたしは継ぎの魔法を構築する。私の魔法ではあの蟻にダメージを与えることはできない。それならそれで、やりようというものがある!
「くらえ! エイス・フェッシェレン!」
私の氷魔法が蟻の足に向かって突き進む!
蟻の足が一瞬にして凍り付く。蟻は動こうともがくが、足が地面に繋ぎ止められて動けないようだった。
「なっ! 一瞬にして足止めを! あの子たちの行動を、一瞬にして止めたというのか!」
ふっ! 魔法使いの仕事は、相手を倒すことだけにあるわけではない。魔物が動けないよう足止めするのも、魔法使いの重要な仕事なのだ!
「フレイムバースト!」
そして動けない魔物を、強力な魔法が追撃する。
いつの間にか現れたナターナエルが、蟻の魔物に強力な火魔法を放ったのだ!
「今です! 撤退を! この町を離れるのです!」
そう叫び、私たちのほうに駆け出してきたのはランドルフ様だった。その後ろにはエデルガルド様とアル殿下もいて、必死の形相で走っている。ユリアンも、わき腹を押さえながら付いて行っていた。
弟の無事を確認でき、少し安心のため息を吐いた。
「兄さん! 離して! 私、行かなきゃ! あの子のそばで、できることがまだあるのよ!」
アマ―リアが泣きながら叫んでいた。彼女を抱きかかえるレインカネルは、問答無用で町の外へ向かって駆け出していく。
私は安堵の息を吐くと、そっとアレクシスたちを振り返った。
「くっ! 逃げようというのですか! この状況で!? 私たちから、逃げられると思っているのですか!」
アレクシスが叫んだ。
状況はこちらに不利だった。足止めしたとはいえ蟻はまだ健在だし、ブルクハルトもアレクシスもまだ健在だ。戦いを有利に進めていたとはいえ、私とシュテファーニエを逃がしてくれるとは思えない。
「だがね。こんな時に何とかするのが、魔法使いという存在なのだよ」
私が杖を振るうと、青い魔法陣が展開された。
「ニベイル」
私の言葉とともに魔法陣から水の塊が現われ、一瞬で破裂する。
水は一瞬で広がっていくと、あたりに濃い霧が充満していく。
「うお! これでは前が見えぬ!」
ブルクハルトが絶句している。
「はっ! 今日はこのくらいにしておいてやるよ! じゃあな!」
シュテファーニエは一瞬で私の意図を読み取り、町の外に向かって駆け出していく。私も彼女の後を追ってそのまま逃走を開始した。後衛とは言え、私も魔法使い。身体強化の水魔法はお手の物だというのだから。
「おのれ! ヨルン・ロレーヌ! この借りは必ず返してやるぞ! 次こそは、お前の首を捧げさせてもらう!」
アレクシスの絶叫を聞きながら、私たちは公都へ向かって駆け出したのだった。




